39.微妙に大きな乱入者
あれから、家はまた少し成長した。
縦も横幅も、少しずつ大きくなり、高さで言えば三十メートル以上はある。
まあ、安定性を高めるために、下の階層を大きくしたり、ちょっとずつ城っぽく改造してい
たりと、色々試していたりするのだけど。
「うん、どうにか、城っぽくなったかな?」
現在、見た目は、和風の小さな城である。
ただ、瓦とかは無いし、石垣もないので、格好いいかと聞かれると微妙である
「立派なお城になってますよ、主様!」
「立派……うん。大きさは立派なんだけどな」
作れば作るほど、改造すればするほど、もっと造形にこだわりたい!と思ってしまう。
いや、結局すむのは最上階の二LDKだから変わらないんだけどさ。
「まあ、とにかく、魔法鍵に登録しとくか。これは《城》っと」
頭の中で言葉を紐付けして、登録する。
そして再び塔の形に戻していると、
「ん、家の改造、順調みたい。よかった」
「おお、ヘスティか。……って、どうした? そんな変なローブを着て」
「街に、行こうと、思って。……杖の材料、尽きた」
「あー……もしかして、俺がおり過ぎたせい?」
実は、ここのところ、俺は杖をポキポキやっていたりする。
この前は、魔法鍵を連続で十回くらい使ったら、ボキっといった。
一度で壊れる事は無くなったのだけれど、完全に折れなくなった、というわけではなかったりする。
「むうう……我の尾骨や尾翼、大きいから、それはいいけど。他の材料が、無くなった」
若干頬を膨らませたような感じで言ってくる。
簡単におられるのは、職人としては結構悔しいらしい。
「おう、悪いな」
「んーん。我が、ちゃんと性能を把握できていなかった。最大負荷には耐えられても、回数の負荷には耐えられなかったみたい。だから、もっと強化する。その為の材料、買ってくる」
「そうか。それはありがたいが、金は大丈夫なのか?」
言うと、ヘスティはローブの内側をポンと叩いた。
中からは金属がこすれる音がした。
「この前貰ったの、使う。行って帰って、ほんの、数十分。それまで、その杖で待ってて」
「おう、分かった。それじゃあ、よろしくな」
「ん」
こっくり、と頷いて、ヘスティはとてとて歩き去っていった。
「……あの速度で往復して、数十分とか出来るのか?」
「ヘスティちゃんは、人間の形態でも竜の力をそこそこ使えるって言ってましたし。速度は出るのでしょうね」
あー、確かに物凄い速度で走ったりしてるところを、感知したことがある。
そうか。人間の状態でも強いんだよな、あの子。
見た目とか雰囲気で忘れそうになるけれども、一人で世界を旅してきたって言ってたし。
「まあ、それじゃあ特に心配もしなくていいか。……ああ、そう思ったら腹が減った」
午前中から作業を始めて、結構な時間がたっている。
魔力も使ったし、食欲が主張してきているようだ。
「そうだと思いまして、お弁当を用意してきました」
「おー、助かるぜ、サクラ」
「いえいえ、簡単なものですので」
そう言って、サクラは懐から小さなバスケットを取りだす。
中には握り飯と肉と野菜の炒め物が入っていた。
「おお、美味そうだ」
「ありがとうございます。あ、おにぎりですけれど、今回は塩を濃いめにしてあります」
「それも、ありがたいな」
家の改造をすると、汗をかくから、しょっぱいものが欲しくなるんだ。
「そういえば、コメの備蓄は減ってるんだっけか」
「そうですね。白米が二カ月分、玄米が一カ月分という感じです」
なるほど、それじゃあ後々、稲作に手を出そうか。
リンゴの種と同じ感覚で育てられるか、チャレンジしておくのがいいだろう。
「それでは、私はお茶を入れてきますね。主様はお先にどうぞ」
そう言って、サクラは自宅へいそいそと戻っていく。
とりあえず、今後のことよりも、今は目の前の昼飯を食うか。
「頂きま――」
おにぎりを掴んで、口に入れようとした瞬間、
「う、うわあああ! そ、速度を落とすんじゃないぞ、アンネ殿」
「わあ、大変ですね、この森も!」
「……」
見知った顔の魔女が、見知らぬ女と共に、庭に飛び込んできた。
●
「――!」
ディアネイアと見知らぬ女性は、奇妙な黒いゴーレムに追いかけまわされていた。
しかし、なんで俺の家の庭に来たんだ、こいつらは。
そう思いながらおにぎりを一口かじる。
