あっちこっち忙しすぎるんだ!
バカノ先輩のバカヤロー!
はあはあ、まったく、あの先輩はなんてものを作ってくれたんだ! 生徒会企画に、よりによって料理大会の様子を編集して持ってくるなんて! 恥ずかしいよ! しかも、にやにやしながら恥ずかしがる僕たちと、興味津々で質問してくる葵を見てた。一発くれてやろうと思ったら逃げるし! オニオンスープの人だってクラスメイトにからかわれた。もうやだ。
とまあ、いろいろあったわけだけれど、2日目は終了した。無事にとは言えないのが辛い所である。ただ、今日の朝様子を見たところ、フクロウたちに問題はなかった。なので、今日は連れていけそうである。人気投票1位取れるといいな。それから、3日目、つまり今日は待ちに待った午後から未悠さんと二人きりで回る時間だ。って、デートじゃないから! た、たぶん違う、えーと、その、とにかく違うから!
「それじゃあ、お姉さまとの文化祭デート楽しんできてください」
だから、違うってば!
未悠さんのお父さんに来るまで送ってもらって降りる。さあ、最終日、我らのペットカフェで有終の美を飾ろうじゃないか。
「お疲れ様。あとは、私たちに任せてね、店長さん」
「よろしく」
三希さんに挨拶をして教室を出る。お昼ご飯を食べている時間がなかったからペコペコだ。もう、僕のシフトはないから、未悠さんとのんびり食べ歩きでもすることにしよう。
「悠杜君、こっちこっち」
「お待たせ。それじゃあ、行きましょうか」
先にシフトを抜けていた未悠さんと合流する。中庭にクラスだったり、運動部の露店が並んでいる。確か、園芸部の出店もその辺りにあったはずだ。冷やかしにでも行こうかな。
「ご飯食べました?」
「いや、まだだよ。とりあえず、たこ焼きと焼きそばでも食べようかなって。悠杜君は?」
「僕は、ホットドックにしようかなーと」
「いいね」
料理部も少し興味があったけど、混み過ぎている。あんまり人込みは得意じゃないから、お昼時を過ぎて、何か残っていたらっていう感じかな。
「私も、ホットドックも頼もうかなあ」
「それ、食べ過ぎじゃない?」
「こういう時は食べないと。それに、悠杜君も興味あるでしょ」
「まあ、ね」
でも、それだと必然的にシェアすることになるし、お箸はどうするんだ。まさか、間接キ……、何も言うまい。店員さんにお箸もう1膳頼もう。
「あ、でもお金は出すよ」
「じゃあ、半分頂戴」
既に未悠さんは店員から焼きそばを受け取っていた。丸刈りにした男子の鼻の下が伸びている。ちょっと腹が立った。
「とりあえず、その辺に座ろっか」
割り箸はちゃんと2膳もらってきた。
「ところで、この後、どこ行きます?」
「確か、悠杜君って写真部所属だったよね? 一応、見に行きたいな」
「じゃあ行きますか。僕もどんな風に飾られてるのか気になりますし」
「あとは、演劇部と、軽音部は、行きたいかも」
「僕は、科学部のプラネタリウム興味あります」
「あ、それは気づかなかった」
ちょっとくすぐったい。だけど、なんか、こういうのもいいなって思ってしまう。未悠さんの笑顔がすごくきれいでちょっと、見とれてしまう。永遠なんてないって知ってるけど、でも、こういった穏やかな時間が続けばいいって思ってしまう。
「どうかした?」
「いや、ちょっと。何でもないけど楽しいなって」
って、これ、フラグじゃないよね!?
どうやら、平穏はあっという間に過ぎてしまったらしい。
「悠杜さん! 僕と一緒に回りましょう! デートです!」
「それはパス!」
桂君から逃げ回る羽目になって未悠さんとはぐれたり。
「やっほー加乃ちゃんだよー。えい!」
「先輩!?」
加乃先輩に押されたり。
「何するんですか! 危うく未悠さんを押し倒すところだったじゃないですか」
「チッ」
「今舌打ちしましたよね!」
「してないよ。悠杜君を押して未悠ちゃんと甘い展開にしようとか、あわよくば私が取って変わろうとか考えてないよ」
「嘘だ!」
加乃先輩にからかわれたり。
「あれで、勝負しない?」
「受けて立ちます」
ストラックアウトで勝負して。
「5枚だけだった。そっちは?」
「……2枚」
惨敗したり(これは違うか)。
「これが、悠杜君の作品?」
「ええ。湘南に行ったときに」
江の島の写真を見たり。
「これは、新幹線かな?」
「って加乃先輩!? 写真部だったんだ」
「そうだよー。えい!」
加乃先輩にからかわれたり(その2)。
ともかく、いろいろと疲れた。忙しかった。主に加乃先輩のせいだけど。
そんな現状何をしているかと言えば、演劇を見て感動していた。この後体育館を片付けたら軽音部でフィナーレになる。それまで、体育館の外で時間をつぶそう。そう思って手をポケットに突っ込んだ時だった。それを待っていたかのように携帯が鳴り響いた。
「もしもし」
「兄さんですか!? 京香です!」
キュイィィィ!
