少し昔話をしましょうか
大変遅くなりました。再開します。あ、でもたぶん隔日更新はしないと思います。
それと、「幼馴染が落ちません!」完結しました。ツンデレ少女の物語です。こちらもぜひよろしくお願いします。
「悠杜君、ちょっといいですか?」
「え!?」
男子生徒に声を掛けられた。えっと、桂君だっけ?
「いいけど、何があったの?」
「僕も、未悠さんのことで、力になりたいと思いまして」
人気のない所で話したいというので、2人きりになれる場所に移動する。
そう言えば、桂君は僕のことが好きだって言ってた人だったけど、僕と未悠さんの中を応援してもいいんだろうか。そんな野暮なことを思った。
「知っていますか。実は、母が離婚して僕は旧姓に戻ったんです」
いきなりそんなことを言われる。知らなかった。僕の周りには京香さんという逆の例もあるから、別に特に何かということはなかったのだけど。
「覚えていますか? 僕の旧姓は松尾と言います」
「えっと、その……」
何が言いたいのかいまいちよくわからなかった。旧姓を聞いたところで別に特に何も。しいて言うのなら昔は松尾光弥だったっていうくらいで……、あ。
「ひょっとして、昔クラスメイトだった!?」
「そうです、思い出してくれましたか!」
思い出した。小学校と中学校が同じだったじゃないか。中学校は一度も同じクラスにならなかったけど、途中までそこそこ仲が良かった。まあ、僕のトラウマの事件があった後関わりが薄れていっちゃったんだけど。
……ってあれ? なんかそこはかとなく寒気を感じるんだけど。と、とにかく。
「松尾君なんだ。その、ごめん忘れてて」
中学時代から友達と言えば、竹田しかいない。中2のあの事件が起こるまでは僕は実は結構友達がいた。たぶん、今の僕よりも前向きだった。
だけど、あの事件の後、前向きになれなくなって、ショックを受けて明るく振る舞えなくなって。いつの間にか疎遠になっていた。片手で数えるほどになった友達のうち、同じ学校で、同じクラスになったのは竹田だけだった。たぶんあいつは何も考えてないから。そういう意味ではノーテンキってのも悪いことじゃないのかもね。
松尾君、つまり桂君も疎遠になった人の一人。
「別に、いいですよ。僕も名乗りませんでしたし。それに、めそめそしている悠杜君はちょっと見苦しかったですし」
そう言うと、がッと肩を掴まれた。
え、いや、あの、その。
「だから、高校に入ってちょっと戻ってきてくれた時はうれしかったです。また、僕の好きな悠杜君が戻って来たんだって。ずっと待ってきたかいがあったって」
「いや、その。ちょっとパス」
思わず突き飛ばしてしまう。
桂君はふっとため息を吐き出した。
「僕が好きなのは、明るくて、カッコよくて、なんだかんだ言いながらも最後は引き受けてくれる、そんな悠杜君なんですよ」
「ごめん、その」
「知ってます」
上手く断りの言葉が見つからない。そう思っていたら、桂君は目を伏せた。
「知ってます。悠杜君は未悠さんのことが好きなんですよね。僕じゃない、別の人のことが好きだ。だけど、僕はそのことで苦しんでほしいとは思えないんですよ」
そう言ってまっすぐな瞳で僕を見た。
「だから、応援していますから。言いたかったのはそれだけです」
「えっと、その。ありがとうね。僕も頑張るから」
その言葉を聞いたとたん、桂君はペコリと一礼してそこを去っていった。桂君の好意には悪いけど応えられない。だけど、そのエールは素直に受け取ろう。そう思った。
コンコン
「未悠さん、僕です。伏見悠杜です」
放課後。昨日と同じく未悠さんの部屋のドアをノックする。返事は帰ってこなかった。
ドアをゆすってみる。どうやらまだ鍵がかかっているらしい。仕方ない、か。
「鍵を開けてください。顔が見たいんです」
無言。
昨日までの僕ならここで引き下がったかもしれない。だけど、加乃先輩や、みんなに励まされたんだ。やるべきことがある。
制服の内ポケットに手を入れた。鞍馬悟から預かった手紙がある。
「わかりましたよ。開けてくれないというのなら、ぶち破りますから。未悠さんのお母さんにも許可は取ってあるので」
「え!?」
驚いた声が聞こえてくる。それを気にすることなく、僕は扉に体当たりした。
痛い。
破れてないし肩が痛い。でも。
「わ、わかったから。開けるから壊さないで!」
あ、もう一回やる必要なくなった。
カチャリと、鍵が開く音がする。一つ深呼吸をして、扉を開けた。
扉の向こう側で未悠さんは、制服を着て下を向いていた。ストレスのせいかちょっとだけやつれて見える。だけど、違いない。いつものかわいらしい僕の未悠さんだ。
「最初からそうしてくれればいいのに」
「だって、顔青いし。悠杜君にはそんなの見せたくないし」
「別に、僕の前で見栄張らなくてもいいって」
俺様系の強引な感じとか、あればいいんだろうな。そんなことを思う。例えば、竹田みたいな空気読めない感じとか、加乃先輩みたいに空気読まない感じとか、利頼君みたいに馬鹿な感じとか。だけど僕はそのどれでもないし、そうつくろうこともできない。だけど、それでも僕は僕だ。
「これ、先生から。それと、みんなも寂しいってさ。未悠さんの笑顔が見たいって」
「でも、私こんな顔だし……」
やっぱりか。トラウマはそう簡単に消えてくれない。落ち込んだ時は、そう簡単に元に戻ったりしない。
でも、だけど、それを薄めるくらいならできるんじゃないかって。
「大丈夫だって。それが何かになるわけじゃない。未悠さんは何も変わらず未悠さんです」
だから、僕にできる事は、受け入れられているんだって、居場所があるんだってことを知らせること。
そうして、僕は口を開く。こんな風に
「少し、少し昔話をしましょうか」
京香「で、なんでこんなに遅くなったんですか」
作者「作者のやる気がなかったからです……」
京香「他には!」
作者「作者の案が切れたからです……」
京香「他!」
作者「すいません、伏線も何もなしで光弥君の話ぶっこみました」
光弥「ちょっ、酷い!」
作者「てへぺろっ」
ドゴオォォ




