254 戦い終わって
創始竜を倒した後、俺はナギニやその姉の治療のために共に自宅に戻っていた。
治療が終わる頃には時刻は夜になっていたのだが、そこには知っている顔が集まっていて、
「――という事があった。説明、終わり」
「南で莫大な魔力な反応があると思ったらそんな力に溢れた事をやっていたとは。――私も行きたかった!!!! 行きたかったぞヘスティ!」
「あー、ボクも眠気が覚めるほどの力があったからねえ。大変だったねー、ヘスティー」
カレンや、ラミュロスなど、観測していたらしい竜王たちだったり。
「武装都市から緊急で連絡が来たと思ったら、ええ、とんでもないことになっているとは。あとで報告書はお願いしますね、ディアネイアさま」
「うむ。そこはやっておくので任せてくれ、騎士団長。食事会が終わった後、色々と纏めて行くよ」
同じく都市間で連絡を受けた騎士団長もいた。
ナギニが姉を助ける事が出来た祝いに、庭でささやかな食事会を開こうとしていたのだが、いつの間にか大勢が集まり、宴会兼情報交換会になっているようである。
とはいえ、情報交換の様子を見るに、なにやら、今回の件は結構な騒動になっていたようだなあ、と思っていたら、
「ん、アナタのお陰で丸く収まったけど、本来あの創始竜が出てきて暴れたら、とんでもない事だから。当然」
こちらの内心に気付いたのか、ヘスティがそんな風に説明してくれた。
いつも通り分かり易くて有り難いと思っていたら、
「主様ー。ナギニちゃんたちの治療と服装の整え、終わりましたー」
家の方にいたサクラが手を振りながらこちらへ来た。
見れば、その隣にはナギニがいて、
「師匠。ご迷惑をおかけしましたっす。そして色々と有り難う御座いましたっす」
俺の前に来るなりぺこりと頭を下げてきた。
「いや、気にするな。面倒を見るって言ったんだからな」
「あはは……見て貰い過ぎな気もするっすが……でも、有り難いっす」
ナギニは目の端に浮いた涙を拭いながら息を吐いた。
「ん……すみません感情を抑えきれずに。アタシの事はともかく、姉を紹介しに来たので、まずはそれをさせて欲しいす」
「ああ、目覚めたのか」
ナギニが抱えていた少女の事だ。
彼女は家に来てもしばらく眠りっぱなしだったが、ナギニが治療している間に起きたのだろうか。
「はいっす。――っと、ドーラ姉、こちらへ」
ナギニが体を半身にすると、その後ろから、ナギニによく似た顔立ちの少女が歩み出てきた。
背も似ているが、違う部分は髪の色と目の色、そしてやや大人っぽい体格といった所か。
そんな、ドーラと呼ばれた少女は、俺の前に来るなり膝をついて、
「初めまして。私、ドーラと申します。ダイチさん、以後お見知りおきを。そして末永くお付き合いして頂ければ幸いです」
丁寧に三つ指をついて挨拶した後、そそっと寄ってきた。
寄ってきたというか、くっついてきた。
「うん? 初対面だよな? 距離感、ちょっと近くないか?」
明らかに初顔合わせで取る態度ではないような気もするのだが。そう思ったのは俺だけではないらしく、
「そ、そうっすよ! どうしたんすか、ドーラ姉! いつも初対面の人にこんな態度を取ったりする人じゃないというか、もっと警戒したり、丁寧な対応をするタイプなのに!」
ナギニも慌てていた。
大人っぽい容姿の通り、本来の性格も大人っぽいようだ。ただ、今の彼女の様子を見るにナギニのしる姉とは異なっているようだ。
「ま、まさか、ドーラ姉。創始竜の意識が入ったことで後遺症が……!」
その変貌にナギニが焦り始めるが、ドーラは微笑しながら首を横に振った。
「そうではありませんよナギニちゃん。正確には、私とダイチさんは、初対面ではありませんから」
「む? どこかで会っていたっけ?」
そんな記憶はないのだが。そう思っていると、ドーラから答えが来た。
「ええ、わたくしが寝ている間、夢としてナギニちゃんを通し、ずっとアナタを見ていたんです」
「うん? それは、どういうことだ?」
「わたくしたちは双子ですからね、寝ている間も魔法的に繋がっているのです。だからナギニが見て経験して過ごした時間は、わたくしも夢の中とはいえ、持っているのです」
何だかわかるような分からないような説明をしてきたが、
「つまり……ええと、ナギニと一緒にいた時間、俺は君とも一緒にいた、的な感じか?」
「そういう事です」
「だそうだが、ナギニは知らなかったのか?」
「は、初めて知ったっす……」
ナギニは呆然としている。彼女にとっても初耳だったようだ。
「まあ、そんな訳ですから……ダイチさんが私たちを救ってくれたことも、頼りがいがあってとても面倒見がいい事も知っていますし。……もっと言えば、とてもお慕い出来る方という事も分かっていますので。私の師匠としても、末永くお願いお付き合いをお願いしますとお伝えしたのです」
ピタっとドーラはくっついてくる。それを見て、ナギニは再び慌て始めた。
「ちょ、師匠はアタシの師匠っすよ!?」
「そうですね。ナギニちゃんの師匠ってことは、私の師匠でもあるって事ですよ?」
「ちょ、ずるいっす、ドーラ姉!」
なんだか、普段以上にドーラが賑やかになっている気がする。そして姉がいると、困り顔をしながらも、いつも以上に楽しそうにしている。
だからきっと、こっちが本来のナギニなのだろう。などと思っていると、
「ナギニちゃん。本題、入りますよ」
「あ、そ、そうっすね、ドーラ姉」
双子の竜が俺の前に改めて座り直した。そして、二人そろって、俺の目を真面目な表情で見つめ、
「創始竜がいなくなったことで、私たち二人は、暫定的な竜の国の管理者となりました」
「ただ、アタシたちの見解では、師匠が創始竜を倒したということで、竜の国の主たる権利は師匠にあるという結論に達しましたので、ご自由に使って頂ければと思うっす」
「……うん?」
いきなり何を言っているんだ、この二人は。
「あの、国というか土地の権利を渡すと言われても。特に興味はないから、そのまま君たちが管理してくれればって思うんだ……」
その言葉にナギニとドーラは顔を見合わせた後、礼をしてきた。
「かしこまりましたっす。師匠ならそう言うと思いましたが、使いたい時には言って下さればと」
「ええ。何も無いところですが、運動や散歩をするには良い場所なので。いつでもご利用できるよう管理はしておきますので」
「おう、頼むわ。これで本題とやらは終わりか?」
「はいっす。これだけは言っておかないとと思ったので。あたしたちの用件は終わりっす」
「そか。なら、次はこっちの用件だな」
「用件っす?」
ナギニは首を傾げたが、そういえば彼女には食事会の目的を伝えていなかった。
「ああ。……ナギニの目標達成と、ドーラの快気祝いをする為に、サクラやディアネイアに色々と用意して貰ったからな」
そう。庭には既に今でも沢山の料理が並んでいるのだ。
「二人ともたっぷり食って飲むといい。」
乗り越えるべき問題は少し変わったモノの、その努力で目的を達成できたのだから。
そんな俺の言葉に、ナギニとドーラは再び顔を見合わせてから、
「……ありがとうございます師匠!」
「ナギニちゃんと一緒に、楽しませて貰います、ダイチさん」
二人そろって、今までで一番嬉しそうな表情をするのであった。
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