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学年一の美少女が僕に惚れてるなんて信じたくない!  作者: 蒼原凉
どうして義妹(姉)ができるんだ!
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シリアスな雰囲気が台無しだ!

「いてっ」

 背中に衝撃が来て目が覚めた。えっと、知ってる天井だ。体を起こしてあたりを見渡す。ああ、そうか、僕はソファーから落ちたのか。そう言えば、あんまり寝相はよくなかった気がする。というか、なんでソファーで寝てたんだっけ?

 そうだった。なんやかんや紆余曲折会った末、僕は女子部屋におじゃまする羽目になったのである。何やってたんだろ。

 近くに置いといたスマホ時刻を確認してみると日付が変わったところだった。もうひと眠りしようと借りていた布団を手にとってところでふと気がついた。

 ベランダに続く引き戸が開いている。誰かがベランダにいるのだろうか。そんなことを考えると眠気が覚めてくる。そういや、今日すごい寝てた気がする。そりゃ、眠れない、か。

 そんなことを考えながらベランダを覗いてみると、浴衣を身にまとった樟葉先輩が一人で景色を眺めていた。ちょっと憂い顔の横顔が艶っぽいと思ってしまったのは内緒だ。にしてもチューハイの便をまだ隠し持ってたんですか、あなたは。

 いや、十条さんが全部没収したはず。だったらジュースだよね。うん。

「樟葉先輩、こんなところで何やってるんですか? 一人で酒盛りですか?」

「あ、ゆーくん。ちょっと、ね?」

 声をかけてみると暗がりでよくわからないが少しはにかんだように見えた。

「それより、ゆーくんも何か飲む? ぶどうとリンゴがあるけど」

 そう言って2本缶を手に取る。それじゃあ喉も乾いてるし厚意に甘えるとしようか。

「それじゃあリンゴを」

「はい」

 そう言って投げ渡された。つい果汁の割合を確認する。

 えっとなになに、果汁1%で、アルコール度数8%か。ってアルコール度数8%!?

「これお酒じゃないですか!」

「そうだよ、ゆーくんも飲むでしょ?」

「飲みませんよ! というか全部没収されましたよね!」

 やけに艶っぽいと思ったのはそのせいか! それからまた買ってきたのか! 犯罪だよ!

「ああ、それなら未悠ちゃんの荷物に隠しといたからね」

「何やってるんですか!」

 この人、異常なまでに飲酒にこだわるな。

「それより、ゆーくんは飲まないの?」

「飲みませんよ! お酒が入ってるものなんて!」

「まあ、一応ノンアルコールのもあるけど」

「あるんかい!」

 そう突っ込むと今度こそノンアルコールのぶどうジュースをパスされる。これがぶどうになってるのはちょっとした意趣返しか?

「まったく、油断も隙も無いです」

「まあ、それが私だからね?」

 そう言ったけれど、何かちょっと晴れない様子だった。普段なら全く見せない表情を見せるのはお酒のせいか、旅行のせいか、散々馬鹿をやったせいかそれとも全部か。

「何か悩み事でもあるんですか? だったら聞きますよ」

 プルタブを開けながら欄干にもたれる。どうやら僕も、大分雰囲気に呑まれているのかもしれない。

「悩み、か」

 樟葉先輩がそう言ったのもそのおかげだったんだろう。

「それじゃあ、話してみよっかな」

「僕でよければ聞きますよ」

「そだね」

 そう言って樟葉先輩は桃のチューハイを一気に煽ると、深く溜息をついた。

「私はさ、昔っからこんな性格だから、親からも艶気のかけらもないって言われててさ」

「ああ、それは何となくわかります」

「何気に酷いね」

 心の声が漏れる。でも、樟葉先輩もたいがい酷いと思う。

「まあ、事実だから仕方ないんだけどね。中学の時に告白したら、友達としか見れないって言われたし」

「ああ」

 なるほど、確かに。僕が恋愛OKだったとしても、樟葉先輩は異性として意識できない気がする。

「別にそれはいいんだよ。これはこれで楽しいし。でもたまには人肌恋しくなることだってある。具体的には恋人といちゃついてみたいとか」

 樟葉先輩が言う。そんなことを考えてたんですね。想像もつかないや。

「高校では変えてやるって思ったたんだけどね。実際、入学した当初はユッキーを狙ってたんだけどさ、でもリンが出てきて。そしたらその二人をからかうのが楽しくなっちゃってさ。気が付いたら二人がくっついて私はあぶれだしちゃいましたとさ」

「はあ、それは、なんといっていいやら」

 何となく、この人を誤解していたのかもしれない。いつも能天気で、天才で、馬鹿で、楽しいことには目がない樟葉先輩だけど、でももうちょっと恋愛したいって思ってるのか。そうやって悩んでいるのか。そう思った。

「恋愛なんて、そんなにいいものとは思わないですけどね」

「まあ、そういう人もいるよね。それに、悠杜君には未悠ちゃんがいるわけだし、寝取りは趣味じゃないし。神話の世界じゃ普通だけどさ」

 あれ、今なんか変なこと言わなかった?

「私も、そういうものなんだって理解してる。まあ、時々? 今日みたいになることはあるけど、今のところ恋愛はいいかなって」

 そう言って、樟葉先輩は笑った。別に聞き上手なんかじゃないし、励ますのも得意な僕じゃないけど、少しだけ力になれた、そんな気がした。そして、少し迷いが取れて、晴れやかになったように見えた。

 そう思ったのが間違いだったらしい。

「だから、恋愛は諦めて、悠杜君の貞操だけもらうことにするよ」

「ちょっ、何してるんですか!?」

 いきなり上にのしかかられる。て、え、ナニコレ!?

「大丈夫、初めてなのは私も一緒だから」

「そういう問題じゃないです!」

「ホレホレ力を抜いて」

 これじゃあ、さっきまでのシリアスな雰囲気が台無しだ!

「ちょ、やめてくださいって」

「ううん、やめない。せっかく2人きりになったんだし」

 のけようにも樟葉先輩の方が僕より力強いし体勢的にも有利だ!

「はあ、まったく何やってるんですか」

 山科さんの声が響いたのはその時だった。どうやら物音に置きだしてきたらしい。

「加乃さん。その辺にしなさい」

「えー、せっかくの機会なのに……」

 頬を膨らませる。何やってんだこの人は。

「とにかくこっちに来なさい」

 そう言って樟葉先輩をずるずる引きずっていく。うわーこわそ。

「あ、それから、私はこいつと2、3時間ばかしオハナシしてきますので、どうぞご自由に」

「ちょっとそれ長いよ!」

「うるさいです」

 そのまま、引きずられていく樟葉先輩。いや、因果応報です。たっぷりと味わってきてください。というか、山科さんは何を考えているんだ……。僕がそんなことするはずないじゃないか。

 そう思って、そのままソファーで眠れない眠りについた僕であった。

 

 

 

 あとから考えてみると、あの行動は、一部本気だったようだけれど、柄にもなくシリアスな雰囲気になったことに対する、樟葉先輩なりの照れ隠しだったのかもしれない。そう思った。

シリアスフラグは片っ端から叩き折る!

なかなか樟葉先輩、重宝させてもらってます。

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