「す、すまない、ダイチどの。変な輩に襲われていてな」
第一声が謝罪だったから、そこまで怒ったりしないけれどさ。でも、
「俺の静かな昼飯タイムを返せ!」
コメを飲み込んでから、それだけは叫ばせて貰った。刹那、
「――!!」
「ぐおお……!!」
叫びと共に魔力の渦が放たれる。
そして、ゴーレムと、魔女とは、一発で纏めて吹き飛んだ。
ゴーレムはその衝撃で粉みじんに崩れ、ディアネイアはその場で尻もちをつく。
……ああ、なんか、昔を思い出すな。
けれど、その時と違うのは、
「くうう……久々に食らった……から、キツいな。ちょっと漏れたかもしれない……」
ディアネイアは立ち上がっている。
最初の頃とは大違いで、耐性ができているようだ
ただ、やらかしたのは、最初の頃と一緒の事だけれども。
「ったく。ドラゴンだったり、泥人形だったり、変なものばかり持ち込むな、アンタは」
「す、すまない……未知のモンスターだったのでな。対処方法が分からずに、追い詰められてしまった」
吹っ飛んでいった姿を見るに、ただの大きい泥人形だろうが。
何を怖がっていたのだか。
「……あれを泥人形と言えるのは貴方だけだと思うぞ? 相当な硬さだったしな」
「そうか?」
「そうなのだ。いや、数体なら私も片付けられたのだ。ただ、十体以上に囲まれると、どうしてもな。引き打ちしていたら、ここに来てしまった……」
なんでこっちに持ってくるんだよ。
アンタが処理しろよ。
「うう、すまない……」
「まあ、今は片付いたみたいだからいいけどさ」
魔力を使ってせいで更に腹が減るじゃないか。
とりあえずおにぎりを食って、一息つかないと。
と、俺がむしゃむしゃ食っていると、ディアネイアの視線が俺の奥に行った。
「ところで、ダイチ殿? 質問があるのだが……貴方の家の形が変わっているというか、でかくなってる気がするのだが、気のせいか?」
「気のせいじゃないけど気にするな」
「そ、そうか」
「というか、俺も質問があるぞ。そっちの、黒髪の人はなんなんだ?」
知らない顔だが、ディアネイアの友人だろうか。
さっき、俺の魔力の渦を食らっても、吹き飛ばずに耐えたような感じだったが。
「あ、ああ、こちらは私の客人でな。アンネ殿、ちょっと紹介させて貰っていいか?」
「あの……人形を一撃で……。この威力は、流石に想像以上に……気持ちいい……」
黒髪の女性は熱に浮かされたような目をしていた。
「アンネどの? どうかしたか?」
「えっ……あっ……ああ! すみません。あまりの事に、ボーっとしてしまって」
彼女は虚空を見ていたようたが、すぐに気を取り直して、俺と目を合わせてきた。
その顔は、ほんの少し紅潮しているが、緊張しているのだろうか。
「あ、ああ、失礼いたしました。わたくし、武装都市の司令部、副長官のアンネ・タイドラと申します」
「おう、よろしく。武装都市の人か」
あのスキンヘッドたちの街だったな。司令部ってことは、そこの親玉か何かか?
「まあ、そのようなものです。ところで、貴方様は、この魔力に満ちた土地の主様、ということでいいのですか?」
「そうだな。というか、アンタも分かるんだな、魔力に満ちてるとか」
「ええ、似たような地形が街の中心にありますからね。ここほど強くはありませんが」
なるほどなあ。分かる人には分かるものなんだな。
なんて、こちらが感心していると、ディアネイアが驚いたような顔をしていた。
「あん? どうした、ディアネイア。そんな変な顔をして」
「いや……その、意外と、アンネ殿が普通に会話していることに、びっくりしていてな」
そういえば、そうだな。
俺を変な風に怖がらず、普通に喋ってくるのは中々レアケースだな。
武装都市のトップという事もあって、きっと強いんだろう。
「ディアネイア様。もうちょっと、私、この方とお話したいのですけれど、大丈夫ですか?」
「ええっと……わ、私はいいのだが、ダイチ殿は……」
「俺も構わないぞ」
飯は食い終わった。
武装都市の連中が突っかかって来たばかりだし、追加情報があっても悪いことじゃない。
それに何より、
「今は暇だしな。お茶でも飲んでゆったり話そうぜ」
「わあ、良かったです。私も、ちょっとだけゆっくり、したかったんです」
こうして、俺の庭での突発お茶会はスタートしたのだった。





