――side 王都プロシア―― 緊急クエスト:防衛戦
「状況は?!」
「おお、お待ちしておりました、姫様」
ディアネイアが城の執務室にテレポートすると、既に内部は作戦会議室となっていた。
そこでディアネイアは騎士団長から情報を受け取る。
「東部、西部、南部からモンスターが同時発生しました。現在、街に向かって進行中。防衛部隊が迎撃しています」
なるほど、とディアネイアは机に置かれた地図を見る。
迎撃中とされる地点には、赤いバッテンが付けられている。
だが、東には何故か黒い丸が付けられていた。
「これは?」
「東部はアンネ様が行くと言って、印をつけていきました。そこを抑えるなら一人で大丈夫だと」
「アンネ殿が、か……」
竜王だから、一人で抑える事も可能なのだろう。
そこは安心すべきか。
「南部は集落も多いので騎士部隊が向かっておりますが、来ている報告によると、優勢だそうです」
「ふむ、では、あとは……西部か」
時間が足りなくて空いてしまった穴だ。
そこには今の所、守り手はいない。
「いや、冒険者グループの一つがそちらに向かっているとのことです」
「え……? 冒険者たちには、北部の防衛を纏めて頼んだ筈だが」
「はい、だから、その一つだけですね」
モンスターがどれだけ来ているかも分からないのに、グループひとつだけで行くなんて命知らずもいい所だ。
こちらとしては防衛してくれて有難いけれども、それにしたって危険すぎる。一体どんなグループだ。
「伝令では…『シャイニングヘッド』ですね」
「彼らか。何故、安全な北部から移っているんだ……」
「分かりません。ですが、彼らが街を守ってくれるなら心強くはあります」
任務達成率九割のトップグループ。強いのは確かだろう。
でも、それだけでは不安がある。だから、
「――私も加勢しに行こう」
「姫様……!?」
「何を驚くことがある。私しか、テレポートを使えるものがいないだろう」
「ですが……」
騎士団長は何か言おうとして、しかし、首を振った。
「そうでした。姫様には、ここで待っていろと言っても、聞きませんよね」
「うむ、よく分かってるじゃないか。私は、戦えるのなら、戦ってこの街を守るよ」
それが大魔術師として、力を得た自分の役割だ、とディアネイアは思っている。
――そして、あの人に憧れた、自分が進むべき道だと。
「ともあれ、戦闘装備をしたら、行ってくる。他の指揮は任せたぞ、騎士団長」
「はい……どうか、ご無事で!」
ディアネイアは自室へ向かう。
街を守るための装備を整えるために。
●
スキンヘッドの冒険者たちは、王都プロシアの西部にいた。
「ヒャッハー! ここが一番、防衛網がうすいんだったよなあ!」
「商業地区からも離れていますからね。私たち十人しかいませんね」
彼らが経つのは、街と森の狭間の平原。
その地面からボコボコとモンスターが湧いてくる。
ワームなどの虫っぽいものから、トロールなどの二足歩行型のものが、どんどん出てくる。
「武装都市の外部でダンジョンのモンスターを相手にするとは思わんかったぞ、リーダー」
「ヒャッハー、俺もそう思うぜ」
言いながら、冒険者たちは武器を抜く。
「でも、武装都市の外で、こんなクエストを受けるとは思いませんでしたね、リーダー」
「ヒャッハー、それも同意だぜ。街の防衛……しかも、こんな辛い状況での依頼は、久々だ」
敵は迫ってくる。
かなりの数だ。
冒険者たち――シャイニングヘッドの名前を刻んだ武器を持つ者たちは、それをじっと観察する。
「ヒャッハー、来てるなあ。でも、あの大地の主に比べたら、この程度のプレッシャー、どうってことないわな」
「ははは、ちげえねえ。寝込んだリーダーが言うと説得力が違う」
「だからあれは、憧れに浸ってただけだっての!」
スキンヘッドの男は汗をかきながら苦笑する。
「ヒャッハー。ちょっと前にこの大軍を相手にしたら、尻ごみはしてた筈だからな。あの人の力のお陰だ」
その言葉に冒険者たちはうんうん、と頷く。
「ともあれ、行くぞお前ら。ここは商業地区、居住区から離れていても、人は大勢いるんだよな?」
「はい、農作物とか、この辺で採れるものも多いですからね。住んでいる人はいるでしょう」
「ヒャッハー……なら、守らなきゃな」
スキンヘッドの冒険者は、剣を構える。
「俺達はこの街で良い酒を飲ませて貰って、良い飯を食わせて貰って、いい感じに楽しんだ。なら、そこを守れなきゃ俺たちの名前がすたるよなあ」
「おう!」
「酒の抜けた頭に気合を入れ直せよ。――それじゃあ、行くぞヒャッハー!」
冒険者たちは、モンスターに向かって走り出す。
そして、西部の防衛戦がはじまった。





