35.千客万来
朝飯を食べ終えた俺は、スキンヘッドどもの前にいた。
彼らはゴーレム達に囲まれている中で、おびえていたのだが、俺が出向いた瞬間、土下座をして、
「す、スミマセンでした……」
会うなり、全力で謝られた。
そして滅茶苦茶震えて、怖がっていた。
このゴーレム集団が、そんなに恐ろしいんだろうか。
ともあれ、話をしなければ。俺は近場の一人に近寄る。
「なあ、ちょっと話を聞きたいんだけども」
「はっ……ぁい……」
だが、俺が目を合わせようとしたら、顔から汗がブワッと吹き出し、白目を向きそうになっていた。
「おい、寝るんじゃない。本当に話にならないだろ」
「はっ、はい! す、すみません!」
ベシベシと顔を叩くと、目を覚ましたようだ。
なんだ。疲れてるのか?
「い、いえ、私は、そこまで魔力耐性が強くないので……息が、続かないんです」
そうなのか。それは困るぞ。
俺はただ話をしたいだけなのに。
「ええっと……じゃあ、この中で一番強い奴は誰だ?」
「ひゃ、ッハー。お、俺、です」
聞くと、スキンヘッドの大男が手を挙げた。
一番いかつい顔をしていると思っていたけれど、こいつがリーダーか。
俺はスキンヘッドの大男の前に座る。
大男は震えはしていたが、気絶することは無かった。これが強さの差なのか。
まあ、俺は話しができるのであれば、なんでもいいんだけどさ。
「さて、まずはお前らの正体を聞かせて貰っていいかな?」
「ひゃ、っはー。……は、はい」
朝っぱらの大暴れで、侵入者たちは相当消耗していたようで。
質疑応答は意外と素直に進んで行った。
「なるほど。彼らが武装都市という場所の冒険者グループで、王都プロシアの要請を受けて、遠征にきたってことでいいんだな」
「ひゃっはー。そ、そうッス」
「ふむふむ。それじゃ、そのまま武装都市とやらに帰らず、お前らがここに来た理由はなんだ?」
聞くと、大男は数秒悩んでから、静かに口を開いた。
「お、俺たちが所属する武装都市には、冒険者に依頼を出す司令部があるんですが。そこに所属する色っぽいネーちゃんから、ここに宝があるらしいから見て来いって言われたッス」
「へえ……お宝ねえ。見つかったのか?」
「い、いえ、魔石が少しばかりありましたが、それらしきものは見つからなかったッス」
そうか。そうだよな。俺もこの辺りを散歩したけれど、財宝的なものは無かったし。
「ま、まさか、アンタのような、強力な魔力の持ち主が住んでいる、魔力スポットだとは思わず……。本当に、失礼しましたッス……」
なるほど。俺が住んでいるという事は知らなかったらしい。
「来た理由は、本当にそれだけなのか?」
「は、はい! それだけです!!」
嘘を言っているわけでもなさそうだ。
つまり俺や家を狙ってきたわけではないのか。
それは分かった。けれど
「俺の庭に、断りなく足を踏み入れたのは感心しないな」
「――ひゃ、ヒャッハ――! わ、分かってます! 反省して、俺、この通り、頭を丸めてます!」
いや、それは元からだろう。
「た、足りないのであれば、――お、オメエらも!」
「お、オッス! 丸めます!!」
スキンヘッドの指示で、後ろの連中も、手持ちのナイフや剣で頭を剃ろうとし始めた。
「いや、丸めるとか、それはどうでもいいって。というかやるな。俺の庭にゴミを出すな」
むしろ迷惑だ。ただ、そうだな。
そこまで反省しているなら、もういいや。
「損害は何もなかったし。砕けた鎧の破片とかを片付けたら、お前ら帰れ」
「ほ、本当に……? み、見逃して、頂けるので? 見せしめに、首を晒したりとかはやらないんですかい……?」
どんな悪趣味な蛮族だ、それは。
まあ、家を傷つけたり、してたらゲンコツの一発くらいはくれてやったけれどもさ。
「もう、俺の家を狙ったりしないんだろ? そして、その司令部とやらに、宝物なんて無かったと伝えるのなら、帰ってよしだ」
「ひゃ、ヒャッハ――!! ご、ご慈悲、ありがとうございました――!!」
そうして、冒険者どもは、俺の庭の周りのゴミを片付けてから、逃げ帰っていった。
●
冒険者たちから話を聞いたものの、不明な点がいくつか残ってしまった。
「色っぽいねーちゃん、か」
ねーちゃんっていうなら女性だろう。
けれども、俺の知り合いで、色っぽいのがいただろうか。
サクラとヘスティはかわいいけど、色っぽくは無いし、ディアネイアは綺麗だけど、やはり色っぽくない。
「赤の他人が、俺の家に宝があるとか、依頼を出すのか? 目的がさっぱりわからんが……」
んー、まあ、今はどうでもいいか。
奴らが嘘情報に踊らされた可能性だってある。
話しぶりとか行動を見るだけで、考えなしに動きそうな連中だったし。
大体、今のうちから深く考えても、どうにもならない。武装都市とか、そんなのあることすら知らなかったしな。
「その辺は、ヘスティに聞いておくとしよう」
そう思い、俺はへスティの小屋に向かった。
すると、彼女は既に外に出ていて、空を眺めていた。
「おう、ヘスティ、ちょっと用があるんだけどいいか?」
「ん、大丈夫」
声をかけると、ヘスティはこくん、と頷いた。
だがその後で、彼女は上空を指差した。
「でも、……その前に。お客さん、来てるみたい」
「客?」
俺がへスティの指が示す先を見ると、虹色の鱗をした竜が、旋回していた。そして、
『着陸の許可を頂きたいのですが。よろしいでしょうか。我らの古き姫君と、我らが新しき君主よ』
そんなしわがれた声を、俺に飛ばしてきた。





