十条千秋 黒幕は近くに
長らくお待たせしました。新章スタートです
「最近、なんか、悠杜君が冷たい気がするんです」
「と、いうと?」
平日の夕方、シャルロットに未悠ちゃんが来ていた。アップルジュースをサービスする。
「なんというか、話しかけてもうわのそらのような気がしてて。疲れてるみたいだし」
「加乃ちゃん騒がしいもんね」
でも、加乃ちゃんも悪い子じゃないんだけどね。まあ、他にも思い当たる要因はあるんだけど、黙っておこう。そろそろ元に戻ると思うし。
ちなみに、悠杜君というのは、未悠ちゃんがひそかじゃなく片思いしている少年の名前で、わけあって私もその2人をくっつけようとしている。でも、悠杜君の自己評価が低いというか、恋愛なんてしたくないと思っているせいで、なかなかうまくいかないわけだ。
「未悠ちゃんから告白……、ってのは無理か」
様子を見る限り、無理そうだ。顔を赤くして震えてる。トニックウォーターでも飲ませた方がいいかな。
「それだと、やっぱり悠杜君をどうにかして振り向かせないといけないよね」
「すいません、やっぱり、恋愛ごとは自分からとなると、ちょっと苦手で」
「仕方ないよ、誰にだって、苦手なことはあるしさ」
私はよく知らないのだけど、未悠ちゃんの追っかけの京香ちゃん曰く、過去に何かあったのだそうな。だから、自分からというのが怖いと。
「でも、悠杜君もアレだからなあ」
だから、悠杜君をたきつけて、未悠ちゃんに告白させれば万事解決、なのだけれど、ヘタレなのだ。ただ、未悠ちゃんが無理なラインがあいまいで、告白は無理だけど、突如大胆な行動取ったり、あるいは、ちょっとしたことで火を噴いたりと、なかなか思うようにいかない。
「キス、とかは、流石に無理か」
首をぶんぶん振っている。どうやら、キスは無理らしい。
「さりげなく色仕掛けしてみるとか? 肩にもたれかかってみたり、抱き着いて、すぐ離れるとか」
「でも、それをやると、避けられるような気がするんですよね。上手く、外されるというか」
悠杜君が、未悠ちゃんを好きなのも間違いない。本人が認めたがらないだけで。だから、嫌がってるわけじゃなくて、恥ずかしいだけなんだろうけど、それでも、抱き留めて欲しいよね。
「悠杜君、認めたがらないからねえ。サブリミナル効果で、周りから、暗示をかけさせるとか?」
「それ、いいんじゃないですか」
伏見悠杜は、深草未悠が好きって、暗示をかけるのも結構大変だと思う。というか、私恋愛はそこまで得意じゃないし。占いも、金運とか勉強運とかの方が好き。それに、実のところ、恋愛は1戦1敗なのだ。
「あとは、案がないことにもないんだけど、ハイリスクハイリターンだから、どうなるか」
「ハイリスクなのは問題かもですね」
加乃ちゃんがもっとからかって、楽な心構えにしてしまえばいいんだけど。あるいは、悠杜君と関係を結んで、慣れさせるとか。ショック療法みたいな感じで強引にできなくもなんだけど、加乃ちゃんは肝心なところで茶化しちゃうからねえ。彼氏ができるのは、いつになるやら。
「今のところ、それとなく、悠杜君をたきつけるくらいしかないかな。後は、新学期が始まったら顔も合わせやすくなるんじゃない? 同じクラスで生徒会なんでしょ?」
「そうですね。ありがとうございます。ちょっと、頑張ってみようかな」
「あ、それとキャロットケーキ食べる? ちょうどできたよ」
「いただきます!」
こうやって姿を見ると、未悠ちゃんって本当にかわいいと思う。悠杜君も未悠ちゃんもよく知ってていい子だからくっついてほしいと思うのだけれど。
「ごちそうさまでした、また来ますね」
「うん、いらっしゃい」
だから、かもしれない。余計なお世話を焼いてしまいたくなる。ハイリターンでも、無理やりくっつけようと。恋の黒幕は楽じゃないのだ。
「もしもし、大叔父さん? ちょっと話があるんだけど、いいかな」
あまり、恋心には詳しくないが、こういう言葉がある。ロミオとジュリエット効果。これは、恋愛にはある程度の障害があったほうが結果的に成就しやすくなる。そういう話だ。だから、人為的にちょっとした壁を2人の間に作ってたきつけようと思った。具体的には、恋敵となる男子を配置する。後は、加乃ちゃんと京香ちゃんに根回し、かな?
「うん、一回合わせてみたらいいんじゃないかな? それじゃあ、またね」
電話を切る。これで、一応の準備は整った。悠杜君、上手くたきつけてくれればいいけど。恐らくは、大丈夫だろうと確信してる。認めたくないだけで、悠杜君も未悠ちゃんのことが好きだから、取られるかもしれないって思ったら、動きはある。と思う。2人ともうまく動いてくれればいいけど。
シャルロットとアルフレッドは仲がよさそうにホーとないている。それを見てちょっぴり笑った。
作者「ついに動き出す黒幕。深まる闇。果たして黒幕の目的とは? そしていったい誰なのか? 悠杜と未悠は付き合うことになるのか?」
十条「とは言いつつ、黒幕既に分かってるし、当分、シリアスになる予定はないんですけどね」
作者「……。もういい、あんたのことはあとがきで黒幕としか書かん」
十条「ちょっとそれ横暴!」




