僕が目を背けてきた真実を
何の意味があるかは知らない。
だけど、未悠さんの家に行くことにした。
元々アルテミスとアポロンの世話で家にはいく予定だったけど、学校が終わってすぐ、いてもたってもいられなくなって教室を飛び出した。京香さんは未悠さんと一緒に帰っていったから知らない。
扉を開けたのは京香さんだった。ずっとここにいたらしい。
「お姉さまは自室に閉じこもっておられます。残念ながら私では力になれませんでした」
「そうか……」
僕は何ができるだろう。だけど、やってみないことには変わらない。
「京香さん。ちょっといいかな?」
だけどその前に。
「教えて欲しいことがある。教育実習で来た人は誰?」
聞かなくちゃいけない。僕が目を背けてきた真実を。
「場所を変えましょう」
「了解」
ちょっと考えればわかるはずだったんだ。未悠さんは当然モテた。なら、ちょっとくらいはいいなって思う人がいたはずなんだ。僕が現れる前に。高校生になる前に。
詩音先輩は言っていた。氷の王女と。入学した当初はとても冷たかった。それはなぜか。何かがあったからだ。
聞かなかったけど。そのことに何があるのかを尋ねはしなかったけれど。
わからなかったわけじゃないんだ。ヒントならあった。加乃先輩だったり、詩音先輩だったりが教えてくれていた。それに気づかなかったのは、目を向けなかったのは僕が原因だ。
「教えて欲しい。あの人は誰なのか。どうして未悠さんがおかしくなったのか。全部」
京香さんの瞳を見つめる。
「どうやら、話すべき時が来たのかもしれませんね」
そう言って少しだけ顔を動かした。僕にはわかる。これは、やれやれと言った表情だ。
「いいでしょう、話します。親衛隊の真実を」
親衛隊の真実だって? どういうことだ?
「疑問に思ったことはありませんか。どうして私の番号が2番なのか。加乃さんは№5ですし、涼乃と凛音が3と4ですが、1番がありません。それを疑問に思ったことはありませんか?」
「まあ、あるけど……」
だけど、最初からそういうものなのだと思っていた。
「そういうわけではないのですよ。実は、この親衛隊というのは、もともとは全然違ったのです。お姉さまを崇めるというのは変わらないにしても、その実は全然違ったのですよ」
「全然違った?」
京香さんが頷く。
「ええ、そうです。もともとは、ある1人の人物が、ファンクラブという名目でお姉さまを独占するために作った組織です」
「じゃあ、それっていうのは」
「ええ。教育実習で来た彼こそが、会員ナンバー1にして、すべての元凶、トラウマを刻み付けた本人。鞍馬悟です」
その名前は、確かホームルームで聞いた。
加乃先輩は確かこう言っていた。『止められなかった』と。それはこういうことだったのか。
「もともとは、お姉さまの家庭教師をしていたのです。その時は、とても優しかったのですがね。そして、親衛隊の許となる組織を作った。自分の許可なくお姉さまに近づく輩をなくすため」
「それが、独占するためだった」
「ええ。力を持ったところで、お姉さまを自分のものにしようと暴走したのです。誘拐未遂までありました。その結果、私や加乃先輩と戦いになり、結果として私たちが勝ちました」
誘拐未遂。そう言えば、『塔』一派との戦いの時もそんな感じだったっけ。あの時も、相当無理をしていたような。そういうことだったのか。
「そのせいで少年院に言っていたらしいのですが、後から聞くところによると事件の時凛音が思いっきり殴ったせいで人格が少し変わったらしいです。記憶も一部飛んでいて、今はそこまで害はなさそうと加乃さんは言っていましたが……」
「トラウマはそんな簡単には治らないと」
彼は更生したのかもしれない。だけど、だからといってそんな簡単にトラウマが消えるわけもなく、嫌な思い出がよみがえってくる。
「入学当初冷たい印象があったってのは……」
「その影響で笑わなくなったんです。そういう点では兄さんには感謝していますよ」
そんな過去があったんだ。僕は知ろうともしていなかった。好きだって気づいたはずなのに。
「それと、これは私の推測ですが、お姉さまが恋をしなかったのは、どうしてもトラウマが重なるからでしょう。事を起こすまでは優しく接していましたから」
初恋でトラウマを産んだらそうなるか。僕もそうだし。
「ですから、あなたにもひょっとしたらその影響があるかもしれません。ですが克服することを願っています」
思ったよりも未悠さんへのハードルは高かったらしい。
京香さんが拳を握る。
「出来ることなら私が解決してあげたかったのですが、こればっかりは上手く行っていないのです。兄さん、あなたに頼みごとをしてもいいですか」
「断る」
そう答えたのには訳がある。
「そんなことしなくても、僕だって未悠さんのことが好きなんだ。僕だって何とかしたいさ。そんな頼みごとをしなくても僕だって同じ気持ちだ」
例えトラウマが未悠さんの周りで邪魔をしようと、僕は彼女のことが好きなんだ。それくらいだ諦めたりはしないさ。なら、トラウマを薄めてあげたいと思ってもいいだろう?
「大丈夫、きっと何とかしてみせるよ」
ただ、そう言っては見せたものの、具体的な方策は何も思い浮かんでいなかった。結局僕はヘタレのままなのかもしれない。そんな自分を認めたくはないけれど。
凛音「すいませんすいません」
悠杜「彼女は何を謝ってるんだ?」
涼乃「自分のせいで余計なことになったんじゃないかって。あれ以来すっかり臆病になっちゃった」
悠杜「まあ、守ってくれてありがとうと言いたいところだけど」
涼乃「さっすが、悠杜先輩! それじゃあ私と付き合うとかどうですか?」
詩音「私の役割を取るな!」




