幕間 ヘスティのお料理修行
「ダイチ、水は、このくらいで、いいの?」
「ああ、いいぞー。そこから研ぐんだ」
俺は庭で、ヘスティが釜に水を入れる姿を見ていた。
というのも、先日、我が家の田んぼで新米が出来たということで、調理することにしたのだ。
無論、炊飯器に入れればそれで簡単に食べれるのだが、
……へスティが料理や調理法を覚えたいと言っていたからな……。
そう思い、ヘスティに尋ねてみると、
『我、やってみたい。湖でやってた事、一応、見てたから」
と言うので、野外での炊飯をやってみることになったのだ。
俺はその付き添いである。野外で米を炊く経験はあるし、そこそこのアドバイスは可能だ。
……とはいえ、既に魔法で庭に野外用の竈を作ってあるからなあ。
やることといえば、釜に入った米を研いで、水を入れて、火にかけるだけなのだけども。
そう思いながら、ヘスティを見ていると、
「……ここから、研ぎ? 結構、ガシャガシャやってたから、力強く……」
傍から見ていても分かるくらい、手に物凄い力を込めて、釜に突っ込もうとしていた。
「待つんだヘスティ。その力でやったらコメが粉になるから。……優しくでいいんだ」
「ん? そうなの? なら、優しくする」
ヘスティは首をかしげながらも、しかし言われた通り優し気な手つきで米をもんでいく。
言えばすぐに分かってくれる辺り、ヘスティの学習能力はかなり高いよなあ、と思っていると、
「んー、なんだか、これ。東方の国で、見たことある感じに、なってきた」
「ああ、そうなのか? こっちにもコメに似た穀物があるんだな」
プロシア周辺ではあまり見かけなかったけれども。
まあ、国や町が一つというわけではないのだから、文化も色々あって当然か。
そう思っていると、最初に教えた手順通り、ヘスティはとぎ汁を流していた。
……新米で、精米もしたし、研ぎは一度で充分だ。
そのままヘスティが新しい水を入れるのを見守り、
「ん、出来た。あとは、火にかける。……業火じゃなくて、程よい強さの」
「おー、よく覚えられてるなー。偉いぞー!」
最初は程々の弱火で、と言ったら、竜王の火炎くらい?とか聞いてきたから、火力についてもみっちり指導済みだったりする。
「ん、ダイチが教えてくれたことだし、しっかり、頭と体で、覚える」
「はは、ヘスティ先生にそう言ってもらえるとありがたいよ」
言うと、ヘスティは頬をわずかに染めつつ、竈に火を入れた。
完全に弱火だ。
そのままいい感じで釜の中の水を沸騰させていき、火加減の調整をしたり、炊飯の工程をこなしつつ、ヘスティとゆったりしゃべり待つことおよそ一時間。
「ん、完成……したかな?」
ほのかないい香りがした。
ヘスティが鎌のふたを開けると、
「ああ、しっかり炊けてるじゃないか、ヘスティ」
そこにはよい感じにふっくらとした米が出来上がっていた。
「ん……頑張った……」
ヘスティは嬉しそうに言う。そしてタイミングを同じくして、
「主様ー。ヘスティちゃんー。おかず、出来ましたよー」
家の方から、サクラがやってくる。
「いいタイミングだな。……それじゃあ、ヘスティとサクラが折角作ってくれたし、食うか!」
「ん。食べる」
俺たちは、新米と、サクラが作ってくれた料理を味わっていく。
そして自分で炊いた米に関して、ヘスティが、
『美味しい』
と言ってくれて、なんともよかったと、そう思うのだった。
新作「100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます」を始めました! 結構、チャレンジしている作品です。
宜しければ、こちらも見て頂けますと嬉しいです。よろしくお願いします。
↓のリンクから作品ページに飛べます。





