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俺の家が魔力スポットだった件~住んでいるだけで世界最強~  作者: あまうい白一


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67.夜の街の竜王

 深夜になってから、俺はヘスティの背中に乗って街に向かった。

 街中の人通りも減っているのが見え、特に騒ぎになる事もなく着陸出来た。


「なんか悪いな、足にしちまって」

「問題ない。こういう、竜としてのリハビリも大事」


 人の姿になったヘスティは、大きなリンゴ入り木箱をひょいっと掲げて、店の中に運んでいる。


「そういや、体の方は治ったのか?」


 ボコボコにしたり、モンスターとの戦闘を任せている俺が言うのもなんだけれど、あれから良く寝ている姿を見るので、少し心配だったのだ。


「ん、もう完治。全力戦闘、出来るよ?」

「いや、やらんでいいぞ。する機会もないしな」


 全力戦闘なんてされたら、今度こそ戦闘した場所が灰になる。


「んー、念のため、力は貯めておくね」

「そうしてくれ」


 もしもの時に使えればそれで良いと思う。そんな時、来てほしくは無いがな。


「……しかし、ヘスティにコーティングを作ってもらうと、活動がしやすいな」

「そう?」


 撤収作業をしていた時、偶然にも街の人と出会ったのだが、ビビられてしまった。

 だから、今回は俺の魔力を抑えるコーティングもヘスティに張ってもらっている。


「まあ、強い魔力を感じると、飛び起きちゃう人、いるからね。そうならないように、コーティングは大切。我も、そう思って、自分にフタしている」


 ヘスティは本当に、気遣うタイプなんだな。そのお陰で、街にきてもトラブルが起きていないのだから、良いことだ。


 ただ、そんな彼女でも、避けられない問題もあったみたいで、


「白いお姿が見えたので来てみたら、姉上さまじゃないですか~~!!」

「深夜に、面倒なのが、きた……」


 夜の闇の中を、大きな袋を背負ったアンネが涎を垂らして走りよってきた。


「……怖いから、炎か何か、全力で、撃ってもいい?」

「街中でそういうのは止めろつったろ」


 怖いのは俺も一緒だがな。アンネは美人だけど、あの表情を見ると、化物か何かに見えてくるよ。


「えへへ……姉上さま、久しぶりですぅ~~」


 もはや抱きしめられることに抵抗すら見せなくなったヘスティは、死んだ魚の目をしながらリンゴを運んでいく。


「ああ、つれないですよ姉上さま! でも、そんな、放置プレイもまた……いい……!!」

「おいこらアンネ。深夜なんだから声のボリュームは抑えろよ?」

「あっ、そ、そうでしたね、ダイチ様。どうにも興奮が抑えきれなくて……って、アレ? なんだか、ダイチ様からも、姉上さまの魔力の匂いがするような……」


 アンネはヘスティを抱えたまま、ジリジリと近寄って来た。


「……魔力に匂いってあるのか?」

「いえ、無味無臭ですけれど。姉上さまの魔力になれているので、感じられるんですよ」

「うん、意味分からないけど、目が怖いんで近づかないで貰えるか」


 手で顔を抑えて遠ざけておく。


「ああ、手からも姉上さまの匂い――これは、魔力のコーティングでもされているんでしょうか……」

「そういうのも分かるのな……って、こら、手を舐めるな!」


 流石にヤバイ領域に入ってきたので、ヘスティを取り戻して、距離を取っておく。


「ああん、酷いですよー」

「ひどいのはお前の性癖だ」

「うう……ありがとう……」


 巨乳の中で揉まれたヘスティがぐったりしている。


「まあ、姉上さま成分で徹夜の疲れが吹き飛びましたし、良かったです」

「徹夜って……そういえば、クマが出来てるな」


 見れば、暗闇の中でもはっきり分かる位のモノがアンネの顔にはあった。


「いやあ、祭りまであと数日という事で、張りきって三日ほど徹夜をして、品物を用意していたらこうなっちゃいまして」

「うん、その気持ち、分かる。モノづくりに集中すると、寝なくても、いい、気がしてくる」


 ヘスティとアンネはうんうん頷いている。

 なんでそういう所は意気投合するんだ、こいつらは。竜王だからか。


「それで、ダイチ様は、この店で何を売られるんです?」

「ああ、まあ、リンゴジュースだよ。ほら、ウチに生えてる奴な」

「あれ、人に向けて売っても、大丈夫な奴でしたっけ? 魔力がこもっていたような気が……」

「薄めたから、平気だと思うぞ。一応、ヘスティとか冒険者のお墨付きだ。……ほら、飲んでみろ」


 サクラやディアネイアに飲ませても、大丈夫だと言われたものを、アンネに渡す。

 彼女はそれをじっくり見てから、口にした。


「なるほど……二日酔いとか、不眠で疲れた時用に効くポーションにそっくりですね。これなら、平気なのもうなづけます」


 いたって普通な顔で、頷いた。

 よし、どうやら精力剤効果は無くなったようだ。

 アンネがヘスティに襲いかからないなら、もう完璧に無くなっているだろう。


「……あれ? なんだか私、変な目で見られてますけれど、何かありましたか?」

「いや、何もなかったから、良かったんだ」

「?」

「まあ、それは置いておいて、アンネ。その大きな袋はなんなんだ?」


 アンネが背中に大きな荷物を抱えていたのが、ずっと気になっていた。


「ああ、これはですね。ディアネイア様に届けようと思っていた、お薬とか、マジックアイテムですよ」

「今から、城に行くってことか?」

「はい。……といっても、お城の前で待ち合わせしているんですがね。夜のお城なんて、早々入っていい場所じゃないですから、ディアネイア様のテレポートで飛ぶ予定です」


 ふむ、それなら、好都合だ。


「んじゃあ、俺も付いていって大丈夫か?」

「ええ、別にかまいませんけど、何かご用でも?」

「ちょっと聞きたいことがな」

「分かりました。では一緒に行きましょう。……姉上さまは……?」

「我、行かない」


 そんなあ、と膝から崩れたアンネをよそに、ヘスティは俺の方を向いた。


「ここで待ってる。必要になったら、呼んで」

「おう、それじゃあ、行くぞアンネ」

「うう、姉上さま……また、いつか抱きしめさせて下さいね……」


 こうして、俺はアンネと共に城の前まで行くことになった。

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