45.使えるものは地下でも使う。
夕方。
貰った杖で魔法鍵を使って家の形を変えまくってみたのだが、今回は、どれだけ使っても壊れなかった。
丁度いいので、今日は家の形態を増やしてみようと思う。
城型だったり、和風の屋敷形態だったり、ツインタワーだったり色々と形を変えて、登録していく。もちろん、部屋の中で、ゴロ寝しながらだ。
これなら肉体的にも疲れることなく、形を変えていける。
サクラとの同期はいつもの膝枕で完璧だしな。
……えっと、他にやった事がない形は……。
と、探していく中で、ふと、思ったことがある。
「サクラ。アンネの奴が地下でどうたらとかいっていたけれど、俺も地下を利用する事って出来るのかな」
「えっと、それは地下室を作る、ということですか? それなら、出来ると思いますよ」
おお、マジか。
地面から新しく生えてきてるのに、地下室作って大丈夫なのか。
「地面にぎっしり根を張っているわけではありませんからね。基礎もしっかりしているので、拡張していっても平気です」
ふむふむ、そうか。じゃあ、ちょっと地下にも手を伸ばしてみようか。
「でも、どうやって配置すればいいかね。初めてだから分からないんだけど」
「やり方は、いつのもの改築と一緒です。敷地内の地面ならば、ブロック単位で組み替えていくことが出来ると思いますので」
言われたので、脳内で敷地内を意識する。
そして家の周りの地面をブロック単位で動かそうとしたら、
「うわ……マジで出来たよ」
一部屋単位で、地面が凹んだよ。これはすごい。
「いえいえ、ほとんど主様のお力ですよ? 私は、ただ敷地内の認識くらいにしか魔力を使ってませんし」
「そうなのか……でも、敷地内って判定は、どうやって出してるんだ」
どこもかしこも、こんなブロックみたいに動かせるわけじゃないだろう。
「はい。私という魔力スポットの魔力、あるいは主様の魔力が浸透している範囲、ですね。この場合は、主様が植林した部分から二〇メートル圏内が敷地内という判定になっています」
「かなり広いな、その判定。随分とウチの敷地も増えたもんだ」
なにぜ森の一部が完全にウチの敷地になっている。
それというのも、ヘスティのブレスで灰になった部分は、俺が植林して、森っぽく回復させたからだ。
別にそのことで文句は受けた事はないし、ディアネイアからは、別にこの辺りは誰の土地でもない、と聞いている。
また、人狼達からも
「我らが王が回復してくれた場所です! ですから、どうか自由に使ってください!」
とむしろお願いされたから、構わず使ってるけどさ。
「まあ、今はとりあえず、新形態の地下部屋だな」
試しに、一ブロックの穴を直下に作り、一階部分を埋めてみた。
すると、意外と簡単に地面に潜り込む。
「おお、簡単に埋まるな」
一階分、ビルが低くなった。
これは面白い。
高さまで自由自在になるのだったら、自由度が跳ね上がるぞ。もう少しやってみよう。
地面を更に一段階、下に掘る。すると、
――プチッ。
と、何かが潰れるような感触があった。
「え? なんか、潰れた感触があったんだけど、なにこれ」
「ああ、この硬さと波動は……極魔石だと思います。龍脈などの魔力スポットがある地中には偶にできる鉱物ですね。硬度は相当なもので、中々潰れないものなんですが……改装する際には、大地そのものに強い魔力の負荷が掛かりますし、潰れてしまったのでしょう」
「潰しても大丈夫だったのか?」
「はい。なんら影響はありません。こういう魔石から漏れる力をエネルギーにしていたモンスターは弱体化するかもしれませんが、私たちには関係ありません。むしろ大地に魔力が戻るので、土壌が良くなるというメリットまであります」
そうか。
それなら別にいいか。
「よし、じゃあ、もうちょっとだけ試してみよう。サクラ、頼むぞ」
「はい!」
そうして、どんどんと埋めていった。
●
――数十分後。
俺の家が、魔境森から消えることになった。
いや、正確には、全部埋まった。
「……まさかビルが丸ごと埋まるとは」
「綺麗に入りましたね。流石、仕事の細かい主様です。これならば、外から視認できるのはただのリンゴ畑と小屋だけになりますね」
いや、うん、そうだね。褒めてくれるのはいいんだけどさ。
それに、確かに綺麗に地面の中に入ったんだけどさ。
「これ、俺たちが出れなくない?」
「あー」
ドアも窓も土でふさがれている。
魔力のコーティングで土が流れ込んだりはしないけれど、これでは出入りできない。
まあ、呼吸は出来るから、空気がどこから入っているのだろう。
内装を変えれば、上にドアをつける事だって可能だから、退出は出来るけれども、
「上にドアを設けたら、入る時はただの落とし穴になるしなあ」
「ああ……階段など、新しく付けないと危ないですね」
考えなしに埋め込んだら危ないことになった。
これは、地面に埋めるときは、相応の構造にしなければならないようだ。
「……でも、大きくなり過ぎた部分を地面に埋めておくってのはいいかもしれないな。安定性も確保できるし」
「はい、そういう使い方もできますね」
ふむふむ、まあ、今日の所は、お試しだ。
新しい形態を作ることができたのでヨシとしよう。
「魔法鍵は……そうだな。――引き籠る、と」
とりあえず魔法鍵に登録した。
いや、多分、二度と使う機会はないと思うけれど、一応ね。





