50.戦場の後処理とご褒美
ウッドアーマーを解いた俺は、改めて周囲を見た。
サーヴァントデーモンも、ダンジョンマスターも魔石になっている。
どうやら、敵対者は全て消えたようだ。
「よしよし。これで落ち着いて家に帰れるな」
「はい。ヘスティちゃんの方がどうなっているかは分かりませんが……」
「まあ、根源を断てたし、大丈夫だろ」
ただ、その代償として、この辺りが荒れ放題になってしまったが。
樹木の大砲の威力は思ったよりも強く、地面がクレーターだらけになってしまった。
「森の木々とか、普通に引っこ抜いて使っちまったし……植え直した方がいいかね」
人狼とか、困ったりしないだろうか、なんて思っていると、
「その辺りは、私が、直しておくので、心配しないでくれ」
ふらり、とディアネイアが歩み寄ってきた。
「お、もう歩いても大丈夫なのか?」
「うむ、先ほど貰った薬が異常な程、きいてな。傷もふさがっている。……ただ、これほどの回復ポーションは見た事もないのだが、私ごときに使って貰って良かったのだろうか?」
良いも悪いも、治ったんならいいじゃないか。それに、
「どうせ貰いものだしな。礼ならアンネに言ってやってくれ」
「アンネ殿に? もしかして、先ほどのポーションは……その、竜王の体液を使ったポーションだったり、するのだろうか……」
さあ、どうなんだろうな。あのおっぱい竜王が言うには、血を使ったとか何とかいっていたけれども。
「血……竜王の血のポーション!? そんなものを使わせてしまったのか……っ」
ディアネイアはフラフラと地面に膝をついた。
「なんだ、貧血か。傷が治っても血が足りてないのかね?」
「い、いや、そうではなくて、だ。竜王の血を使ったポーションに、どれだけの価値があるか、貴方は知っているのか?」
「知らん」
「だ、だろうな……」
がっくりと彼女は顔を伏せている。
「どうしようか。億はいるよな……。これは国庫を開いても足りるだろうか……」
「何をブツブツ言ってるんだよ、ディアネイア」
「……いや、その支払いをどうすればいいかと」
怪我をしたときよりも青ざめた顔で俺の事を見てくる。
なんだ、心配していたのはそんな事か。
「薬の代金とかいらんわ」
「え……?」
「自分で取ったものならともかく、貰いもので金を取ってどうするんだよ」
それに俺は、礼ならアンネにつったぞ。
そっちを考えるべきだろう。
「い、いや、しかし、それでも……」
「ああ、めんどうくせえ。じゃあ、ここの荒れ地を直すのが代金の代わりな。それで確定だ。変更は受け付けねえ」
頭を掻きながらディアネイアをあしらっていると、ぐうと腹が鳴った。
「ああ、腹が減った。そういや、もう夕飯の時間だな」
「あ、では、私が先に帰って、御夕飯の準備をしておきますね?」
「おう、頼む」
「はい、それでは、お先に失礼します」
そう言ってサクラはその場から飛び去った。
家の精霊だということもあり、サクラは空も飛べるらしい。
今更ながらに凄い性能だよなあ、と後ろ姿を見ながら思う。
「まあ、そんなわけで、俺は帰る。んじゃあな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ダイチ殿!」
帰ろうとしたら、服をグイッと掴まれた。
なんだよ、まだ何か用か?
「代金の件ならもう話は聞かんぞ?」
「い、いや、それは今は置いておくことにして、……ここに散らばってる魔石を拾っていかないのか?」
「え? この黒い奴を拾ってどうするんだ?」
「いや、売ったり、加工したり、色々できるだろう?」
へえ、そうなのか。
……でもなあ。
加工とか、何にしていいか分からない。
ヘスティに聞けばいいだろうか。
……ただ、家の周りでぶった押しまくったから、それだけでもかなりの量が散らばってるんだよな……。
だから、ここで拾い集める必要は無い。精々、そうだな。
「じゃ、このデカイ奴をヘスティのお土産として、貰っておくか」
ダンジョンマスターの魔石を拾って持ち帰ることにした。
「それ以外はいらないから、ディアネイアが片付けてくれよ」
「え……?」
「売ったりできるんだろ? ならアンタに任せるわ」
それこそ、この辺りを直す一環で、拾って売ればいいんじゃないだろうか。
「いや、確かに、売れるけれども……」
「ならいいか。好きなようにしてくれー。俺は帰るわ」
「ちょ、ダイチどの!?」
話は終わりだ。
もう腹が減ってしょうがない。俺はさっさと家に帰ることにした。
●
森の中に消えていく背中を見て、シャイニングヘッドの冒険者たちは身震いしていた。
「ヒャッハー……すげえ、剛毅な人だな、あの大地の主」
「ああ、これだけの魔石なら、普通に数万は稼げるってのに……度量が広すぎるぜ……」
この数の魔石だと、それこそ目の色を変えて拾い集めてもおかしくは無いのだが、彼はそれをしない。
「ひゃっはー……俺たちも冒険者としてはかなり理性的な方だと思っていたけれど、あの人には敵わねえなあ」
「そうだなあ。――っと、リーダー。全員、起きたみたいだぜ」
話しているうちに、シャイニングヘッドのメンバーは全員、立ち上がっていた。
「ヒャッハー、今回も全員無事だな」
「無事どころか傷だらけっすよー。クエストの報酬だけじゃ足りないっすよ。酒を飲まなきゃ治らないっすよー」
「……軽口を叩けるなら大丈夫そうですね」
「ヒャッハー。違いねえや」
などと、スキンヘッドがメンバーで笑いあっていると、
「ちょっといいか。シャイニングヘッドのリーダー」
「うん? どうした、姫さん」
ディアネイアがゆっくりと近寄って来た。
「お疲れのところ悪いが、依頼があるのだが、いいか?」
「うん? 依頼?」
「ああ、君たちも、魔石集め、手伝ってくれないか?」
「いや、そんな事をしなくても、あんたテレポートとか使えるだろ? ――なら、別に自分たちの手を借りなくても、これくらいの量は運べるんじゃないか?」
そう言うと、数秒ディアネイアは悩んだ後で、
「ええと……そうだな。私はこの通り、ボロボロでな。依頼料は……このあと、城で行う酒宴などで、どうだろうか」
それを聞いて、シャイニングヘッドの面々は顔を見合わせ、にやりと笑った。
「ヒャッハー。姫さん。その依頼受注したぜ。オメエら、良い酒と飯の為に、もうひと頑張りするぞ!」
「おう!!」





