79.竜王二人と一旦帰宅
スライムを討伐してから数十秒後。
俺は金剛を解いた状態で、平原に横たわる竜王を眺めていた。
「え、えっと……大丈夫かな……? 変身できるかな……?」
ラミュロスは不安そうに言いながら、白い煙に包まれた。そして、
「ぷはああ、良かったあー。助かったあー」
温泉水でびっちゃびちゃになった状態で、人の姿をとった。
茶色い髪をした豊満な体の女性だ。
「ようやく小さくなれたよ。ごめんねー、ダイチさんと、ヘスティと人間さん達」
「小さく……? ああ、まあ、そうか」
竜と比べたら確かに小さいが、なんというか、胸も尻も大きかった。
アンネもそうだったが、竜王というのはスタイルがいいものなのかな、と思ってから、俺はヘスティを見た。
「……どうしたの? こっち、見て」
「このラミュロスは、ヘスティと幼馴染なんだっけか?」
「ん、そう」
そうか。だとしたら年月で体つきが良くなるわけじゃないのか。
なんて二人を見比べて思っていたら、ヘスティはちょっとだけむっとした。
「各部に視線を感じるから、一応、言っておく。我は、体の圧縮が上手いだけ。こいつらは、体の圧縮が下手なだけ。体格差があるのは、当然」
言いながらヘスティは、ぷいっと目をそむけてしまった。
気にしていたのかもしれないが、疑問に思ってしまったんだから仕方ない。
まあ、あとで杖の材料でも渡して機嫌は直してもらおうか。
「んで、ラミュロス。体の方は動かせるのか?」
「うん、お陰さまで。すごく動くよー」
ラミュロスは嬉しそうに手足をバタバタ動かした。
大型犬が尻尾を振ってるみたいな動作だ。
彼女からはなにか、動物的な雰囲気を感じる。
そう思っていると、ラミュロスは俺の顔を見て頭を下げた。
「改めて、ありがとう。すごく迷惑をかけたから、何かお礼をしたいんだけど、人間さんの間では、お礼って何をすればいいのかな?」
「え? 俺は特にはないけれどなあ」
加工用のリンゴが樹木になってしまったけれど、別にストックはまだまだあるし。被害というような被害はない。
だから俺の隣で未だへたりこんでいるディアネイアに話を向けた。
「ディアネイアはなんかあるか?」
「わ、私か? そ、そうだな、……街の損害は一等地近隣であったのから、補償するための金は欲しいところではある。あと、ダイチ殿にも報奨金を渡したいしな」
もう金は十分に貰っているんだから、そこまでいらんのだがな。
まあ、祭りで還元すればいいから、今はスルーしておくとして、
「ラミュロス。アンタ、金は持ってるのか?」
「うーん、お金は持ってないんだけど、ボクの鱗って売れるかな?」
と、平原に散らばった茶色い鱗を指差した。
「え、え……? りゅ、竜王の鱗を貰えるのか?」
「百年前に降りた時の知識しかないから、価値が分からないんだけど、どう? どうせ今の鱗は全部はがしちゃうし、それで補填出来るならしてほしいな」
「い、いや、補填できるとかそういうレベルではなく、むしろ儲けが大きく出てしまうんだが……。え、えっと、一枚が飛竜の鱗の数倍だから……」
ディアネイアは焦りながら、取引金額を試算している。ふむ、この分なら問題はなさそうだな。
「それじゃ、ディアネイア。この辺の鱗の処理は任せたわ。俺は家に戻る」
「え……え!? そ、それはいいが、ダイチ殿は何も受け取らなくても大丈夫なのか?」
大丈夫も何も、受け取りたいと思ったものはないからな。
「――ああ、でも、そうだラミュロス。俺もアンタの鱗で作りたいものがあったから、ウチに来てくれないか?」
「ボクの鱗で作りたいもの?」
「ああ、ちょっとでかめの浴槽なんだがな。自分の鱗だし、特性とかも分かってるだろ? 加工も必要だから、知識をくれよ」
「うーん、分かった。ボクにできることでよければ、なんでもするよ」
よし、これで、ウチの温泉も完成に近づいたな。
祭りの開催前に作り上げる、という目標もクリアできそうだ。
「んじゃ、ディアネイア、俺たちは家に戻って色々やってるから」
「う、うむ、了解だ。私たちも街の雰囲気を戻して、祭りを再開できそうなら呼びに行かせて貰う」
そんなわけで、祭りが始まる前に、俺は竜王二人をひきつれて家に戻ることにした。





