57.どんどん溜まるので、どんどん使う
ウサギたちの問題を解決してから数日後、俺は庭の椅子に座って、頬づえをついていた。
「まいった……」
「あれ、どうかした? アナタが、悩ましそうにしてるなんて、珍しい」
「いや、俺が投資したウサギたちの店が好評でな。すげえ売上があるらしいんだけど、『賃料です!』とかいって渡してきたんだよ、あいつら」
俺は、足元にある銀貨の袋を見る。
中には千枚ほど入っている。
最近知ったがこの世界の通貨の名前はゴルドというらしい。
銀貨千枚で百万ゴルド。つまり百万円だ。
「……それは、まあ、確かに、凄いね」
数日の売り上げで、これを稼いだらしい。
一回の利用料は平均で一万ゴルドとそこそこするが、冒険者の行列ができている。
あのウサギたち、かなりやり手のようだ。
「稼げてるなら、いいこと、じゃない?」
「それ自体はな。でも、俺はこんなにいらないって言ったんだけどなあ」
ウサギたちが必死に渡してきたのだ。
『これは私たちが恩人に出来る、せめてものことです! 足りないのであれば、この命も追加してお渡しします!!』
なんて言ってくるものだから、貰った。
貰うものは貰う主義だが、命は貰いたくないし。というか、本当に命とその他が直結し過ぎである。
「ん、それで、なんでお金の袋が、なんでここに置いてあるの?」
「金庫部屋に入らない」
今までの金は、金庫部屋を作って、そこに放り込んであるけれども、既に2階層分がパンパンになっている。
ヘスティやら人狼、かなりの額を渡しているのだが、それでも増えていく。
そろそろ、使って行かないといけない。
でないと、俺の家がただの金庫タワーになってしまう。
「でも、アナタは、なにか、買うもの、あるの?」
「無い。サクラに欲しいものを聞いても、特に無いって答えられたんだよな……」
誰に似たのだが、本当に物欲がない。
そして、俺ももちろん、買い物どころか、金の使いどころが、無い。
趣味と言えば、家の庭で果樹園を楽しんだり、ゴーレム作りを楽しんだり、モンスターから得た素材で弾丸を作って、ゴーレムを武装させたりするだけだ。
全く、金が掛からない。
「……ゴーレムが、日に日に強くなっていってるのって、アナタの趣味だったんだ……」
ヘスティが驚愕しているが、楽しいんだから仕方ない。
すごいぞ、最近はゴーレムを巨大化することにも成功しているし。
ともあれ、そんなわけで、金がどんどん余る。
この前は、人狼に押しつけようとしたけれど、全力で土下座されたので渡せなかった。
そして、頼みの綱のへスティ投資も
「ヘスティは――?」
「我、もう、十分すぎる」
「――うん、分かってるよ」
資金は潤沢なようだ。
これ以上の融資はいらないらしい。
「俺があのウサギたちの店で使うってのもあるんだが、そこまで高くないんだよな、あそこ」
「……んん? 価格を知っているってことは、……もういったの?」
「ちょっとだけな」
サクラは説得したので問題は無い。
たまに黒い魔力っぽいものが出ているけれど。って、そうじゃなくてだ。
「結局、貯めておくしかないのかね、これ」
場所もあるし、貯めておくのは出来るけど、出来れば消費したい。
そんな事を思いながら、ごろん、と横になっていると、
「ダイチさまー! 姉上さま――!!!」
「……げ」
アンネが走ってやってきた。それを見て、ヘスティが露骨に嫌そうな顔をして、俺の背中に隠れようとしたが、
「姉上さま姉上さま、おはようございます――!!」
「も、もう、だ、抱きつくな!」
掴まって、巨乳でぐりぐりされている。
彼女と一緒にいると、ヘスティの色々な面が見れて楽しかったりするのだが、まあ、それは置いておいて、
「どうした、アンネ。何か用か?」
「あ、はい! 実は先ほど、私のお店が完成しまして!」
ああ、例のアイテムショップか。建造中だとは聞いていたが、もう出来たんだな。
「はい。それで、開店記念に、ダイチさまや姉上さま、サクラさまをご招待しようと思いまして」
「それで、ここまで走ってきたと?」
「はい! あと、不眠不休で、店内を改装したので、そろそろ姉上さま分か、はあ……はあ……ダイチさまのお叱り攻撃を補給しないと、倒れてしまう、ので、朝から頑張ってきました!!」
ああ、なるほどね。
もしも俺が昼まで寝てたら確かに不機嫌になって、ちょっと叱ってたかもな。
うん、期待を外していて良かった。
「うう、悲しいので、姉上さまのグリグリだけで補給します」
「……うざい……!!」
いつものやり取りだ。それはまあ、置いておくとして。
「アンネ。アイテムショップが完成したってことは、もう売り物とかはあるのか?」
「はい。仕入れもしましたし、作成もしましたから、完璧ですよ。……貯金を全部はたいちゃったので、貧乏になりましたが。あはは、明日食べるものがないですよ!」
アンネはめちゃくちゃ軽い調子で言ってくる。
竜王なのに、こんな後先考えない生き方していて大丈夫なんだろうか。
「でも、姉上さま成分で、魔力を回復して生存できるので大丈夫です!」
「おう、そうかい……」
ただまあ、そうだな。売り物があるなら丁度いいや。
「それじゃ、何か買いに行くわ」
「ええ? 良いんですか? ダイチさまなら言って頂ければ、無料で引き渡しますのに」
「いや、ちゃんと払う事に意味があるんだ。だから、案内してくれ、アンネ」
「あ、は、はい!」
そうして、俺達は、アンネの店に行くことにした。





