37.庭の防衛線、構築
俺は居間のテーブルに肘をついて悩んでいた。
「うーん」
「主様? いかがなされましたか?」
テーブルの上にお茶を出しながら、サクラが聞いてきた。
「いや、いい感じに、相手を手軽に捕えたり、追い払う方法はないものかなあって思ってさ」
出されたお茶を飲むと、ごちゃごちゃしていた頭をリセットされた。
その上で、改めて考える。
今の所、庭に来る侵入者はゴーレムで迎撃している。
あと、ヘスティがいるときは彼女が処理してくれる。ただ、、
「もっと省エネで出来るんじゃないかな、と思うんだよ」
何も考えずウッドゴーレムを大量に使って、物量で押しつぶすのも楽と言えば楽だが、一体で多数を相手にできたほうが、もっと楽になるんじゃないか。
それをずっと考えていたんだ。
「でも、ゴーレムは動きが遅いんだよな」
「主様の体で操作するウッドアーマーに比べると、確かにウッドゴーレムは数段落ちますね。それでも、主様が操ると、人狼を捉えるくらいには早くなるのですが」
サクラは褒めてくれるけれど、庭が広くなっているんだ。
多少の速度では、足りなくなっている。
ゴーレムが少ないと、全体を、カバーすることはできない。
罠を張ってはいるけれど、踏まなきゃ発動できないので、能動的ではないし。
「だから、もっとこう、一網打尽にできるようなものがあればいいんだけどなあ」
考えながら、俺は床に寝転がって天井を見つめる。すると、ひとつ、思い浮かんだことがある。
「――そうだ。対空用の飛び道具を応用すればいいのか」
「飛び道具、ですか」
「ああ、地上での遠距離攻撃とかは考えてなかったからな。丁度いいと思うんだ」
手始めに木の弾丸をゴーレムから打ち出せるようにしてみよう。
「軽く試してみたいから、サクラ、同期頼むー」
「はい、かしこまりました。膝枕でいいですか?」
「おう、ありがとう」
サクラの太ももが俺の頭に下に敷かれる。
やーらかくて気持ちいい。
そんな感触を得ながら、俺はサクラとの同期を開始する。
「えっと……とりあえず、外郭のリンゴの木で良いか」
適当に選んだリンゴの木をゴーレム化する。
――ウッドゴーレムの配備と改造はとても楽だ。
こうしてサクラにくっついているだけで、敷地内のどこにある木でもゴーレム化出来るし、手を加えることだってできる。
というわけで、トラップ用の射出装置を、ゴーレムの腕に移植する。
そして使うのは、樹木を丸く削った玉。
それを手のひらから打ち出せるようにする。
弾数は数発しかないが、ここは後々、増やしていこう。
「この装置を組み込むと、見た目が再びもっさり化するが、今は置いておいて……っと」
まずは試し打ち。
地面に向けて撃ってみる。
「樹木弾……発射」
ばね仕掛けで吹っ飛んだ木の弾丸は、土に深くめり込んだ。
「おお、これなら威力は十分かな」
「はい! かなりの衝撃を観測できました! すごいですよ、主様」
土地と同期しているから、自分でも威力の観測はできている。
衝撃から推測するに、ウッドゴーレムのパンチと同じくらいの力は出ていた。
これだけ威力があれば、侵入者を追い払うのもたやすいだろう。
「――あ、北方にモンスターが接近していますね」
「おっ、ちょうどいいな」
室内でこうしているだけでも、モンスターを見つけて、すぐに試せるのは本当に楽だ。
外に出て、目視で試すのもいいけれど、この自堕落モードはやはり良い。
「ふむふむ、モンスターは魔光石のゴーレムか」
この前は、竜の鱗で爆発していたけれど、本来はかなり堅い存在らしい。
実験台にはうってつけだ。あいつに撃ってみるか。
「狙いをつけて、力を込めて――発射!」
刹那。
――ズドン!
と、樹木弾は、強烈な音と共に魔光石の体を貫通した。
それだけではなく、後方の樹木までも、貫いた。
そして、魔光石のゴーレムは、貫通の衝撃で後方に吹っ飛ばされていった。
「えーっと……?」
想像と違う。なんでこうなった?
……ああ、そうか。
ウッドゴーレムの拳よりも、面積が小さい分、貫通力が上がったのか。
というか、ウチのリンゴの木の堅さも相当だな。
まあ、効果は実証されたわけで、
「本当に、威力は十分だったな……」
「そうでしたね……」
とりあえず人に使わなきゃ、グロテスクなことにならないだろう。
ただ、庭で惨劇を起こすわけにもいかないし、威力の調整はしておこうか。
弾を改良すれば、貫通力も減るだろうし。多分。
「……念のため。次は外で慎重に実験しておくか」
「では。外に行くついでに、お弁当持っていって、食べましょうか」
「おう、それじゃあ、よろしく頼む」
こうして俺は、庭でピクニックをしつつ、庭の防備を更に固めていくのだった。
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その後、数々の実験の結果。
リンゴの種を打つのが、人に対してもっとも丁度いい威力になる事が分かった。
打ち込んで即座に芽吹かせれば、相手を縛る縄代わりにもなる。
ゴミも出なくて、経済的だしな。
今度からはそれを使おう。





