41.白黒の女の子
アンネに抱きしめられたまま、ヘスティは、俺たちに自分たちの関係性を説明をしてくれた。
「つまり、このアンネというのが、黒の竜王だと。そう言っているのか、ヘスティ?」
「そう。こいつの名称は、アンネ・タイトスヒュドラ。我と同じ、竜王。昔、ちょっとだけ、面倒を見ていたことが、あるから、知っている」
面倒を見ていた、ね。だからこんなにも慕われているのか。
「そうなんです! 姉上さまになんど助けられたことか!!」
アンネはその巨乳をぐりぐりとヘスティに押しつけている。
だが、ヘスティは眉をひそめて、顔に押しつけられる球体を押しのけようとする。
「うざい……!」
おお、あんなに大人しいヘスティが明確な拒否をしているぞ。
これは珍しいもの見た。そして、
「ああ、痛いッ! でも、気持ちいいですわ、姉上さま。もっと押し返して! もっと強いと嬉しいです!」
こっちは、酷いありさまだ。
初対面の時にあった、綺麗な女性だなあ、という感想が完全にぶっ壊れた。
ヘスティの抵抗に対し、頬を染めて喜んでいる。ジャレあいの範疇なんだろうけれども、
「俺が常識人っぽいって思った人は、大体とんでもないことになってるな」
ヘスティしかりアンネしかり、俺の常識人センサーはイカレてしまったんだろうか。
いや、竜王が常識人の皮をかぶるのが上手い、というべきなのか。
「……って、そうだ。ディアネイアはこの事を知っていたのか?」
他方、ディアネイアに目を向けると、彼女は頭を抱えていた。
「武装都市の副長官が、竜王とか……本当に、どうすれば、いいのか。報告か? いや、でもどこにすれば……、あっちは無理だろうし……」
顔を真っ白にしてブツブツ呟いている。
こっちはこっちで大変そうだな。
悩んでるみたいだから放置しておこう。
そうして、再びアンネの方に視線を送ると、
「ふう、堪能いたしました」
ヘスティがアンネのホールドから解放されていた。
「……暑苦しかった」
「お疲れ」
ふらふらとした足取りで、ヘスティは俺の所にやってくる。
ここまで疲れた表情をするなんて、本当に珍しいな。
反面、アンネは上機嫌だ。とてもホクホクしてる。
「お楽しみの後で悪いけど、アンネ。なんでアンタみたいな竜王が、武装都市の副官をやってるんだ?」
武装都市の乗っ取りでも計画していたりするのだろうか。そうだとしたら一大事だし、そんな面倒事に俺をまきこまないでほしいんだけど。
そう思って聞いたら、アンネは微笑して首を振った。
「いえいえ、そんなことを考えてはいませんよ。私の本業は、ただのアイテム売りですので。姉上さまの真似をしてアイテムを作っては売ってを繰り返していたら、いつのまにかあの地位にいたのですよ」
「……アンネは、いつのまにか、竜王になっていた子。そういう、いつのまにか、地位を上げている事、よくある」
いつのまにかで街のトップ付近まで上がれるのかよ。すごいな、武装都市。
色々な意味で。
しかし、ヘスティは有名な魔法使いだし、アンネは武装都市の副官だし、人間の中に紛れ込み過ぎだろう、竜王。
ヘスティが言っていた通り、無害だから良いけどさ。
「はあ、それにしても、姉上さまにあえて、本当に幸福です……はあ……はあ……」
「――」
息が荒くなったアンネを見て、ヘスティが俺の後ろに隠れ始めた。
本当に苦手なんだな。
……って、そうか。ヘスティが基本的に無害って言っていたのは、こういうことなのか。
「あの子、熱心で、真面目で、無害で、すごく常識的だけど、性癖が、駄目。我に、被害が来る。ある程度、我慢できるけど、あの暑苦しいの、駄目」
駄目言われてるぞ。
しかしなるほど、ヘスティの被害を除いたら、無害なのか。
良く分かったよ。
「じゅるり……はあ……って、いけませんね。あまりの満足感に我を忘れてしまいました。今日はただ、姉上さまに会いに来ただけじゃないんでした」
涎を垂らしまくっていたアンネは、その口周りを拭うと、身なりを正して一礼した。
「ダイチ様。ここで貴方様に会えて良かったです。貴方様と姉上さまが一緒にいるのであれば、私は、かなり安心できます。貴方様のような強者に出会えたことは、私たち竜にとって、とても幸運なことですから」
「お、おう。そうか」
「はい。願わくば、その強さを私も一身に浴びたいところですが……とりあえず、今日の所はお暇しますね。挨拶させていただき、ありがとうございました!」
そう言って、アンネはほほ笑みながら、一人、去っていった。
「……えっと……まずは、彼女に真意を問うて、それから……」
ディアネイアがぶつぶつ言っている状態で残っているが、まあ、それは放っておくとして。
なんというか、ロリを抱きしめるだけ抱きしめて帰っていったな、あの黒髪巨乳。
「大丈夫か、ヘスティ。真顔で固まってるけど」
「ん、……あの子、今日の所は、って、言った……」
「ああ。また、来るつもりなんだろうな」
ヘスティは固まった口元をひくひくと動かしている。
「あー、そうだな。困ったら、俺の所に逃げてきていいから」
「ん、ありがとう。そうさせてもらう……」
どうやら、俺の家への来客が増えるようだ。





