53.新しい隣人と、新しい性癖
ダンジョンマスターとの戦闘を終えて数日。
俺は家の周辺の土木工事にいそしんでいた。
「えーっと、ここら辺に木を埋めておけばいいかな」
戦闘の余波で森がボロボロになっていたのだ。特にへスティに任せていた場所が、真っ白な灰になっていたりする。どうやら、途中から炎で燃やしつくしたらしい。
「途中まで、この姿でやってたけど、数が多かったから、一気に焼いた」
「出来れば後片付けのことまで考えてくれると助かったな」
などと、喋りながらヘスティと二人、ゴーレムを使ったりしながら灰を運び出していた。
そんな時だ。
「こんにちわー。ご挨拶に来ましたー」
「あれ、アンネ?」
アンネが尋ねてきた。あの宴会以来だ。
「何しに来たんだ? 挨拶って、もう帰る時期なのか?」
アンネは武装都市からの使節だ。そして、ダンジョンマスターの脅威が去った以上、この周辺に留まる理由は無い。
だから、その帰りの挨拶かと思っていたのだが、
「いえ、違います。この度は私、プロシアの方に住まう事になりまして」
「っ!?」
「この森にほど近い、プロシア外周部の土地を貰いまして、アイテムショップを開くことにしたんです」
ヘスティの動きが固まった。結構なショックだったらしいが、まあ、置いておくとして、
「へえ、そうなのか。どういう風の吹きまわしだ?」
武装都市のそこそこ良い立場にいたんじゃないのか?
「まあ、そうなんですけれどもね。でも、指示程度なら、プロシアからでも出来ますし、なにより、またアイテム作って売る生活をやりたいなって思ったんですよ」
「そういえば、元々アイテム売りだったんだっけか?」
「はい。それになにより……はあ……はあ……こっちのほうが、姉上さまに、近いので……。姉上さまに近い空気を吸いたいなって思ったんです」
顔を赤らめながら言ってくる。
その顔にヘスティが僅かに後ずさりしてるし、こりゃ重傷だ。
というか、なるほど。アイテムショップとかは建前だな、これ。
「あ、でも姉上さまだけじゃないんですよ? その……ええと……このダイチさまの近くにいるだけで、なんというか、魔力の渦に軽くぶたれる感覚とか、本当に、癖に、なってしまって……。こんなにしゅごい力、初めてで……」
ああ、これは、本当に酷いな。
俺も巻き込まれたよ。
ヘスティの方を見たら、微妙に同情された気もする。
まあ、俺に迷惑をかけて来ないなら、どんな性癖を持っててもいいんだけどさ。
「はあ……って、話がずれてしまいました。ええと、そういうわけで、お近づきの印ってことで、ポーションを配り歩いてるんです」
「ポーション……って、そうだ。この前もらったアレ、ディアネイアに使ったけど、すげえ好感触だったぞ」
「そうだったんですか?! ……もしかして、アイテムショップの土地をくれたのって、ダイチ様さまのお陰……?」
何やらぶつぶつ言っているが、ディアネイアとも上手くやっているらしい。良いことだ。
「しかし、あの薬すごいんだな。傷がほとんど一瞬で治っちまったんだ」
「私の自信作ですからね。あ、そうだ。無くなってしまったのなら、補充しておきましょう」
「え? ディアネイアは貴重なものとかいってたけど、いいのか?」
聞くと、アンネはにっこり笑った。
「はい! 私にとって、こうして姉上さまの傍に寄れるチャンスの方が貴重ですから!! 少し抱かせてくれれば、いくらでも補充しますよ!」
そう言って、彼女は興奮しながらにじり寄ってくる。
もちろん、視線の先にはヘスティがいる。
ヘスティは、もう諦めたような顔で、俺の顔を見上げている。
「……なんだか、話しかけられる度に、我、抱きつかれているような気がする」
「まあ、なんだ? 本当にやばかったら、タップして俺の所に逃げていいからな」
そのまま、ヘスティに抱きついたあとで、アンネは薬を補充して帰っていった。
そして、どうやら、俺達に新しい隣人が出来たようだ。
隣というには、ちょっと遠い気もするけれどな。





