52.我が家の賑やかな食卓
王都、ディアネイアの城の大ホールでは、大勢を招いたパーティーが開かれていた。
「街の皆よ。この度は、このプロシアの街を守ることに協力してくれてありがとう!
ささやかながらパーティーを開かせてもらった。存分に飲んでほしい!」
音頭を取るのはディアネイアで、彼女はグラスを掲げて声を張り上げた。
「それでは……乾杯!」
「かんぱーい!!」
そして、大ホールでの飲み食いは開始される。
参加者の半数が屈強な冒険者たちだ。次から次へと酒が出ては、飲み干されていく。
その光景を見て、騎士団長は吐息する。彼の手には、一枚の資料があった。
「やれやれ、この宴会のペースだと、モンスターの肉や魔石で稼いだ額が、かなり吹っ飛びますな」
そんな彼の肩を、ディアネイアはポンと叩く。
「そうケチケチするな騎士団長。街の被害は軽微だったのだ。これくらいしなければ、むしろバチが当たるだろう」
「そうですね。……そういえば、彼らは?」
「声を掛けたのだが、面倒だからパスだと。だから、今から私がなんとかしておくよ」
「すみません、お願いします」
などと会話していると、
「ひゃっはー、姫さん。ありがとうよ。酒が美味いぜ」
シャイニングヘッドの面々がディアネイアの方へ歩み寄ってきた。
「そうか、楽しんでもらっているようで何よりだ」
「ひゃっはー。でも、あれだな。大地の主みたいなあの人は来ねえんだな」
「まあ、あとあと、私の方から行くさ」
「ヒャッハー。そうなのか。じゃあ、丁度いいや。これ、持っていってくれよ」
彼らが差し出してくるのは、大きな酒の瓶だ。
「これは?」
「俺たちが飲んだ中で、一番うまかった酒だ。一番活躍した人がのまないのは、嘘だろ?」
「そうか……分かった。では、君たちの気持ちと一緒に、有難く頂戴しておくよ」
ディアネイアが酒びんを受け取ると、シャイニングヘッドの面々は手を振って背を向けた。
「ヒャッハー。それじゃあな、姫さん。俺たちはまだまだ飲むぜ。そうだろ、てめえら」
「おうっ!」
そして、人ごみの中に消えていった。
「……さて、それでは、騎士団長。私は行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
「《テレポート》」
そして、ディアネイアはその場からかき消えた。
●
「――で、酒と飯を持って、俺の所に来た、と」
「うむ、シャイニングヘッドの連中が持ってきた酒と、私が一番美味いと思った料理だ。どうか合席させてほしい」
ディアネイアが大量の酒と食い物を持ってきたので、俺は外で夕飯を食っていた。
リンゴ畑にビニールシートを敷いて、小宴会みたいになっている。
別に、そういうのを求めてダンジョンマスターを倒したわけじゃないんだけどな。
美味いものが貰えるなら、貰っておこうと思うけどさ。
「でも、アンタがこっちに来てもよかったのかよ? 姫なら、向こうにいた方が良かったんじゃないのか」
俺は別に、静かになった家でゆったりとメシを食えればいいだけなんだし。
気にする必要はないんだけど。
「構わないさ。今日の主役は、冒険者と、貴方達とアンネだ。冒険者は城の方でもてなしている。――だから、私は貴方達と一緒に飲みたいよ」
そう言うんなら、別に良いけどよ。
俺はどっちみち落ち着いて夕飯を食うだけだし。
「そうか。ありがたい。それでは、存分に祝わせて貰おう」
などと言って、ディアネイアは晩酌をしてくる。
コップに入れられたのは、炭酸が弱めの透明感ある酒だ。
「おお、すっきりしていて美味いな」
「貴方に喜んでもらえると、私も有り難いよ」
と、どんどん注がれる酒を飲んでいると、隣に座っていたヘスティがぐいぐいと袖を引っ張ってきた。
「あん? どうした、ヘスティ」
「我、落ち着けないんだけど」
首を振って見れば、ヘスティは、見事にアンネの胸の中に埋もれていた。
「ああ! 姉上さまの抵抗! すごい!」
「……うざい……!!」
まあ、なんというかいつも通りの奴だ。
逃げたくなったら、振り払ってくるだろうから良いだろう。
アンネもアンネで元気になったようだ。
若干騒がしい雰囲気だが、落ち着けなくもないしな。
「酒も美味いし、悪くない気分だ。ディアネイアが持ってきた料理も、サクラの料理も美味いしな」
「ふふ、主様にそう言ってもらえると、作った甲斐があります」
賑やかな食卓も、たまには、いいものだ。





