46.安心は大事
王都プロシアの西。
魔境森との境で、ディアネイアはモンスターを狩っていた。
「ふう、今日の討伐はこの辺で終わりにしておこう」
「お疲れ様です、ディアネイアさま」
騎士団長に前衛を任せて、後衛のディアネイアが炎で焼き尽くす。
その戦法で、魔境森と王都の間に出現していたモンスターは討伐し終わった。
いつもの治安維持の一環だ。
「騎士団長。ついてきてくれてるのは助かるが、騎士団への指示は大丈夫なのか?」
「既に行っておりますので平気です。むしろ、姫様を一人にさせておく方が危険ですので」
「まあ、そうだな。モンスター狩りの基本はグループで。ソロだと予想外の危険に対処するのが難しくなる……だったな」
昔、騎士団長から教えてもらった戦闘の基本だ。
「特に、今はダンジョンが活性化している最中ですからな。注意しておくべきです」
「そうだな。今の所は、モンスターの大量発生は起きていないようだが……」
いつも通り、自然に発生したモンスターを狩っているだけでどうにかなっている。
アンネの話では近日中、それもほんのニ~三日で発生するだろう、とのことだったが、もう三日以上は経っている。
予想以上に、遅れている。ディアネイアとしては有難いことであるが。
「お陰で、防衛人員を配備する時間が出来たからな」
「……腕利きの集団が王都にいたのはラッキーでしたな」
武装都市での依頼達成率9割を誇るトップ冒険者グループ『シャイニングヘッド』。
彼らが王都の酒場にいたのだ。
それが街の警備にあたってくれているのだから、本当にありがたい。
「この辺りのモンスターは、中々強いですからね。並みの冒険者なら、二体同時に相手にするのは難しいですし」
「ああ、鋭い牙で人を突き殺してくるファブニールや、気を抜いた瞬間に丸のみにしてくるビッグスライムも、魔境森で湧いている」
冒険者がグループを組まなければ、討伐すら難しい連中が多かったりする。
「それにダンジョンモンスターも加わるのだから、本当にシャレにならん。防備を固めるのが間に合えば良いのだが」
「問題は山積みですなあ。他の冒険者を招いてはいますが、人を招けば招くほど物資も必要になってきますし。結界を張って出入りが出来なくなった時の為の兵糧も、確保できていません」
「その辺りの問題もいずれ解決しなければならんか……」
本当に問題は山積みだ。
だが、困った困った、と言っていても線がない。
「今は、次の動きに入ろう。私は人狼達に魔境森の状況を聞いてくることにする。騎士団長は、街の防衛配備のチェックを頼む」
「……本当に、申し訳ありません。本来は姫さまではなく、伝令役がやることなのに」
「気にするな。私くらいしか、テレポートを使える奴はいないのだ」
迅速に行動するならば、自分一人の方がむしろやりやすい。
「研究都市にこもっている連中を連れて来れれば話は別だが、今気にしても仕方がないのでな。……行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ!」
●
人狼との会合は数分で終わった。
彼らも集落に入ってきたモンスターを狩っているらしいが、
「魔境森のモンスター発生率は変わらず、か」
増えてもいないし、減ってもいない。
ただ少しだけ、凶暴性が増している、とのことだった。
ダンジョンとの連結穴が関わっているのかは微妙な所だ。
「ともあれ、まあ、次は、あの人の所だな」
ディアネイアは、ダイチの所へ向かっていた。
テレポートで彼の家の付近までいき、そこから徒歩だ。
強力な魔力スポットには直接テレポート出来ないのが難点だが、いきなりいって、驚かれて、攻撃を受けたりしたら溜まったものでもない。
だから、こうして徒歩で向かっているのだが、
「なんだか、騒がしいな……?」
奇妙な音が聞こえる。
ドドド、と何か集団が走る音だ。
……まさか、な。
思わずディアネイアの足取りが早くなる。
あの人に限って、ありえないと思いつつも。
「モンスターの発生がこっちで……!?」
嫌な予感を抱えて、ディアネイアは走る。
そして、ダイチの家に辿り着いた彼女はみた。
「……え?」
数体のゴーレムが、何十といるファブニールの集団を殴り飛ばしては、樹木の弾丸で縫いとめている姿を。
「ォォォ……!!」
巨大なイノシシが音を立てて、巨大なゴーレムに突撃するが、何事も無かったかのように跳ね返されて、転ばされる。
そこからゴーレムの腕から発射された、樹木の弾丸が追い打ちで入って動かなくなる。
そして、すぐにモンスターの集団は全滅した。
「――うん、知ってた」
●
「よっ、今日は何しに来たんだ」
昼寝をしながらモンスターの集団を適当に片付けていると、庭にディアネイアがいるのが分かった。
片付けが終わって眠気も覚めたので、こうして挨拶をしたのだが、
「ああ、うん。なんというか……安心しに来た」
ディアネイアは何故か、物凄く安堵した表情で俺を見ていた。
「?」
「そうだよな。……この様子なら、心配する意味もなかったな。いや、私ごときが心配とか、変な話だが」
何を訳の分からない事を言っているんだろう、この姫魔女は。
「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ。しかし、これほどのファブニール、貴方はどうするつもりなんだ?」
「いや、どうするって言ってもな。俺達で食ったり、人狼とかに分けたり、逃がしたりだよ」
このイノシシの肉は歯ごたえがあって中々美味い。すき焼きとかにするとジューシーで良かったりする。
なので一匹二匹なら捌いて、冷蔵庫で保存しているのだけれど。
それ以上になると処理ができない。
だから、人狼に渡してしまったりしている。
基本は生け捕りだから、どうしようもないときは逃がせるしな。そう言ったら
「そ、そうか。良ければ、だが、私の街に卸し入れてくれないか? 人が多くなって食料が必要なんだ。もちろん、金は払う」
何故かディアネイアは必死そうな顔で頼んできた。
「え? 別にかまわんけど……」
こんなに大量に来た事は無いので、取扱いに困っていたしな。
そっちで処理してくれるというのなら、持っていってもらって構わない。
「あ、ありがとう……! これで一つの問題は解決した……。貴方は街の救世主だ!」
「?」
なんだかすごく感激されてしまった。
訳が分からんが、喜んでいるならそれでいいか。
そのまま、ディアネイアは一時間ほどかけて、ファブニールをテレポート仕切るのだった。





