よし、帰ろう
翌日、日曜日。
昨日と同じように樟葉先輩に送られてバイトに行く。昼間から、明るい状態で襲ってくるほどバカではないと思うのだが。いや、そうかもしれない。
ちなみにソフィアとだいぶ仲が良くなったみたいだ。ソフィアもだいぶやんちゃなところがあるから、似た者同士ということで共感するところでもあったのだろうか。って、樟葉先輩! そんな目でこっち見ないで!
「ゆーうーとくーん。今なんか失礼な目で私見てなかった?」
「あ、いや、そんなことないですはい」
「本当かなぁ? まあ、いいけど」
怖! この人怖! 何!? あなたエスパーか何かなの!? 僕の考えてること読まれてるとかじゃないよね!?
それはともかく、疑いの目を向けていた樟葉先輩だったが、今日はソフィアを満足するまでなでると何も注文せずに帰って行った。ああ、ヒヤッとした。そうですね、同類ではないよね? あの人は、テンションが高めなだけで、うん、そういうことにしておこう。そう思っていたら、メールが届いた。
『私はそこまで向こう見ずじゃないからね』
怖いわ! 見透かしたように送ってくるとか怖いわ!
そんな夢を見たのさ。……ということにしておこう。メールも消去と。
なんてことがあり、僕は十条さんとともにバイトに勤しんでた。今日は比較的お客さんが多くて、僕も引っ張りだこだ。軽食を運んだり、コーヒーを淹れたり、レジを打ったり。休む暇もなく、というのは嘘だけど、フクロウたちと触れ合えなくてちょっと寂しかったかな。特に、コキンメフクロウのアクセルとは触れ合っておきたかったんだけどな。深草さんがフクロウ飼うって言ってたし。流石に、店員がこれ見よがしにさぼるわけにわね。店長は餌やりに行ってたけど。
「それじゃあ、片付け手伝ってもらえる?」
「あ、はい、わかりました」
最後のお客さんが捌けたところで十条さんが言う。今日はちょっと遅くなっちゃった。もうすぐ19時だよ。夏だから、空はまだ明るめだけどさ。
皿を洗いながら、それにしても今日はお客さんが多かったなと思った。普段はもっと少なくて、それこそ深草さんとしゃべってても問題ないくらいの好き具合なのに。というか、潰れないか心配になるくらいなのに。まあ、趣味でやってる店らしいから、そうはならないとは思うけど。
「これでも、平日の昼間は結構お客さん多いんだよ? バイトも最近追加したし」
あなたもエスパーですか!
それはともかく、十条さんの護衛で帰路に就く僕だったが、『塔』は反省していなかったらしい。今日も今日とて襲撃をしてきた。してきたのか? 一応そうか。
流石に学習能力はあるらしく、仲間を3人引き連れてきたわけだが。覚えられないや、左から敵ABCでいいや。
「伏見! 4対2なら多勢に無勢だ! 俺の未悠から手を引くと誓いやがれ!」
あなたのでも僕のでもないんだが。それより、3人増えたところで十条さんの敵になるとも思えないし。
「警告したはずだよ。引き下がってくれと」
冷静に十条さんが言う。そしてこっちを向いて、下がっておいてというジェスチャーをする。
「よそ見してんじゃねえぞ!」
そう言うなり『塔』が飛び掛かる。それに合わせて敵Bも拳を繰り出す。うわ、なんて卑怯な。
けれどそれさえも十条さんの敵ではなかったらしい。流れるような動きで『塔』をかわすと敵Bの勢いそのまま『塔』に向かって放り投げた。さらに続いて襲ってきた敵Aを、いやCだっけ? どっちでもいいや。もう敵で統合しよう。その敵を正面からつかんで、『塔』の盾にする。
ちなみに、敵は英語でenemyだけど、格式ばった表現ではfoeというらしい。今の場合だとenemiesかな。ちなみにこれは樟葉先輩のトリビアだ。だいぶ毒されてきてるな、あの人にも。
で、なんで僕がそんなことを考えている余裕があったかというと、十条さんがずっと圧倒していて、途中から目で追えなくなったからだ。誰が誰かとかわかんないしね。そして気がつくとenemiesは全員地面に伸びていた。十条さんには傷一つない。しかしあれだな、enemiesって言うと、ゲームの雑魚敵みたいな印象だな。
「だから、引き下がってと言ったのに」
enemiesに向けて十条さんが呟く。まあ、気絶してたら多分聞こえないんだろうけど。それにしても圧倒的だったな。
「すごかったですね」
「まあ、こう見えて喧嘩慣れしてたからね。それにあれだよ、弱い相手だと、盾としても使えるから1対多の方が戦いやすいし」
……そうなんですね。規格外だ。
「まあ、この人たちはほっといてもいいか」
そう十条さんが告げる。傷もないしね。よし、帰ろう。




