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学年一の美少女が僕に惚れてるなんて信じたくない!  作者: 蒼原凉
聞いてほしいことがあるんだ
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いない加乃先輩

 帰ってきた後、京香さんにしこたま殴られた。でもまあ、八つ当たり気味なところがあったし、迷っていたのかそこまで痛くはなかった。それと僕はМじゃない。

 まあでも、利頼君も言ってくれていた。1人で悩むなって。だったら相談してくれればいい。

 加乃先輩は恐らく何もかも知っているはずだ。未悠さんの過去のことも、そしておそらく鞍馬が教育実習で来る予定だったことも。こうなることだってある程度は想像していたに違いない。そう思った。

 明日、たぶん行きの電車で一緒になれるんじゃないか。何か連絡事項がある時は狙いすましてやってくるから。そう思っていた。だけど、その前に関門が一つ。


「お姉さま、今日は体調不良で出席できないそうです」

 アルテミスとアポロンを見に行ったときに京香さんから告げられた。学校に行けそうにないって。

 このまま、不登校になってしまわないといいけれど。

 仕方ないので、昨日の分のノートのコピーだけ部屋の前において失礼することになった。本当は、もっといて話をしたかったけど、加乃先輩に会いたかったし。


 だけど、電車の中には加乃先輩はいなかった。てっきりここにいると思ったのに。




 たぶん、未悠さん以外なら僕は加乃先輩を一番信用している。いつもふざけていて、楽しいことを探していて、僕をからかってくる。お酒が好きで隙さえあれば所持しているような間違いない『愚者』だけど。でも、それでも人を傷つけるようなことはしない。自分が動ける範囲を、人を傷つけずに済む範囲をよく知ってる。

 なぜか、あの人は不思議な安心感があるんだ。あの人は周りの人を和ませる。ふざけているけど、それを使ってみんなを和ませているような。そんな気がする。

 そうだ。ただふざけるだけじゃ空気の読めない人だ。だけど、加乃先輩は絶対に声ちゃいけない場所をわきまえている。そんな安心感がある。だから、あの人が大概のふざけてきたことは許せるんだ。

 それに。あの人も親衛隊である。その№5だったか。最初は面白そうだから入ったのかもしれないけど、だけど真面目に仕事をしている。後生徒会も。そうやって人知れず僕らの日常を守ってきたのかもしれない。

 そう言えば、僕は一度だけ、疲れたような顔をした加乃先輩を見たことがある。夏休み、シャルロットのみんなと旅行に出かけた時だ。あの時の加乃先輩はお酒のせいもあったかもしれないけど、少し疲れたように見えた。思えば、あの時、加乃先輩は結構真面目だって気づいたような気がしたんだろう。

 だから、加乃先輩を探した。


 机に鞄を置くなり教室を飛び出した。と行きたいところだったんだけど、三希さんに水やりを頼まれてしまって朝休みはつぶれた。ああでも、電車にいなかったってことはたぶん遅刻ギリギリまで何か用事があったのか。そんな風に思って、昼休みに加乃先輩の教室を尋ねた。

「あ、詩音先輩。あの、加乃先輩いますか? ちょっと呼んできて欲しいんです」

「よっしゃ、任せとき。おーい、加乃っちおるかー?」

 というか、この人は野球部のマネージャーだったはず。昼休みだけどここにいていいのだろうか。

「あれ、加乃おらへんな。どこ行ったんやろ?」

「樟葉なら、昨日から休んでるよ。風邪か何かかな?」

「あほぬかせ。あの阿呆が風邪ひくわけあらへん」

 詩音先輩、加乃先輩の扱いが酷くないですか。まあ、風邪ひくわけがないと思うのは僕も同じだけど。

 でも、加乃先輩が休んでいる。何か、胸騒ぎがする。一体、どこにいるというのだろう。

「なあ、加乃っち知らない?」

「知ってるよ」

 そこへ偶然通りかかったのか石田先輩が知ってると手を挙げた。

「加乃なら、今頃バンクーバーじゃないかな。なんでも留学するんだって言ってたよ?」

「留学!? それはいつまで!?」

「さあ。年明けるまでには帰ってくるつもりだって言ってたけど」

 つながった。なぜか寂しそうにしていた加乃先輩の表情も。そして年内までを期限とするって言っていた意味も。自分がいなくなるから。

 加乃先輩に電話をかける。ワンコール、ツーコール。頼む、つながってくれ。電話ならどうにかなるだろ。

 カチャ

「もしもし、加乃先輩?」

『只今、電話に出ることができません』

 聞こえてきた機械音に、がっくりと膝を折った。

「なんや、なんかけったいなことでもあったんか?」

 加乃先輩がいない。一番頼りにしたいときに、いない。何が気兼ねなく留学に行けるだ。こっちは胸元が縮まりそうだ。まさか、あんなに近くにいた人が突然いなくなるなんて思わなかった。

 どうしていないんだ。一番相談したいときに限って。なんで、何も知らせずに行ってしまうかなあ。あの人は。


 加乃先輩がいないなんて言う事実は、ずっと思っていたよりもショックで。頼りにできる人がいなくて。

 ……僕は、どうしたらいいんだろう。完全に指標を見失ってしまった。

作者「それじゃあ、行ってらっしゃい。お土産待ってる」

加乃「そんじゃねー。セスナ機のパイロットになって帰ってくる」

作者「頑張れー。それと、飲酒はダメだよ」

加乃「流石に飛行機には持ち込まないから」


京香「で、1人だけ見送りに行っていたと」

作者「……一応これでも作者なんだけど。扱いが不憫すぎる」

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