そんなことない!
隔日更新がかなりしんどくなってきた……
「未悠さん。僕です。伏見悠杜です」
ドアをノックした。
ここにいるのは僕と未悠さんの2人。京香さんも、未悠さんの家族もいない。ただ、2人だけの世界。
一枚ドアを隔てているのは無粋だけれど。
「未悠さん。ドアを開けてください。顔が見たいので」
無言。
「……いや」
しばらくして帰ってきた答えは拒絶だった。
「そんなことを言わずに」
「やめて!」
仕方ない。このまま押し続けても無理そうだ。
「京香さんから聞いたよ」
再び無言。たぶんこれは言っていることの意味が分からないということなんだろう。
「過去に、教育実習に来た彼と色々あったって」
「やめて!」
「やめません。言わないといけないことがあるんで」
やめてと言われてもやめる気はない。
「悠杜君は知らなくていい!」
「逆に聞きます! その程度のことで幻滅するとでも思ってるんですか!」
知らなくていいことなんてない。未悠さんのことが好きだから。だから、全部認めるって決めた。
「過去に何があろうとなかろうと、未悠さんは未悠さんです。どんなことがあったところで、僕が未悠さんのことを嫌いになったりしませんから」
未悠さんはとっても優しい人だって知ってるから。笑顔が素敵で、成績も優秀で。とっても頼りになって。この人が好きだって気づいたから。
「彼とどんなことがあっても未悠さんは未悠さんです。とってもかわいい、学年一の美少女です。僕が保証しますよ」
「……そんなことじゃない」
そんな声が聞こえてきた。
「そうだったとしても、悪いけど会えないよ」
「そんなことないよ」
「あるよ!」
叫び返された。
「まだ吐き気がするし。顔も青いしやつれてるし。こんな状態で会えない」
「だからって嫌いになったりなんて……」
「悠杜君には笑ってる私だけ見ていて欲しい」
何も返せなかった。でも、僕は未悠さんに会いたい。少しでも会いたい。
「それでも……」
「見ないで! 醜い私を見ないでよ!」
でも僕は。醜いなんて言わないでほしくて。
「そんなことない!」
絶対に違う。そんなことで醜いなんて思ったりしない。
ドアを蹴破る。未悠さんが顔をそむけた。
「いや、来ないで! 見ないで!」
「見ますよ! そして言ってやります。未悠さんは醜くなんかないって。すごくかわいいって!」
「嫌だ、やめてよ!」
未悠さんが何と言おうとこれは譲れない。
「惚れた人のことを醜いなんて思うやつはいません!」
逃げようとする未悠さんを捕まえる。これでも一応男子だ。
「ほら、こっち向いてください」
「やめて、見ないで!」
涙の跡が見える。たぶん、相当泣いたんだろう。というか、今も涙を流している。だけど、やめない。やめるわけにはいかないんだ。
「見るなって言われても無理やりにでも見ますから」
その言葉通り、両手で顔を挟んでこっちへ向かせる。
「ほら、未悠さんはかわいいじゃないですか!」
「そんなことない! だから嫌だったのに」
「好きな人のことをそんなことで!」
言葉が口蓋に張り付く。そのままどんどんたまっていって。
「馬鹿じゃないんですか未悠さんは! あなたは学年一の美少女なんですよ! 僕だって誰だって、みんなあなたのことが好きだ! その用紙に自信を持てよ! 僕は笑ってる顔が一番好きだけど、どんな顔でも未悠さんのことが好きだ!」
顔を見つめる。すごく澄んだ瞳をしてる。ちょっとやつれてるのかもしれないけど、それが何だ。十分、かわいいじゃないか。
「とってもかわいいじゃないですか。ほら」
そう言って。僕は。未悠さんを抱きしめた。
……なんてことができたらよかったんだけど。
「……」
実際は、ひょっとしたら未悠さんに拒絶されてしまうんじゃないかって一瞬思ってしまって。そう思ってしまうともう怖くて怖くて。
本当にヘタレだなあ。
ドアの向こうからすするような音が聞こえる。
「顔を見せたくないならいい。とりあえず、今日のところは帰りますから。一応声は聞けたんで」
何やってんだろ、自分。本当は顔を見て安心したかったはずなのに、その半分も行ってないじゃないか。
「だけど、明日も来るから。顔見せられるようになったら声かけて。待ってるから」
それだけ言って。滑るように僕は部屋の前から去っていった。
……威勢よく言った結果がこれなんてなあ。
京香「伏見悠杜! 作者! そこに正座!」
悠杜&作者「はい」
京香「暫く反省しなさい!」
作者「それにしても悠杜君ヘタレすぎ。悠杜君のせいだよ」
京香「お・ま・え・は! 前にも似たようなことやってるだろうが!」
作者「詳しくは第122話『夢オチでよかった……』を参照のこ、いてっ!」
京香「ちょっとは反省しろ」




