加乃先輩はやっぱりバカノ先輩でした
開けといて、なんて加乃先輩に言われたけど承諾してはいないわけで。従って別に行かなくてもいいんだけど、でも暇だし。それに、二条関係だろうななんて考えるわけで。そんな理由付けをして京香さんと家を出た。ちなみに今日はシャルロットじゃなく、加乃先輩の自宅なんだそうだ。
そういうわけで電車に乗ってすぐ1駅。京香さんの先導でマンションの一室にたどり着く。菓子折りを持って。
「いらっしゃい、他の人たちも来てるよ」
「あ、これ、親御さんに」
「要らないって。私1人暮らしだし。まあでもみんなで美味しくいただくとしましょうか」
「だから言ったじゃないですか」
知ってたんなら言って欲しい。わざわざ駅前で買ってきたのに。クッキーだけど。そこまで高くはなかったけど。
「えっと、お邪魔しまーす」
「あなたが伏見先輩? これからよろしくー」
「よろしくお願いします」
リビングに入ったところで初対面の2人と挨拶する。あ、いや1人は見かけたことある、はず。誰だっけ。それから彩里さんがいる。
「涼ちゃんと凛音っちとは初めてだったよね。紹介するよ、桃山涼乃ちゃんと高槻凛音ちゃん。2人とも未悠ちゃんの一学年下だね。志望校はうちだから来年入ってくるはずだよ」
「初めまして。桃山涼乃です。あなたが、先輩のいい人。ちょっと興味ありますね」
「高槻凛音です。えっと、涼乃の友達です」
「これはどうも。伏見悠杜と言います。未悠さんとはクラスメイトで、後『シャルロット』のバイトでよく来るから結構親しくさせてもらってます」
凛音さんには特に何も感じなかったけど、涼乃さんの方からは得体のしれない何か恐怖みたいなのを感じた。加乃先輩と似ているような気もするけど、ちょっと違う。まあ、気のせいか。
「これなら、勝てるかも」
「涼ちゃんその辺にしとく。それじゃあ今日の作戦を説明するね。資料作って来たからまずはどうぞ」
クリアファイルを渡される。プレゼンかな?
「はい。それじゃあ説明するね。今回潰すのは二条家と密接な関係にある子会社だね。コンサルティングをやってて、最近ちょっとずつ業績を伸ばしてる。なんだけど、計算がちょっと合わないんだよね。つまり黒い金がある。で、調べてもらったんだけど闇組織に顧客情報を流してるみたい。ただ、その流してる情報が問題なんだよね」
「実は、詐欺用じゃなくて、誘拐ビジネスみたいなんです」
「ちょっ、ちょっと待って!」
加乃先輩に涼乃さんは何を言っているんだ!?
「それって、犯罪じゃないですか!」
「犯罪ですよ。ただ、証拠がないですし私たちの情報も涼乃さんのハッキングによって得てますから。ですから、私たちで叩きます」
驚いて叫んだことに京香さんが返す。え、なにこの当たり前ですみたいな雰囲気は。ハッキングとか、闇組織とかそういう世界が当たり前に登場してくるんですか。
「まあ、そういうわけだから気にしないで聞いてくれる? それでなんだけど、今回は現場を叩くってことができません。それに私たちだけならともかく、悠杜君がいるのであんまり取りにくいしね。なので、今回はこれを使います」
そう言って加乃先輩はUSBを取り出した。これ、と言われてもわかんないんだけど。あ、凛音さんがお菓子に手を出した。というかいつの間にか半分に減ってるのはなんでだ。
「何か知りたい? 知りたいよね。仕方がないなあ、加乃ちゃんが教えてあげよっか?」
「これには私の作ったプログラムが入っています」
あ、加乃先輩はいつも通りバカノ先輩だった。そして涼乃さんのツッコミがさえ渡っている。やっぱり、このメンバーで動くことがあるんだ。
「言わないでよ、もっと焦らす予定だったのに。それでなんだけど、何とこのUSBを差し込むとパソコンの中にウイルスを仕込んで、クラウドの中からそれらしきファイルを見つけ出してコピーしてくれます。時間にして3分くらいだっけ?」
「150秒だよ」
加乃先輩の質問に涼乃さんが答える。本当だとしたらそれはすごい。素人の僕でもわかるくらい。
「なので、今回の仕事は簡単ですね。会社に潜入し、部長クラスのパソコンにUSBを指して回収する。あとは適当にコピーして内部告発の振りをしてその辺に送りつける。ちなみに、別の高校の新聞部ってことで取材を申し込んでます」
何となくわかったんだけど、どうして加乃先輩は僕の方を見るのかな? 僕関係ないんじゃ。
「それで、二条の力をそぐのに悠杜君が頑張ったって実績があったほうがいいでしょ? だから、今回のメンバーは私と悠杜君、それからカメラマンとして彩里ちゃんで。制服もそれ用に3着だし」
「はい?」
京香さんが疑問の声を上げる。僕もびっくりした。京香さんの方が戦力になりそうな気がしたんだけど。
「考えてみたら京香ちゃんに頼りっぱなしだしね。今回は凛音っちと京香ちゃんには緊急時に控えててもらうって寸法で」
「わかりました」
渋々と言った感じで京香さんが引き下がる。加乃先輩にも考えがあるみたいだし、まあ仕方ない。ちょっと真面目モードの顔をしている。
「よし、ちょうどお菓子もなくなったことだし、着替えるとしましょうか」
ポンと手を叩いて、どこから取り出したのか別の高校の制服を取り出す。って!?
「よし、悠杜君、お着換えしましょうか」
「嫌ですよ! なんで女子用の制服なんですか!」
「だって、悠杜君に会うと思うし。メイクもするからさ!」
「絶対にしません! 何かに目覚めそうな気がするんで嫌です!」
「そんなこと言わずにさ」
訂正。加乃先輩はやっぱりバカノ先輩でした。
一応女装は回避してもらえた。
作者「でも、私個人的には女装少年大好物なんだよね」
加乃「じゃあ、やっちゃう? やっちゃえ? やっちゃおう」
作者「よし、やっちゃおうか」
涼乃「はい、それじゃあ写真希望です」
彩里「任せとけ。ベストアングルで撮ってやる」
悠杜「……どうしてここには常識人がいないんだ」




