63.天然の回復薬(場合によって副作用あり)
昼間、俺が庭に生体反応があったので見にくると、
「おーい、生きてるかー?」
「……ぅ」
ヘスティの小屋の前で、ディアネイアがぶっ倒れていた。
「なんでコイツはこんな場所で倒れてるんだ?」
「さあ、我が出てきたときには、こうなった。モンスターに巻き込まれた?」
いや、今日は俺、何もしてないぞ。
モンスターを倒すのに巻き込んだりはしていないはずだが。
「生命力の低下、が、見られる」
「見れば分かるが、怪我をしてるようには見えないな」
ディアネイアは真っ青な顔をしているが、流血などは見られない。
「多分、過労。我も、杖を作り続けたときは、こうなる」
「それはちゃんと休めよ? でも、そうか。過労なのか」
完全に前のめりにぶっ倒れている。
「す、すまない、この家に近づいて気が抜け……た」
「お、目は覚めてるのか」
だが、起き上がってはこない。
「ぅぅ……祭りの準備と、街の修復で、魔力と体力を、消耗、しすぎた……」
よっぽど忙しいのかね。ただ、こんなところに倒れられてると、困るんだけどなあ。
せめて、家に帰ってから倒れたほうがいいんだが。
玄関の寝心地って結構いいし。
「……」
返答はない。
「ここで寝かせておく?」
「いや、このまま放っておいて、風邪ひかれたら大変だからなあ」
俺の家か、ヘスティの小屋に放り込むかなあ、とも思ったが、
「リンゴ食べさせたら?」
ヘスティの言葉で思い出した。
そうだ。ウチのリンゴは多少の回復力があるんだった。
「そういや、この前リンゴを渡していたんだよな。アレ食べて生きてたんなら、もう一回食わせても大丈夫だろう」
「ん」
もぎ取ったばかりの奴は危ないけれど、幸いにもストックされてるリンゴはそこそこある。 だからそれをもってきて、カットした後、ディアネイアの前に出す。
「おら、食え」
「うぅ……」
ああ、このままじゃダメだな。
口は開けても噛めなさそうだ。
「結構、無茶、するね、アナタ」
「ああ、これだと食えないから……そうだな。もうちょっと工夫するか。――ゴーレム!」
俺はゴーレムを呼び出して、その手にリンゴを握らせる。
一個だけじゃ足りないから、とりあえず二十個くらい掌の中において、
「握り絞れ」
圧縮して、果汁だけを、木の器に搾り出した。
二十個分の液体が、一気に絞りだされて、器が満たされる。
「ジュース造るの、強引」
「汁が出れば一緒だろ」
ミキサーとかも考えたんだが、わざわざこのために作る意味も無いしな。
「ほら、これならのめるだろ?」
木の器をディアネイアの口に近づけると、こくこくと飲み始めた。
ふむ、これならどうにかなったか。
少しくらいは回復してくれるだろう。そう思っていたら、
「はあっ!? これは一体!?」
「おお、いきなり元気になりやがった」
ディアネイアが急に立ち上がり、俺の体を掴んできた。
「うん? どうした」
「い、いや、か、体が物凄く熱いんだが、ダイチ殿! もしや、媚薬などを盛ってはいないよな?! 盛っていたのであれば、即座に受け入れようと思うが」
「ちょっとまて。落ち着けディアネイア」
細腕とは思えない力で、こちらの肩をがっしり掴んできている。
ギンギンに目が血走っているし、どうなってるんだ、これ。
「過剰、回復?」
「それっぽいな」
なんだか、初めて精力剤を飲んだ人を数倍酷くした感覚だ。
ウチのリンゴってこんな効果があったのか。
「二十個も、いれたから……」
「ああ、入れすぎたか……」
栄養抜群すぎたみたいだ。
「だ、ダイチどの! 今脱ぐから、それから受け入れる形でいいだろうか!」
「あー……まあ、ディアネイア」
「な、なんだ?!」
「ちょっと落ち着け。姫だろアンタ」
「むぐう!?」
今にも襲い掛かってきそうだったので、樹木の縄でぐるぐる巻きにしておく。
「うおー、うおー、離せー」
緩い縛りだが、とりあえず動けないだろう。
勢いで間違いを起こすこともない。
こう見えて姫だしな。貞操は大事だろう。
「ふうむ、しかし、元気になりすぎだな」
「薄めるべき、だった?」
ディアネイアでこうなるとは予想がつかなかった。
魔力が多い人間は、りんごを食っても大丈夫だと思っていたんだが。
「ヘスティもりんごを食べたとき、こうなってるのか?」
「まあ、疲れてるときとか、魔力を渇望しているときは、我も、少し、なるかも。性別的に、女性だし」
マジか。
「俺は知らないうちに、精力剤をばら撒いていたのか……」
若干、リンゴの効果を甘く見ていたようだ。
「まあ、よほど消耗しないと、こうはならないし、今回は原液を飲みすぎだから。普通は、ただの栄養剤と考えて大丈夫」
ヘスティはリンゴをじーっと見ながら、そういった。
なんというか、今後は気をつけよう。
せめて人に飲ませるときは、数を少なくしようか、薄めようかな。





