暗い顔は見たくないから
いつも通りの朝。いつも通り京香さんと未悠さんと一緒に学校へ向かう。
「あ、ちょっと待ってて。今日寝坊しちゃってさ、コンビニでおにぎりか何か買ってくる」
「それなら私のお弁当を」
「別にいいよ。たまにはジャンクフードも食べたくなるでしょ?」
「お姉さまがそういうとは。まあ、仕方ありませんね」
なんてことを言いつつ、僕たちも一緒に駅前のコンビニに入っていく。そう言えば、コンビ二のご飯食べてるところ見たことないかもしれない。寝坊って昨日何かあったのかな? アルテミスもアポロンもいつも通りだった気がするけど。考えすぎか。
「へえ、シラスおにぎりなんてあるんだ。今度買ってみようかな」
「それもいいね。私は今日はパンの気分なんだ」
そう言えば、未悠さんは結構パン好きだったかもしれない。
「パンだったら何が好きなの?」
「圧倒的にメロンパンかな。でも、私はメロン入りのメロンパンは認めない人だから。王道のが好きなんだ。今日は、ピザパンとカレーパンにしとく」
そう言ってパンを2つ手に取る。
ちょっと、ほっこりしたような、そんな気がする。ここのところいろいろあって、気づかないうちに心が荒れていたのかもしれないな。きっと未悠さんの笑顔にみんな魅かれるているんだ。
「ごめんね、待たせた? それじゃあ行こうか」
「やっほー、3人とも元気?」
学校につくと加乃先輩が僕らの教室に押し掛けてきた。しかし、加乃先輩ってすごく警戒されてるんだなあ。爆弾みたいな扱いをされてる。触れるな危険。
「元気ですよ。加乃先輩も相変わらずですね」
「まあね、体調管理はしっかりやってるから。あ、いま馬鹿だから風邪ひかないんだって思ったでしょ」
「そ、そんな馬鹿な」
本当のこと言うとちょっとだけ思った。
「ところで加乃先輩。その手の動きは何ですか?」
ちょっとそのワキワキとでもいった動き不安なので、やめてくれません?
「これは、アイアンクローの構えだよ。というわけだ」
「痛い痛い痛いって! やめてくださいよ、馬鹿力なんだから!」
「なにおう、花も恥じらう乙女に向かって馬鹿力とはなんだ」
というか調子乗らないでくださいよ。なんで僕はアイアンクローを受けないといけないんだ。
「そういうのは、立派な淑女になってから言ってください。それで、今日は何の用ですか?」
大分加乃先輩のあしらい方も上手くなったなと思う。それと同時に雑になったけど。
「いや、特に。しいて言うならテストの結果とか知りたいなと。あとアイアンクロー?」
そう言えば、さらっと流してたけどテストがあったんだった。結果は13位でなんと二条の1つ上。相当目の上のたん瘤だろうなあと思うことしばしば。それと、アイアンクロー目的で来ちゃいけないと思います。
「まあ、それはそうとして、あれ、凛音ちゃんに渡してくれたみたいだし、お礼を言っとこうと思って。それと、ジョギング頑張ってる?」
「え、ええ、まあ」
忘れてたなんて言えないや。家に帰ったらやっとこ。
「まあ、いいや。それじゃあね。あ、そうだ」
一つ思い浮かべたようにやってきて耳元で囁かれた。
「黄金林檎は最も美しいものに与えられる。なら、何をプレゼントするのがいいんだろうね」
それだけ言って退散していく。意味が分からなかったけど、きっと、本当はこれを言いに来たんだろう。まったく、あの人は。
実は、気づいていた。少し僕を見る目に、怪訝な視線が含まれているということに。嘘だとわかっても噂を確かめたくなるのかもしれない。
気づいていた。加乃先輩の調子があまりよくないことに。いつもからかわれてるから分かる。楽しそうにちょっぴり黒い笑みを浮かべている。それが加乃先輩だけど、ここ数日、いつもよりもからかい方が雑になっている。ちょっぴり義務感が混じったようなそんな気がする。
加乃先輩だけじゃない。京香さんも、千秋さんでさえ、少し焦っているような気がした。未悠さんが無理をしがちなのはいつものことかもしれないけど、僕の周りがどんどん動きすぎている。
理由は知ってる。言うまでもなく二条利頼だ。あいつが来てから、雰囲気ががらりと変わってしまった。みんなが明るく振る舞ってるけど、実際はそうじゃなくて。
元に戻って欲しいから。いや、戻るなんてことは無理なのはわかってる。何かしら変わってしまうんだろうってことも。だけど、僕はみんなに暗い顔をしてほしくないから。笑っていて欲しいから。
前に進まなくちゃならないんだろうなって思う。もっというのであれば、二条を敵に回す覚悟が。
「兄さん、今日の放課後は空いていますか? 例の件について話し合いたいと思います」
「空いてるよ」
どうやら、潮時のようだ。
作者「ちなみに黄金林檎の意味は?」
加乃「ないよ」
悠杜「ないのかよ!?」
加乃「まあ、無きにしも非ずだけど、意味深なことを言う親友役をやってみたかった」
作者「もともと予定してた親友ポジションは竹田君だったんだけど、いなくなっちゃったからね」
竹田「一応いるよ!?」




