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学年一の美少女が僕に惚れてるなんて信じたくない!  作者: 蒼原凉
聞いてほしいことがあるんだ
154/181

僕もトラウマに囚われたままの人間だから

今回も短めです

 その日、特記すべきことを一つ上げるとするなら、未悠さんのタロット占いの結果が正位置の『月』と悪かったことぐらいだろうか。

「おーいそれじゃあHR始めるぞ」

 鳥羽教諭が掛け声をかける。いつも通りだったのはそこまでだった。

「今日は1つ連絡事項がある。今日から1か月、教育実習で大学生が1人お世話になる。入ってこい」

「はい」

 その声を聞いて、後ろの未悠さんの体が凍ばった。気がした。

 ガラガラと音がして扉が開く。背の高い、イケメンっぽい男性が入ってきて。


 ガタン


 すぐ後ろから何かが倒れる音がした。椅子だ。

 後ろの席にいるのは未悠さんだ。

 振り返る。

 見えたのは後ろ姿だけだった。翻るスカート。焦ったように動く足。口元を抑えていた。

 立ち上がる2人。僕と京香さん。

 教室の後ろの扉が開け放たれて、未悠さんが去っていく。

 それを負って僕も飛び出した。

「伏見悠杜!」

 京香さんが絶叫する。久しぶりにフルネームで呼ばれた気がした。腕をつかまれる。

 そう言えば、僕よりも京香さんの方が足が速いんだったか。

「先生に伝えてください! 私とお姉さまは早退すると。後で保健室で会いましょう!」

 思いっきり腕を引っ張られて。その反動でもつれ込む。

 ただ未悠さんと京香さんを見送った。

 いや、こうしている場合じゃない。先生に事情を説明しないと。

 振り返るとちょうど鳥羽教諭が教室からのそのそと出てきたところだった。

「先生、未悠さんと京香さんが早退するらしいです。未悠さんが体調不良で、京香さんがその付き添いで」

「え、あ、まあわかったが。一体何があったんだ?」

「それは、ちょっとわかりませんが……」

 一瞬だけ見えた横顔が妙に青白く見えたのは嘘じゃない。

 恐らくだけど、入って来た教育実習の人。あの人に何かあるのは間違いなかった。

「まあ、体調が悪そうだったからな。これ、早退届だ。渡しといてくれるか?」

「あ、わかりました」

 鳥羽教諭は特に何も聞かずに早退届の紙を渡してくれた。

「そうだ、伏見」

「なんですか?」

「僕はまだホームルームがあるから戻るけど、深草に心配していたって伝えておいてくれ。どうせ、保健室行くんだろ。1時間目は欠席扱いにしておく」

「ありがとうございます。わかりました、伝えます」

 そのまま去っていく鳥羽教諭。感謝して保健室に向かうことを決めた。

 そう言えば、保健室とは逆方向に去っていたけどどこへ向かったのだろうか。




 保健室のベッドに未悠さんは座っていた。吐き気がするのか京香さんが背中をさすっている。

「どう、体調は?」

「よくないですね」

 京香さんが答える。未悠さんは背中を向けたままだ。

「吐き気がまだするの。ちょっと早退させてもらおうと思って」

「まあ、体調が悪いなら仕方ないよ。ゆっくり休んで、元気な姿を見たい」

 ただ体調が悪いわけじゃないのは見ていて分かった。だけど、空元気でもあげられたらと思って。

「早退届代筆しとくよ」

「今タクシーを呼んでいます。到着したら帰りましょう」

「2人ともありがとうね。私なんかのために」

 未悠さんが卑屈になる。そんなことないのに。そう思っても口には出せなかった。

 たぶん、精神的ストレスだ。本当に体調が悪いわけじゃなくて、教育実習の大学生を見たときに何かがあった。たぶんトラウマ。

 そしてそれを慰める術を僕は持ってなかった。だって僕もトラウマに囚われたままの人間だから。

「そんなことないです。お姉さまは大丈夫です」

「京香、ありがとうね」

 きっと。

 きっと、そんな大したことじゃないよ。

 そういうつもりだった声は空を切った。

「京香ちゃん、タクシー来たってさ」

「わかりました。お姉さま、大丈夫ですか?」

「うん。2人ともありがとうね。私なんかのために」

「そんなこと」

 ないよ。

 言えなかった。だって、だって。

「お姉さま、行きましょう」

「うん」

 京香さんが未悠さんを連れていく。


 結局一度も視線が合わなかった。合わせられなかったし、合わせてもらえなかった。

作者「というわけで、この章のテーマを発表します」

詩音「ジャララララジャン!」

作者「未悠さんのトラウマ編です」

悠杜「ところで加乃先輩はどこに? 普段なら詩音先輩じゃなくて加乃先輩がいそうなのに」


作者「さあ?」

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