来られるよね、なんて
語彙力……
「……こんにちは」
「いらっしゃい、未悠ちゃん。みんな待ってるよ」
土曜日、2週間ぶりに未悠さんが『シャルロット』へやってきた。この景色を見るのも少し久しぶりだ。
「今日は、悠杜君が奢ってくれるってさ」
「ええっ!?」
そんなこと言ってない。
「あれ、だめだった?」
「いや、別にいいけど」
「それじゃあ、お邪魔しますねー。うわっ!?」
ネットを潜るなり、未悠さんに向かって飛んでいくフクロウ。シャルだ。相当寂しかったのかなあ。あ、ちょっとアルが嫉妬してるんじゃない? あ、アルも飛んでいった。
「未悠ちゃんは人気者だね。みんな来てくれなくてさみしそうにしてたよ。フクロウたちには人間の事情なんて分からないし」
ホー
ソフィアがなく。僕の左腕に止まっていたのを未悠さんに向けて差し出した。
「ソフィアも元気にしてた? こらこら、ちょっとくすぐったいって」
「未悠ちゃん、笑ってくれてるみたいでよかったね。ちょっと元気になった?」
「まあ、そうですね。これでも先週よりは明るくなったと思います」
未悠さんがみんなを構っているうちに、千秋さんと密談する。結構心配してたんだけど、相変わらずフクロウは好きなんだな。アルテミスとアポロンも元気そうにしてたし。
あ、イリーナが構って欲しそうにしてる。ツンデレだから自分からはいけないみたいだ。ほら、おいで。
「よし、じゃあ、私が久々に恋愛運を占ってあげるよ」
「え、いいんですか?」
「まあね。これでも悠杜君の師匠なんだよ。専門はタロットじゃないけどさ」
そう言って、千秋さんは白紙のカードを取り出した。
「今日はありがとうね」
「いえ、私こそいつも来させてもらってますし」
「それじゃあ、悠杜君、送ってあげて」
「わかった」
時間っていうのはあっという間に流れるものだ。ついさっき、千秋さんが1時間延長してもいいよって言ったばかりな気がするのに。
「また、来ますね。そのえっと」
未悠さんが顔を抑える。あれ、どうかしたんだろう。
「あれ、なんでだろ。涙が止まらないよ」
「……そっか。でも、別に泣いてもいいんじゃないかな。久しぶりに、うちに来てくれたわけだしさ」
千秋さんが言う。こういう時に、ササっとフォローできるところは、大人の男性だなと思った。
「僕も、別にそのままでいいと思う。それだけ大変だったんだろうし。別に、僕も千秋さんも誰も責めないから」
「ごめん、ちょっとね」
そう言って、手の甲で目じりを拭った。あ、ハンカチ持ってないし。
「違うって、こういう時は、ごめんじゃなくてありがとうっていうの」
「あ、うん。ありがとうね、2人とも」
あー、千秋さんそれ僕の台詞! いい所を持ってかないでよ。なんてちょっと嫉妬してみる。
「大丈夫だって。ここまで来れたんだから、もう大丈夫だって。未悠さんは大丈夫だから」
「そうだね、悠杜君もありがとう」
「もうそろそろお店閉めたいんだけど、いいかな」
こくりと未悠さんが頷いた。伴って店を出る。もうコートがいるくらい、すっかり冬になっちゃったなあ。ああ、でも冬は空気が澄んで見える。
「また、いつでも来てくれたらいいですよ、ね」
「うん、わかってる」
何とか励まそうと声を掛けた。
「明後日、来られますよね」
「たぶん、ね。頑張っていくから」
「ならよかった」
だけど、方向性を間違ってしまったのかもしれない。来られるよね、なんて、プレッシャーにしかならなかったのかもしれなくて。
「え!?」
月曜日、学校に未悠さんは現れなかった。
京香「最近私出番少ないよね」
作者「そだねー。加乃先輩がアドバイザーのところ乗っ取っちゃったしね」
京香「でも、加乃さん今バンクーバーだよね」
作者「そだねー。便利すぎるから、ちょっと遠ざけちゃいました」
京香「なんで、私の出番が増えないの?」
作者「まあ、京香ちゃん影薄いもんねー」
京香「お前のせいだ!」
作者「なぜにレモネード投げつけられたし」




