65.朝帰りと朝の出会い
店作りが終わって、撤収しようかと思った時には、太陽が昇る頃合いだった
「しまった……! 外装にこだわっていたら、朝になっちまった」
出来あがったのはカウンター型の店舗だった。
店というよりは、小屋の外側にカウンタースペースをつけたと言っていいほど、居住空間の方が大きい。
でもまあ、売るものは一つだから、今はこれで良い。拡張したければ出来るし、カウンターには基本、ゴーレムしかいないしな。
「うむ、しかし、良い店構えになったな! なんというか、細かなデザインがかっこいいぞ!」
「あのさ、ディアネイア。朝まで付き合って貰っておいてなんだが、城に戻らなくていいのか?」
なんだかんだ、テレポートしてから今まで、手伝ってもらっていたんだけど。
忙しいんじゃないのか。
「気にしないでほしい。私がここに呼んだのだから、ダイチ殿が帰るまで一緒にいるつもりだったのだからな」
本当に真面目だが、それだから過労でぶっ倒れたんじゃないのか。
「ほどほどにしておけよ」
「うむ。しかし、あれだけ疲労していたのに、追加で徹夜しても全然平気とは、凄いな、このジュース」
と、ディアネイアはカウンターの奥に置かれたゴーレムとリンゴのストックを、キラキラした目で見ている。
これは、もしかしたらヤバイ物を飲ませてしまったのかもしれない。
「……一応言っておくが、今日はもう飲ませないぞ?」
「え!? そ、その、一口くらいはいいんじゃないかなあ、と思うのだが」
なんだか視線が危ういぞ、この姫魔女。
リンゴジュース依存とかになったら最悪だし、そろそろ切り上げようか、と思っていると、
「ヒャッハー? もしかして、大地の主の旦那っすか?」
振りかえると、朝焼けの反射で輝く禿頭を持った冒険者たちがいた。
「おう、冒険者グループと、そのリーダーか」
「ヒャッハー。リーダーとかやめてくだせえ。旦那には、俺のアッシュていう、名前で呼んでほしいっす」
アッシュって言うのか、この禿男。
知り合って何日もたつが、初めて名前を知ったよ。
「ヒャッハー。それにしても、旦那が街にいるなんて珍しいっすね。というか、ここ、空き地だったような」
「ああ、今度、ここで店をやるかもしれないから、その場所づくりしてたんだよ」
「ヒャッハー、一晩で店を作ったんすか!?」
「やべえですね。やっぱりスケール違いますよ、この人……」
シャイニングヘッドの連中は店を見上げて、唖然としていた。
たかが小屋ひとつなんだけどな。
「いや、ダイチ殿。普通は一晩でたたないからな? 貴方の家は、なんだか知らないうちに拡張されてるけれども」
そういえば、そうか。サクラと触れあってるだけで普通に拡張されていくので、俺くらいの建築能力くらい大したことのないように思えてしまっていた。
「まあ、それはそうと、アッシュたちは何してるんだ? 朝早いけどさ」
「ヒャッハー。俺たちはいつも、朝の見回りしてるんすよ」
「見回り?」
「稼ぎのいいモンスターがいれば、それを狩ると得なんすよ」
なるほどな。冒険者の生活リズムってよく分からなかったが、良いモンスターとかいるんだな。
「いや、シャイニングへットの面々は、一流の冒険者でな。街へのケアなどもしてくれているんだ」
「へえ、そうなのか」
見た目は、かなりやんちゃそうに見えるのだが、人は見た目によらないらしい。
「ヒャッハー。あとは、調子が良ければ、戦闘ウサギの店にいければ良いな、と。あそこ、朝は人少ないんすよ」
「ああ、そっちの方も、朝から元気なようで何よりだ」
「いやあ、最近のリーダーはちょっと夜の元気が無くなってきてて。むしろ、朝になってギリギリくらいなんですよねえ」
「ヒャッハー。そこはぼかしとけよ、お前ら!」
慌てたようにアッシュは仲間たちの首根っこを掴む。
「なんだ、そんなに疲れてるのか?」
そういえば、この前もファフニール相手にボロボロになっていたけれども。
「体が治らないのに無茶するからっすね」
「そうそう。体の回復欲が性欲を上回ってるんですよ。なのにリーダー、調子にのって店に行くから……」
「ひゃ、ヒャッハー! 仕方ないだろ!」
なんだかんだ、元気なようだ。でも、そうだな。
今、この場にいるならモデルケースとしては丁度いい。
「まあ、開店記念だ。景気づけに一杯飲んでけ」
俺はリンゴジュースを樹木のコップに注ぎ、アッシュたちに渡す。
「ひゃっは? これは……リンゴの果汁っすか?」
「ああ、味は良いと思うが、念のためな。売る前に確かめてほしいと思っていたんだよ。……ああ、金はいらないから、感想だけくれ」
懐から財布を取り出し始めたの奴らを止めて、感想を待つ。
アッシュたちはコップを傾け、量を確認した後、一気に飲み干した。すると、
「うおおおおおおお!? なんだこりゃあああ!」
アッシュの頭が一気に紅潮した。
背後にいた他のメンバーは、髪の毛が一気に逆立っていたり、ちょっと輝いていたりする。
「やばいですよ。この感じ! 美味いのはもちろん、力が湧き過ぎますよ!」
「おお、疲れとか全部吹っ飛んでるぜ、リーダー!!」
「これはすげえ! すげえ身体強化ドリンクですぜ、旦那」
「そ、そうみたいだな……」
なんだか、予想以上にウケているようだ。味的にも、肉体的にも。
「ヒャッハー。これだけ力を貰えば、どこでも行けるぜ。なあ、お前ら!」
「応ッ!」
「というわけで、行ってきますぜ、旦那!」
「あー、まあ、気をつけてな」
よっしゃあああ、と叫びながら、シャイニングヘッドの連中は街の外へとダッシュしていった。
元気になって何よりだけど、
「やっぱりこれ、売ったら駄目じゃないか?」
「ま、まあ、もう少し、薄めた方がいいかもしれないな」
「あと気になったんだけど、これだと、ウサギたちの所と、マッチポンプになってるんじゃね?」
「そ、それも、今は良いんじゃないかな?」
ひとまず、リンゴを有効活用できそうだけれども。
薄め方と売る量はもうちょっと考えようかな。
土煙が出るほどの速度で走っているシャイニングヘッドの連中を見ていると、そう思えたよ。





