59.地下空間の有効活用
「んん? なんだこりゃ」
午前中、家の改造をしようと、サクラと同期していると、地下に奇妙な空洞があるのに気付いた。
「主様、どうかなさいましたか?」
「いや、なんだか家の直下にでかい空洞があるんだけど」
「空洞ですか? ああ……本当ですね。ダンジョンマスターの魔石が埋まってから、大地が変動しているとは気づいていたんですが、空洞になっているとは」
どうやら、サクラも知らなかったのか。
まあ、俺も同期して初めてしったくらい、地中奥深くのことだから、仕方ないんだけど。
「ただ、真下が空洞になってると少し不安だな。調査の意味も兼ねて潜ってみるか」
「あ、ではお伴します。もうすぐお昼ですし、お弁当も持っていきましょう」
「おう、俺はヘスティに一声かけてくるよ。地下がうるさくなるかもしれないしな」
そうして、俺とサクラは各々で準備を整えたあと、地面に穴を開けて、発見した空洞に向かうことにした。
ヘスティも興味を持ったらしく、俺たちと一緒に行くらしい。
「それじゃあ、穴開けて行くぞー」
家を改造する要領でやれば、地下の空洞まで道を作るのも簡単だった。
段々に穴を開けていくと、一分もせずに空洞に辿り着いた。
そして、俺はそれを見た。
「これは……凄く広いな」
「本当ですねえ」
想像以上に大きい大空洞が、地下には広がっていた。
天井は高く、横幅も広い。
そして、ライトで照らされているわけでもないのに、微妙に明るい。
「なんというか、ダンジョンみたいだな、これ」
なんて呟いたら、隣にいるヘスティがこくりと頷いた。
「ん、間違いじゃないよ。これ、ダンジョン。ダンジョンマスターの魔力で、精製されたっぽい」
「え? そうなの?」
じゃあ、モンスターとかいるんだろうか?
「そういうわけじゃない。でも、ダンジョンであることは、壁面を見れば、分かる」
言われて壁面を確認すると、キラキラと光る石のようなもので出来ていた。
天井も床もそうだ。ただの土じゃない。
「これ、魔石が混じってますね。ところどころ結晶化もしています」
「お、マジだ」
魔石混じりの壁が光っているから、ライトがなくても明るいのか。
「そう。魔石で構成された壁。それが、ダンジョンの条件の一つ。モンスターがいるかどうかは、あんまり、関係ない」
「はあ、なるほどなあ」
でも、これだけでかい空洞が地下にあって大丈夫なんだろうか。
強度が低かったら、沈下するんじゃないかと心配になる。
「それは大丈夫ですよ、主様。私という家は、魔力で地盤を強化しているので、まず崩れません」
「ん、それに加えて、この魔石混じりの壁は、本当に強固。削れても、自己再生するし」
と、ヘスティが壁面を少し削った。
キラキラとする石がポロリ、と落ちてくるが、すぐさまその壁は修復される。
「ね?」
「本当だ。これなら問題ないな」
「ん、というか、ダンジョンは、こういう性質を持つから、資源と一緒。魔石が、一杯取れる」
ダンジョンは鉱山みたいなものなのか、ヘスティの顔はどことなく嬉しそうだった。
そして俺も、少しワクワクしていた。
……こういう洞窟みたいな所は、ちょっとだけ、探検してみたかったんだよ……。
そんな事を思いながら、俺はサクラたちと共にどんどん深く潜っていく。すると、
「……なんか熱いな」
周囲の気温が上がってきたような気がする。
微妙に汗ばんでくる。
「多分、魔力が、熱に、変換されている」
「そんなこと、自然に起きるのか?」
「我の、ブレスも似たような、もの――!?」
言葉の途中で、ヘスティが足をぴたりと止めた。
そして、その場から動かなくなった。
「どうした?」
「これ以上は、我、無理かも。進めない。あそこに、魔力が濃すぎる、ものがある」
と、ヘスティは指をさした先。
そこには、湯気が立つ液体が溜まっていた。
「んー? 魔力が濃いとか、俺にはよく分からないんだけど。近づかない方がいいか?」
「あ、じゃあ、私が行って確かめてきます。毒性は無いみたいですし」
そう言ってサクラは僅かに進んで行く。
そして、液体を見て、こちらに手を振ってきた。
「主様ー。これ、温泉ですー」
「え? マジか!?」
サクラの後をおって、液体を見る。
すると、地中からこぽこぽとお湯が湧いているのが分かった。
「温度は――四〇度もないですね。弱アルカリ性で、人体への被害もありません」
サクラが感知した限りでは、ぬるめの源泉のようだ。
「火山とかないのに、よくできたもんだな」
「魔石の熱で暖められたんでしょう。それゆえに、高濃度の魔力が液体中に混じっています」
「魔力が入ってるお湯に体を突っ込んでも大丈夫なのか?」
「主様なら問題ないです。ただ、普通の人が触れたら皮膚がただれるか、剥がれるかと」
結構怖いことになるな。
「そう考えるとこの温泉、使いづらくね? いや、別に俺達しか使わないけれどさ」
体にどんな影響があるのか、分かったもんじゃないだろう。
「はい。原液のままでは、浴びれる人は限られて来ますからね」
「ん、だから、我、それ無理。近づけない」
こちらの声を聞いていたのか、ヘスティが言ってくる。
そうか、ヘスティがその場で止まったのは、このお湯が原因か。
「竜王の皮膚でもダメってことは相当なものなのか」
「地中にあることで、龍脈にも近づいていますから、魔力がかなり濃いです」
効能が強すぎるってやつなのかな。
ただ、それなら原液のままじゃなく、薄めれば多少は使い道も増えるか。
「はい。薄めたこれでご飯を炊いても、美味しくなりそうです」
「ふむふむ。使い道はそこそこありそうだな。とりあえず、必要があれば庭に引っ張っていけるように、水道管みたいなものは作っておこう」
「はい、お手伝いしますね、主様」
そして俺は、伸長したリンゴの木を水道管代わりにして、庭の一角に埋め込んだ。
流石にそのまま源泉を出すと毒になるのが分かっているので、まだ地表には持ってきていないが。
あとで薄めたりして、露天風呂でも作ろうかな。
ともあれ、そんなわけで、地下に魔石のダンジョンと温泉の源泉が出来ました。





