絶対こいつ確信犯だ!
そして旅行の日がやってきた。
山科さんの方ではなく、『シャルロット』のメンバーでである。
いつの間にか人数が二人ほど増えてるような気がしたが、もう気にしたら負けだ。それくらいのことは学んでる。まあ、最近『愚者』はやたらめったら十条さんとつるんでいる気がするのだが。
「そういや、十条さん。お店の方はどうするんですか? フクロウたちも」
「ああ、それなら、バイトの子がいるからね。それと、私が抜けた分は知り合いに無理を言って入ってもらったから大丈夫だよ」
なるほど。月曜定休とはいえ、旅行に行くなら店を開ける準備はしているというわけか。あれ、でもなんだ?
「そういや、僕らが平日来た時にバイトの人って見かけたことありませんけど」
「毎日来てるわけじゃなし、それに、主にお昼ご飯時だからね。バイトを頼んでるのは。だから会わなかったんじゃないかな」
「へえ、会ってみたいですね」
深草さんが言う。というか、他にもバイトの子がいるならその子も誘えよ!
あれ、どうしたんだ? 樟葉先輩と作戦成功みたいな感じで無音で笑ってる気がするんだけど? 気のせいか。
「でも、旅費も全部持ってもらって、なんかすいません」
「いいって。一応これでも大企業の御曹司なんだよ。ドラ息子って思われてるみたいだけど」
知らなかった、その情報。道理でお金に頓着してなかったわけだ。ああ、なんか回りがすごい人らで固まってる気がする。大企業の御曹司、どこからか株主優待を持ち出してくる女子高生、変態的な天才、そしてその二人をまとめ上げる可憐な少女。何だこのカオスな面子。
「それじゃあ、新幹線に乗るよ」
「あ、ちょっと待ってください。写真撮ってきます!」
ホームに来て、信州の方へ向かう新幹線に乗ろうとすると、その前に樟葉先輩がかばんからカメラを取り出し走って行ってしまった。ああ、鉄道写真が趣味ですか。多趣味ですね。今度写真部の方にも誘ってみようか。
「写真、撮ってきました! それじゃあ早く中に入って中の様子も撮りましょう!」
やけに速いな。
新幹線に揺られること……、何時間だっけ? 寝てたからわからないけどたぶん1、2時間だと思う。僕らの目的地に到着した。実のところ、十条さんに任せっきりだったからこれから行くところにどんな名所があって、そしてどんな宿に泊まるのか知らない。だから、降りるよ、と起こされた時は一瞬パニックになった。
「あれ、なんかにおいませんか?」
「お、流石だね。これから行くところは温泉地だから、硫黄のにおいがするんだよ」
深草さんの呟きに十条さんが反応する。まったくわからなかった。それにしても温泉か。気持ちよさそうだな。それから、ご飯はどうなんだろう。晩御飯は豪華絢爛だとか十条さんが言ってたけど、お昼ご飯も楽しみだ。どんなところに連れていってくれるんだろうか。
ちなみに、鉄道の旅と言えば駅弁だよね、なんて言っていた馬鹿こと樟葉先輩は、行きの新幹線の中で早速弁当を買って食べていた。いや、お昼ご飯食べますからね。苦しくなっても知りませんよ。
「それじゃあ、適当に料亭でも探そっか。ホテルに行くまで大分時間もありそうだし」
「おいしそうな店を探すぞー!」
決まってなかったんですね。というか樟葉先輩、なんでそんなに元気なんですか。胃袋がおかしいんですか。
「信州っていったらそばですかね?」
「あ、僕もそば食べたいです」
深草さんの話に乗る。晩御飯は豪華絢爛って聞いてるからな。お昼ご飯は軽めにしたい。
「それじゃあ、そば屋にする? この近くに評判の良くて安い店があるらしいし」
「いいよん!」
樟葉先輩はノリノリで賛成し、山科さんもこくりと頷く。これで決まったかな。
しかし、樟葉先輩はいつもよりもさらにテンションが高くないか? そう思って見つめていたら、偶然目が合った。
「あれ、ゆーくんどしたの? あ、チョコ食べるー?」
そう言って僕にチョコレートを差し出す。いや、あーんって口で言わないでって……、あれ、このにおい?
「恥ずかしがらなくてもいいのにー。ぶー」
樟葉先輩の手から奪って口に入れる。間違いない、これはウイスキーボンボンだ。アルコールが入ってやがる。
「悠杜君、何やってるの」
「深草さん、これ、アルコールが入ってます」
樟葉先輩を指さして言う。あれ、でも、この人前にアルコールには比較的強いって違法なことを言っていたような……。まさか!?
「ちょっと失礼!」
樟葉先輩の鞄を借りて中身を開く。
「あ、ゆーくん何するの。ひょっとして私の下着が見たいんでしょ? ゆーくんてば変態さんだあ、ハハ」
いや、それはどうでもいい。それよりも。
「やっぱり入ってた!」
取り出したのはアルコール入りのチョコの空箱! それも3つ!
絶対こいつ確信犯だ!
馬鹿とか、これとか、こいつとか、だんだん樟葉先輩の扱いがひどくなる……
それから未成年の飲酒はだめですよ




