51. 家も強くなる
我が家の庭に戻ると、そこでは、ヘスティが山盛りの魔石をぽかぽか殴っていた。
「ん、ダイチ。お帰り」
「おうただいま。というか、なにしてんの?」
「魔石の精製。こうしないと、使いにくい。でも、処理しておけば、杖にも、薬にも、なんでも、使える」
ぽかぽか殴っているだけに見えるが、それで精製できるのか。
「長年の、勘」
グッと親指を立ててくる。
まあ、使えるならそれはそれでいいんだけどさ。
「ああ、そうだ。これやるよ」
丁度いい、と俺は肩に担いでいた大きな魔石をヘスティに見せた。
これだけデカけりゃ何かに使えるだろう、と思っていたのだが、
「……なにそれ、見たことない」
ヘスティは目を丸くしていた。
「ヘスティはダンジョンマスターって知らないのか? そいつの魔石なんだが」
「……ダンジョンマスターは、知ってる。でも、ここまで、大きい魔石は、普通、採れない」
「へー、でも、俺が倒したらこれが出たんだけど」
「この大きさは、異常。ありえない。突然変異か、何か」
マジか。ヘスティでも未知の代物だったのか。
「使えそうか?」
「んー……これ、精製すると、何が起きるか、わからない」
そんなに危ないものなのかよ、この石。持ってきてしまったけど、どこかに捨てた方が良いんだろうか。
「……地中に埋めておけば、ダンジョンができるくらい、の力が入っている」
「え? なに、そうなの? ……どうやって捨てればいいんだ」
捨てたらダンジョンが発生するとか、厄介すぎるだろう。
なんて、頭を悩ませていると、ヘスティが首を横に振った。
「ん、大丈夫。放っておいたりしたら、モンスターが異常発生して、危ないから。むしろ、あなた以外には扱えないから、持ってきて、正解」
「いや、正解って言われても、使いようも捨てようもないんだろ?」
「んーん、平気。この家の方が、魔力、強いから。地中に埋めておけば、魔力が循環して、あなたの支配下にはいる」
「そうなのか?」
よく分からないけれど、それなら、地面に埋めておくのが安全だし安定か。
「おすすめ。あと、少し砕いて欠片をくれれば、我が、研究しておく。使えそうなら道具に改造する」
「それじゃ、頼むわー」
俺は魔石を軽く殴る。
すると簡単に砕けたので、ヘスティに渡す事にした。
「……簡単に割るね」
「駄目だったか?」
「普通、魔力の量に従って、堅くなる。だから、普通は、素手とかで、割れない」
「いや、さっきヘスティがやってたことをまねただけなんだけど」
「……長年の勘が一瞬で塗り替えられた……」
ヘスティが落ち込み始めたが、とりあえず、砕いた物を渡していると、
「ああ、いました! ダイチさま! 姉上さま――!!」
「ぬっ……」
アンネがこちらにふらふらと歩いて来た。
その服装は汚れていて、ところどころが破れていた。
「どうしたアンネ。すっごいボロボロでヘロヘロだけど」
「ちょっと街の防衛で、力を使いすぎまして。このありさまなんですよ……」
「へえ、相当派手にやってたんだな。で、何しに来たんだ?」
「魔力の補給をさせてもらおうと思いまして」
補給、補給ね。ここでする必要があるのか?
「ありますよー。だって私の回復する欲は……はあ……はあ……攻撃を受けること、ですもの……」
アンネの目がヤバくなっている。
はあはあ言いながら、ヘスティの事を見ている。
「あのお……一度だけで良いので……姉上さまを……はあ、貸して頂けませんか?」
「だってさ。どうする、ヘスティ」
「わ、我、お、お断りする」
ヘスティは軽く青ざめながら、断っているけど。
「ああ、放置プレイですね、姉上さま! それもまたイイ!!」
ああ、うん、これは別に攻撃とかしなくてもいいんだな。
とりあえず、放置しておけば回復するんだろう。ならば、放っておこう。
「はあ……はあ……ありがとうございます、姉上さま。少し回復いたしました」
「燃費良いなあ、アンタ」
「いえいえ、それほどでも。……しかし、ダイチ様。それは、モンスターの魔石ですか?」
回復したアンネは、俺が担いでいる大きな魔石を指差してきた。
「おう。なんか魔力が強すぎるらしいから、ここに埋めるつもりなんだよ」
「そうでしたか。……ええ、それならば安心できます。魔石にしては膨大すぎる魔力を感じるので。ダイチ様とか、この魔力スポットから見れば微々たるものなので」
「ん、それは同感」
竜王二人からお墨付きを得てしまった。
「そうか、じゃあ、埋めておくか」
こうしてダンジョンマスターの魔石は、一部を除いて俺の家の魔力スポットに埋め込まれた。
そしてどうやら、我が家の魔力はちょっとだけ強化されたらしい。
本当に微々たるものらしいけどな。





