69.知識の泉
店にテレポートすると、椅子に座って杖を調整していたヘスティが出迎えてくれた。
「ん、おかえり。なんか、人、増えてるね」
「おう、ちょっと話を聞きたくてな」
店の居住スペースはかなり広く作ってあるので、四人が入っても十分な余裕がある。
「まあ、適当な椅子に座ってくれ。お茶とかは……無いけどな」
あるのはリンゴばっかりだ。
ゴーレムを作ってジュースにさせてもいいけれど、どうしようか、なんて思っていると、
「アナタは、話したいことが、あるんでしょ? なら、我が、やってみる」
ヘスティがそう言って、リンゴのある調理スペースの方に向かった。
「おお、ありがとう。頼むわ」
「ん、頼まれた」
お茶をヘスティに任せた俺は、ディアネイアとアンネが座っているテーブルに付く。
「それじゃ、落ち着いた所で聞きたいんだけど、ウサギの落石の件、なんか分かったか?」
「む? 彼女たちの店を潰したという落石のことか?」
「ああ、実はウチの方にも、それらしき石が落ちてきてな」
「な、なんだって!?」
言うと、ディアネイアは驚いて立ち上がった。
そして身を乗り出して、こちらの顔を見つめてくる。
「だ、大丈夫だったのか、ダイチ殿?! 怪我とかは……」
「ああ、全くない」
「住宅の方に影響は……」
「それもほとんどないな」
あるとすれば、庭の奥に大岩が増えたくらいだな。
邪魔だったら砕いて、埋めるだけだし、問題は無い。
「そ、そうか。良かった……」
「でも、なんでそんなに驚いているんだ?」
聞くと、ディアネイアは、ごそごそと懐をあさり、ひとつの石を取りだした。
それはこの前も見た、奇妙な模様のある石で
「……ええと、落ちてきた石は、このようなもので間違いないか?」
「ああ、そうだな。これだ」
「ならば……やはり、私は驚くよ。この物体、かなりの堅さを誇るのだからな」
「堅いって、普通の岩よりもか?」
確かに金属っぽくて硬い感触なのは分かるけれども。
「ああ、私が全力の火炎魔法をぶつけても溶けなかったし、ウサギの店からこの岩の破片を手に入れる時も魔法使い二十人がかりだった。――そしてこの破片を、風の魔法で加速させて打ちだしたら、城の城壁をぶち破るほどの硬度だった。それが空から落ちてきたのだが……貴方には効かないんだな」
へえ、そんなに堅いものだとは思わなかったぞ。
「樹木の盾で楽に受けとめられたしな」
「……貴方の家と、貴方自身の防護力は、本当に規格外だな」
竜状態のヘスティの打撃とか、サーヴァントデーモンの火球とかで、我が家の防御手段は鍛えられてる。
空から降ってくるのさえ感知出来れば、弾く事も出来るし、受けとめる事も簡単だったよ。
「それは、本当に凄いな。私は、やはり貴方に、憧れるよ……」
ディアネイアは、興奮したような、キラキラした目でこちらを見てくる。
そこまでのことをしたつもりは無いんだが。
ともあれ、だ。
「この石、なんなんだ? 俺やサクラも分からなかったんだが、普通の岩じゃないだろ?」
聞くと、ディアネイアは難しい顔をして石を眺めた。
「……こちらで調べた所、竜の鱗と似たような構造でな。竜が関係しているのではないかという推論になった」
「推論ってことは、これが何なのか、分かってないのか?」
「魔法で調査しても、中々適合するものが見つからなくてな。研究班が文献を当たってみるとはいっていたが……」
そうか。ディアネイアも分からないのか。
ならば他に知っている人を当たらなければいけない。
竜が関係しているなら竜に聞けばわかるか。
「アンネはこの石、知ってるか?」
「いえ、私も初めて見ましたね。武装都市でもこんなもの、みませんでしたし」
アンネも知らないらしい。
ううむ、だとすれば、どうしたものか、と思っていると、
「ん? ……それ、星竜王の鱗の一部? 珍しいもの、持ってるね?」
「えっ……?」
調理場の方からとてとてやってきたヘスティ先生が、一発で正解をくれました。





