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覚えてないことにしよう

 昨日寝ずに考えた。考えて考えて考え抜いた。まあ、寝てはいたけども。ついでに言うと思い浮かんだの今朝だけれども。

 そして僕が出した結論。覚えてないことにすればいい。風邪をひいていたせいで、記憶がないことにしちゃえばいい。いや、もちろん無理があるかもしれないけど、あの事を知ってるのは僕と深草さんしかいないはず。だったら知らぬ存ぜぬで通せばいい。というより通す!

 

 

 

「おはよう」

「おはようございます、深草さん」

 深草さんとあいさつを交わす。後ろには山科さんも控えている。よし、いつも通りに、いつも通りに。

「風はもう大丈夫なの?」

「ええ、おかげさまでもうすっきり。風邪流行ってるみたいなんで深草さんも気をつけてくださいね」

 注意しておく。そうだ、木野さんの様子も聞いておかなきゃ。

「え、風邪なんて流行ってないよ」

「え、でも木野さんと樟葉先輩が休んでたし」

 ここに来て突然告げられる。え、みんな風邪で休んでたんじゃないの?

「二人とも別の理由だよ。風邪で休んでたのは伏見君だけ」

「マジですか」

「うんうん」

 ちょっと、それは知らなかったなあ。にしてもなんで僕だけ風邪ひいたんだ。まさか勉強のし過ぎで知恵熱とか? それはないか。

「ところで、病み上がりだけど勉強の方は大丈夫? 一応ノートは取っておいたけど」

「あ、その節はどうもお世話になりました」

 あ、そうだよね。あれは残してあったものだから、なかったことにはできないか。追伸は無視だけどね!

「それはどういたしまして、って違うよ。授業の方、ついていける?」

「まあ、大丈夫だと思います」

 駅について電車に乗る。ちょうど席が一つ空いていた。

「深草さん、どうぞ」

「伏見君こそ、ささ、座って」

「いや、ここはレディーファーストで」

「伏見君こそ、病み上がりでしょ。ほら座った座った」

 そう言って譲り合いの末、深草さんに座らされる。

「それに、昨日あんなにしんどそうだったじゃん。ここは休んだ方がいいって」

「え、あれ、昨日来てたんですか?」

 こうやってさりげなく忘れたことにしておく。これ重要。

「来てたのも何も、一緒にアイス食べたじゃん」

「あれ、そうだったんですか。てっきり父親が受け取って枕元に置いてくれてたのだとばかり思ってました。風邪のせいか記憶がいい加減ですね」

「だとしたら、施錠しとくなんて書くわけないじゃん。ところで、記憶ないって本当?」

 疑うような目で聞かれる。

「え、本当ですよ。いやだなあ、もう。ほら、駅着きましたし行きますよ」

 やばいかも。誤魔化しきれるかな。とりあえず逃げ出そう。

 

 

 

「おう、伏見。風邪はもう大丈夫か」

「一日寝てたらすっかり良くなったよ。ありがと」

 竹田と軽くあいさつを交わして席にカバンを引っ掛ける。木野さんに挨拶しておこう。

「木野さん、一昨日は大丈夫でしたか?」

「あ、ふ、伏見君! あ、大丈夫だよ。別に、ちょっとした野暮用があっただけでさ。うん、私は元気だよ。ところで、伏見君こそ風邪って聞いたけど大丈夫?」

 なんなんですかその慌てようは。まあ、いいか。

「ええ、おかげさまで。大分元気になりましたよ」

 そう言って微笑み返す。

「ところで僕、写真部の活動全くやってないけどいいんでしょうか?」

「あ、いいよいいよぜんぜん。また、活動あったら声かけるしさ。それじゃあね」

 そう言うと、木野さんは去って行ってしまった。なんだったんだろう、あれは。

「あ、伏見君、今日の占いお願い」

「わかりました」

 考える間もなく深草さんから占いを頼まれる。結果は、正位置の『星』でした。願いが叶うって、相変わらずいい結果しか出ないなあ。ちなみに僕は逆位置の『審判』でした。行き詰るって、そんなの嫌だからね。

 

 

 

 授業中に深草さんからもらったノートを写しつつ、同時にノートを取る。にしても、深草さんのノート、黒板の板書よりわかりやすいなあ。だから成績がいいのか。なるほど。

 昼休みは食堂で山科さんと相変わらずの攻防を繰り広げ、図書室で本を借りてきた。結構面白そうだな。深草さんも前おススメしてたし。

「ねえねえ、本当に覚えてないの?」

「だから、風邪のせいで覚えてないって言ってるじゃないですか」

 深草さんは相変わらずだったけれども。

 

 

 

 放課後、掃除当番でもないのですぐに生徒会室へと向かう。あれ、いつもなら深草さんと一緒に行くのに、今日は深草さんが先に行っちゃったな。まあ、いつもって言っても二人しかいないんだけどさ。

「というわけで、絶対に覚えてると思うんです」

「同感だね。多分、それは忘れたふりをしてるだけだよ。そういう時は、さりげなく聞き出すといいよ」

「さりげなく、ですか?」

「うん。誘導尋問ってやつだよ。なんだったら、私がやろうか?」

「ぜひ、お願いします」

 ちょっと、中から何か不穏な会話が聞こえてきたんだけど! あれ、深草さんと樟葉先輩だよね!? 誘導尋問って何!? 僕引っかからないからね!

 気合を入れなおして、よし、出陣。

「こんにちは」

「あ、悠杜君、風邪はもういいの?」

 樟葉先輩が聞いてくる。これは予想通りだ。そう、ならば話題を変えればいい。

「ええ、すっかり。ところで、樟葉先輩も一昨日休んでましたけど、何かあったんですか?」

「あ、一昨日? ああ、一昨日は仕事でね。ごめんね、心配かけたみたいで」

 よし、これでオーケーだ。

「いえいえ。ところで仕事って、モデルとかそんなやつですか?」

「え、うん、まあ、そんなところだよ。詳しくは言えないんだけどね」

「そうですか、すごいですね」

「あ、ありがとね」

 樟葉先輩が照れる。あ、樟葉先輩でも照れることあるんだ。

「と、ところでなんだけど」

 照れ隠しのように樟葉先輩が言う。

「昨日未悠ちゃんが看病に行ったんだって?」

「らしいですね」

 というか元凶はあなたでしょうが。

「で、で、聞いたんだけど、アイス、未悠ちゃんにあ~んしてもらったんだって? うらやましいぞ、このこの」

「そんなわけないじゃないですか! ちゃんと自分で食べましたよ!」

 そう言った瞬間、樟葉先輩がにやりと笑った。

「あれ~、おっかしいな~。未悠ちゃんからは悠杜君は風邪のせいで覚えてないって聞いたんだけどな~。だったら、あ~んされたかなんて覚えてるはずないのにな~。ねえ、悠杜君」

 あ、完全にしてやられた。誘導尋問警戒してたはずなのに! 僕の馬鹿!

「教えてくれるよね、悠杜君」

「伏見君、伏見君、教えてね」

 二人はかかったといった具合に微笑んだ。

 

 結局、僕は恥ずかしい話を経緯とともにしゃべらされることになった。

まさに因果応報ってやつですね。(ちょっとちがうか)

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