やけに慌てていた。フクロウの鳴き声だ。これは。
「何か……」
「アルテミスとアポロンが暴れています! 早く来てください!」
「っ! すぐ行く!」
くそ、軽音部に間に合わないかもしれない。いや、それはどうでもいい。それよりもフクロウたちの方だ。骨折でもしたら大変だし、人にも危害が出るかもしれない。
「悠杜君!?」
未悠さんの手をつかんで走り出す。飼い主の未悠さんもいた方がいい。ただ、驚いたのか未悠さんの足が絡まる。
「何があったの!?」
「アポロンとアルテミスが暴れている! 早く行かないと!」
「こっちの方が近いよ!」
気が動転していた。未悠さんに逆に手首を引っ張られる。追いついて、そして少し引きずるように未悠さんを連れていく。
右、左。人垣が邪魔だ! 割って入る。驚いた顔をされたが無視だ。階段を2段飛ばしで登ろうとして未悠さんが足を引っかけて転んでしまった。歩幅が男子と女子じゃ全然違うんだ!
「大丈夫!?」
「たぶん」
ちょっと上で待って合流する。露払いは僕の仕事。そのまま教室へ。ていうか、1日目にもこんなことがあったような、ってどうでもいい。
「お待たせ!」
「こっちです! 私では2人の扱いが分からなくて!」
京香さんで無理なら、扱いができるのは僕と、未悠さんと、どこかにいるかもしれない千秋さんしかいない。見ると、パニックになって2人が暴れていた。他の動物たちは、大丈夫そうだが入れない。しかも、男子生徒と威嚇しあっている。まずい、手を振り上げた。
「やめて!」
キュエエエエィィィ!
男子生徒にタックル。僕の体重軽すぎだ!
「グっ、何しやがる!」
「京香さん! 他の動物たちを退避させて! それから未悠さんも手伝って!」
男子生徒の右腕を後ろへ回して締め上げる。
「あ、うん、わかった!」
ちょうど店舗にいた拓都君も手伝ってもらう。あ、でも、拓都君にはこの男子生徒を。
「ごめん、この人をとりあえず抑えといてもらえる!? 僕はアポロンの方を抑えるから!」
「わかった」
男子生徒を引き渡す。未悠さんでも2人を同時になだめるのは大変だ。いつも横にいる僕らが一番なのは間違いないけど。ほら、ちょっと落ち着きなって。
キュルキュイ!
ようやく2人は落ち着いた。といっても、まだ興奮状態にあるから、人前には出せない。文化祭が終わるまでケージの中だ。幸い骨折はしてなさそうだが、ケージの中で暴れないかは祈るしかない。それと、うるさい。ただ、こればっかりは仕方ないかな。
一息ため息を吐く。だいぶ疲れた。体育館からここまで、150mくらいを全力疾走してきたわけだし。
未悠さんがバッっと顔をあげる。
「ライブ! まだ間に合う!」
「まじで!?」
未悠さんが駆けていく。僕も、……っとっとっと。
「京香さん、アルテミスとアポロン任せていい?」
無言で頷く。僕もいかなくちゃ。
結果として、僕らは間に合った。だけど、あっちこっち忙しすぎるんだ!
軽音部のライブが終われば、文化祭は終了になる。ほとんど歌詞は聞き取れなかったけど、その場のノリで盛り上がっていた。体がまだ火照っている。そんな中を、未悠さんと2人、中庭を歩く。
「楽しかったですね」
「これから、片付けしなくちゃ」
片付けは大分大変だけれど、頑張らないとね。そう思った瞬間だった。
「未悠!」
けれど、そこに、男子の声が飛んだ。知らない声だ。
僕でさえまだなのに、呼び捨てなんて。って嫉妬してるみたいじゃないか!
「あの、どちら様でしょう?」
未悠さんも知らないみたいだ。首をかしげる。
「あれ、お父さんから聞いてない? 父に伝えてくれるように頼んだのに」
身長は……、僕より高い。そして、悔しいことに顔もイケメンだった。年齢は僕と同じくらい。制服を着てないから、他校の生徒だとわかるけど、そのイケメン君は少しにこっとした後言ってのけたのだった。
「初めまして、未悠の婚約者の二条利頼です」
加乃「というわけで、文化祭編は終了ってえええええ!?」
京香「初耳です! 何事ですか」
作者「クリフハンガーってやつですね」
加乃「そうじゃなくて!」
作者「それはまた次回。でも、加乃さんを驚かせたぞ!」
悠杜「それはどうでもいい」
18/08/27:名前を岩倉→二条に変更しました。




