閑話 大谷拓都の野望8
「疲れた……」
カフェテリアにたどり着いた俺の第一声がそれである。ちなみに伏見は水無瀬さんの扱いで疲れ切って死んでいる。いや、死んではないんだけどさ。
「あの人は、いつもああいう感じですから、気をつけてください」
山科さん、忠告が遅いですよ。というか、俺の周りにいるやつ(正確には伏見)はどいつもこいつも変人ばっかだ。
「ああ、お姉さまと加乃様のあの絡み、動画を取っておくべきでした」
具体的には腐女子とか。
「ねえねえ、あっちでジェラート売ってるよ。食べに行かない?」
要注意人物とか。
「あ、私行きたいです!」
体力無尽蔵の伏見の従妹とか。
うん、おかしい。あれ、伏見を餌にすればもっと簡単に魚が釣れると思ってたんだけどな。アユの友釣りかなんかか? いや、そもそもそれ自体知らないけど。余計な人物が大量についてきた。次回から伏見を餌にするのやめよう。出来る限り。
まあ、伏見はいいやつだけどな。
「大谷君と伏見君はカレーでよかったですか」
「あ、ありがとうございます」
それに比べて坂本さんまじ天使。わざわざ買ってきてくれるなんて。伏見は完全にノックアウトされてます。これ、起こした方がいいかなあ。いや、起こしたらたかられるか。
「これ、お金です」
崩した千円札を渡そうとする。
「え、いや、いいって。それに金額多いし」
「買いに行ってもらった俺の気持ちです。受け取ってください」
「え、でも」
そんなことを言いながらお札を押し付けあう。ああ、すごくいい子だ。でも、ここで引き下がっては俺の立つ瀬がないのである。
「いいから受け取ってください、ね?」
「そういうのはおとなしく受け取っちゃいなよ」
「うわ、出た!」
要注意人物が出やがった!
「人をお化けみたいに言わないでよ! ったくもう」
そう言って頬を膨らませるがお化けよりたちが悪いわ!
「それに、拓都君、みっちゃんに惚れてるみたいだしね?」
「ちょ!? 惚れてなんかいませんよ!」
容赦なく爆弾を落とすっていった意味がよく分かった!
「そうかな~、まあ、お熱い2人は置いといて、ゆーくんいじることにしようっと」
そう言ってスキップしながら去っていく。あざといくせに何かに遭うぞチクショウ。
「えっと、その」
あ、坂本さんのこと完全に忘れてた。
「あの、すいません。つい、むきになっちゃって」
「私、彩里ちゃんとご飯食べてくるね」
そう言って坂本さんは去って行ってしまった。
あいつのせいで微妙な空気になっちまったじゃないかチクショウ!
「なあ、なんで俺たち男二人で日陰にいるんだろうな」
「なんででしょうねえ」
ビーチパラソルの下、なぜか伏見と横になっていた。
いや、理由はわかる。あのあと、坂本さんと微妙な距離感になってしまって、何となく避けられているのだ。一人で泳ぐなんて味気ないしな。それと、深草さんたちを目の保養にしようかとも考えたが、そうすると坂本さんからの視線が痛い。いや、抜群のプロポーションなんだけど、なんかジトっとした目で見られるから避けざるを得ないんだよね。なんて言ったらいいのか。隠していたエロ本が彼女に見つけられたとか、そんな感じかな? わかんないけどさ。
ちなみにその元凶を作り出しやがった人物は水無瀬さんの手を引いて泳ぎを教えている。それと、胸ないんだな。どうでもいいけど。
「というか、あの人とはもう関わりあいたくねえわ」
ついでに言うと名前も言いたくねえわ。『名前を言ってはいけないあの人』的な。
「樟葉先輩は自由奔放ですからね」
そうだよ、あの人さえいなければ。伏見が連れてきさえしなければよかったんだ。水着持ってなかったのか近くの売店で買ってたくらいなのに。
「と言っても伏見を恨むのはお門違いだもんなあ」
俺以上に疲れてやがるし。
「そうなんですよ。あの人人の恋愛ごとにすぐ茶々入れてくるし、寂しいのかと思わせといて襲ってこようとするし」
「ちょ、お前!」
羨ましい、と言おうとしてやめた。うん、だめだ。あの人に襲われるとか恐怖以上の何物でもない。
「まあ、せいぜい頑張ってくれや」
俺の知らない範囲で、という条件は付くけどな。
「おーい、そこの男子2人! ビーチバレーで勝負しようよ!」
そう言いながらあの人が無理やり俺たちを日向へと引きずり出す。伏見はもうあきらめの表情である。太陽は、やけにまぶしい。
そして俺たち男子2人は見事無様に一回戦負けを期した。坂本さんが俺に向かって強烈なスパイクを叩きつけていたのは気のせいじゃないかもしれない。ちなみに優勝は見事1回戦であの人(プラス水無瀬さん)を下した深草、山科ペアであった。
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