252 連携はスムーズに
俺が頭部にウッドアーマーを装着すると同時、
「その蛮勇、命を持って贖え!!」
声と共に、八本首の竜から俺に向けて、雷撃が走った。
いや、正確には、俺と近くにいるナギニに向けてだろう。
「あぶねえな……!!」
俺は一歩前に出て、ウッドアーマーの腕を盾にして受け止める。
バチっという音と共に腕に衝撃が走るが、それまでだ。
先日ならった防御魔法をアーマーにも転用しているのだが、上手くいっているらしい。それを見た創始竜は、嫌そうな顔をする。
「ふん、ワシの雷撃を防ぐ魔力か。……ニンゲンにしては珍しいことだが、その荷物共を庇いながら何時までやれるかな」
一本の首が喋るうちに、残り七本の首がそれぞれ、にやりと歯を見せる笑みを浮かべた。そしてそれぞれの口腔や首回りに炎や雷撃の弾が溜まっていく。
どれも大きく、巻き込むような攻撃をしてくるつもりが満々なのが見て取れる。だが、
「庇いながらやる気はねえよ……! ナギニ、ちょっと揺れるぞ」
「へっ……ひゃあ!」
俺は背後にいたナギニと彼女の姉を樹木で包み、持ち上げ、移動させた。その移動先にいるのは、ディアネイアやヘスティ達で
「皆、一応さっき説明したと思うが……」
「うむ、分かっているぞダイチ殿!」
「ナギニの保護はこっちでやる。任せて」
肯定の声がした。
そう、俺には任せられる仲間がいるのだ。そんな彼女たちの元に、ナギニは移動していく。
●
ヘスティはナギニが少女を一人抱きかかえたまま、樹木に押されるようにして向かって来るのを見ていた。
「ナギニ。そのまま、こっちへ」
「はいっす! ヘスティさん!」
「ナギニ殿! 既にこちらの魔法準備は出来ている。魔法が来たら、抵抗することなく受け入れてくれ」
「有り難う御座いますっす、ディアネイアさん」
そんな風に喋っていると、創始竜の首の一本の視線が、こちらを向いた。
「……これはテレポートの準備か」
「っ……気付くのが早い」
魔力の反応だけで感づかれたようだ。
「『移動制御』!」
瞬間、首一本が上空に灰色の魔力を打ち上げた。灰色はすぐさま半球上に展開される。それだけで、
「っ……テレポートが出来ない……? 封じられた……!?」
「ん。魔法で、対抗された、ね」
「それは、ワシのモノだ……! 逃がさんぞ」
その言葉と共に、首が一本、完全にこちらを向いてくる。
その巨体を、ヘスティはナギニに肩を貸しながら、見上げる。
「貴様ら如きにワシの体は渡さん……!!」
ずずず、と轟音と共に創始竜の首がうねる。
動くたびに黒い闇の様な魔力が放たれていく。その姿に、ディアネイアは冷や汗を流しながら言葉を漏らす。
「これが創始竜……。改めて見ると、異様に禍々しいな」
「ん。古来は、温厚な王だと、聞いていたが……随分と、発する魔力が温厚じゃない……なんだかどす黒い魔力も……嫌な感じがするし」
「怨念か妄執か。悪いモノに取りつかれたのとはまた違って、変質した感じもあるわね。カトラクタ以上に、おかしな魔力を感じるわ」
かつて邪竜を封じていたマナリルは顎に手を当てながらぼやく。
ここまで極端な思考をするとは、長年を生き過ぎておかしくなったのか、とヘスティは思うが、それを言うよりも早く、
「ワシのカラダを、カエセ……!! 『創竜の熱砲』」
殺意と、魔法が来た。
首一本の口腔から放たれる、極太の熱線だ。
「っ……『水竜の障壁』……!!」
それを認めたマナリルが、瞬時に空中に水壁を張った。
魔力のこもった頑丈な壁で、大抵の熱であれば防げる魔法であるが
「『雷撃咆哮』」
重ねるように口腔から雷撃が放たれ、壁を貫くように飛んできた。
「っ、熱線かと思ったら電撃が来るなんて。どんな首をしているというか、一体何の竜なのよ……」
「き、気を付けてくださいっす。創始竜は、歴代王の力を体に宿しているっす……!! 八本の頭のどれもが、歴代王の魔法を使えるっす……!!」
肩を貸していたナギニが声を絞り出すように伝えてくる。
「ん、竜王八体分の力とは、面倒なくらい、強い……《白焔の斬戟》……!!」
言いながらヘスティは、その首に向けて炎の刃を放つ。が、
「無駄だ……《水流壁》!!」
首を水の壁が覆った。
そこにぶつかった炎の刃は、一気にその刀身が短くなる。
それでも一応、首の表皮を切り裂く事は出来たものの、そんな傷は一瞬のうちに再生されてしまった。
「……ブレスで威力を弱められた。しかも、また、再生持ち……」
ヘスティは眉をひそめてぼやく。
再生能力は永く生きるのに便利だ。
ゆえに、竜が持つ事は多いのだが、
「こういう時は厄介」
「私たち、火力特化じゃないものね」
水で周囲を防護しながらマナリルも呟く。
彼女も決め手がないようだ。もっと言えば、隣にいるディアネイアやアンネも攻撃をして、時折傷を付けてはいるものの、直ぐに回復される。
これでは千日手だ。そう思っていたら、
「ああ、ジャマだジャマだ。……いっそ、ここから人の国まで、一思いに焼き尽くしてくれる」
先にしびれを切らしたのは創始竜だったらしい。
口腔にこれまで以上に強大な魔力を溜め始めた。
「わ、わ……物凄いエネルギーが溜まっているっす……!」
ナギニが慌て始める理由は分かる。
「姉上様。これ、不味いですよ」
「ん、減衰がやっとかな。首一本だけど、強い……」
アンネも自分と意見が一致しているようで頷いてくる。
この魔力をぶちかまされたら、流石に無事では済まない。そう考えていたのだが、
「な、なんで皆さん、落ち着いているんですか。人間の、ディアネイアさんも……」
こちらの態度に、ナギニが冷や汗を垂らし始める。でも、それは単純な事だ。
「ん、それは慣れてるから」
「ああ、そうだなヘスティ殿。何せ我たちには、もっとすごいヒトを見て来ていて、そして今は彼が付いているのだから……」
そう言った瞬間だった。
「つれねえな。俺の方から首と顔を背けるなよ」
「ごおっ!?」
エネルギーを溜めた首を、ウッドアーマーを着込んだダイチが殴って吹き飛ばしたのは。
「お前の相手は、俺だろう」





