―side 竜王と姫― 王都と武装都市の対策会議
深夜。
ディアネイアは、アンネと共に遅い夕食を食べながら話をしていた。
「本当に、貴女が竜王だとはな……全く、心臓が飛び出るかと思ったぞ」
「すみません、ディアネイア様。本当ならばもう少しおしとやかに行くつもりだったんですが、そのタガが外れてしまいまして」
ダイチの元から帰ってから今の今まで彼女と話しあっていた。だから、夕食がこんな深夜になってしまったのだ。
話を聞いた感じでは、武装都市の長官も彼女が竜王であることを知らないらしい。
本当に偶然、この地位に付いてしまった、とのことらしい。
まあ、実際に武装都市を発展させたり、より安全な街にしたりと活躍しているので、ディアネイアは放置しておくことにした。
人の為に動いているのは間違いないのだから。
……それに、私としては、この王都が無事に守れれば問題は無い。
だから、こうしてアンネと喋って情報を交換している。
「あの黒い人形がアンネが出したモノだったのは、流石に驚いたけれどな」
「先に言っておかなくてスミマセン。あの人形は、斥候だったもので」
「斥候?」
「はい、竜脈のお方――ダイチ様が強いのは分かっていましたので。下手に近づいて殺されないように、人形を生んで進んで行ったんですよ。更に言えば、森の中も調査しなければなりませんでしたし」
そういえば、確かにあの人形は自分たち追いかけてきたけれども、それ以外は先回りしていることが多かった。
「あれは魔境森を探索させていたのか」
「はい。そして、結果的にダイチ様は滅茶苦茶強くて優しい方だったので、殆んど無駄骨でしたけれどもね」
頬をかきながらディアネイアは苦笑する。
ディアネイアとしても、ダイチには最初怯えていたので、気持ちは分からないでもない。
黒土の人形に先行させて魔境森を進んでいたのも、頷けるというものだ。
「だが、アンネ」
「はい、なんです?」
「なぜ……自分を襲わせていたんだ?」
「それは趣味です」
真顔で言いきられた。
「しゅっ……まあ、そうだな」
人の好みにとやかく言うまい。
「はあ……はあ……あの人形の責め方はもう少し気持ちよくできました。もうちょっとネットリした泥で作っても良かった……。いや、でも、あのダイチ様の魔力の渦以上に気持ちいい威力が出たかというと……」
というか、これ以上追及したくないし。
自分の世界に入ってしまったアンネは、ちょっといけない顔をしているし。
「と、ともあれ、だ。アンネどの。魔境森の調査結果はどうなんだ?」
「……っ失礼しました。そうですね。やはり、芳しくないですね。先ほどお話した通りの現象が起きていました」
ディアネイアはアンネがこの王都に来た理由を尋ねる際に聞いている。
ひとつは、ヘスティという竜王に会いに来た事。
これが一番大きいらしいが、武装都市の副長官としてこちらに来なければいけなくなった理由がある。それは、
「魔境森から王都にかけて、土地の魔力が芳醇になった。それによる武装都市のダンジョンの拡大化、か」
「はい。人形で広範囲探索してたところ、やはり武装都市のダンジョンとの連結穴が確認されました。このままでは魔境森にダンジョンのモンスターが湧きでてくるかと」
あの魔力スポットのお陰で、この辺りは随分と豊かになった。
だが、その土地に含まれる魔力が豊富になったことで、武装都市の地下にあるダンジョンが刺激され、拡大してきたらしい。
「ダンジョンは魔力を食べる生き物みたいなものですからね。魔力が豊富になったこの地域に手を伸ばすのは必然と言えます」
「ああ、竜の脅威が消えたと思えば、地面からの脅威か……」
どうやら、既に王都の周辺にも、ダンジョンの連結穴が認められるとのこと。
その穴を通じて、ダンジョンのモンスターは湧いてくるのだと。アンネは説明してくれた。
ディアネイアはダンジョンの基本知識は知っている。
魔法使いになる際に勉強したことだ。
だが、このような事態には全く詳しくなかった。
だから、武装都市という、ダンジョンの専門知識が豊富なアンネに聞いていた。
「どれくらいで発生するとか、分かるのか?」
「モンスターの湧く周期はある程度決まっていますが……細かい日時までは分かりません。ただ、ダンジョン化が進んでいるのなら、数日中には湧き始めるでしょう」
「被害を抑える方法は?」
「単純なことです。モンスターを討伐して、全滅させる。これが一番です」
モンスターが繁殖する前に討伐すれば、出現数は減っていく。
また、ダンジョンで一度に生まれるモンスターにも限りがあるので、減らせば減らすほど、広範囲に被害が出る事は避けられる。
「現在、武装都市のダンジョンにいるモンスターだけでもかなりの数でして。モンスターは餌場を求めて、新しいところに流れていくので、この辺りにも来るでしょう」
「ああ、そうだな……」
それは分かっている。
「私が全力で結界魔法を使えば、街を覆う事も出来なくはないが……」
あれから修行して、竜の一匹くらいなら、自分だけでも退治できるようになっている。それくらいの力があれば、ダンジョンのモンスターを通さない結界を張ることだって可能だ。
けれども、持久戦になれば、分が悪い。モンスターを全滅させるまで、自分の魔力が持つかどうかも分からないし。
「魔境森の心配は、ある意味、いらないのは有難いけれどな」
「ダイチ様にダンジョンモンスターは近づく事さえ出来ないでしょうしね。ええ、姉上さまがあそこにいてくれて、本当に良かったと思います」
例え、魔境森にダンジョンが出来ても、彼がいれば平気だろう。
問題は、街の警備の方で、
「一応、情報は出しているし、冒険者に戦力となってもらう契約を進めてはいるが、本当に、大変な事態になってしまったものだ」
「ダンジョンで分からないことがあれば、仰ってくださいね。私は姉上さまとあえて結構満足しましたが、姉上さまとデート出来る場所が減るのは悲しいので」
「ああ、努力させて貰うよ。武装都市の竜王どの」
吐息しながら、ディアネイアは夕飯を腹に詰め込んで行く。
このあとは徹夜で対策を考えなければな、と頭をぐるぐる回しながら。





