251.一度言った事
ウッドアーマーを着込んだ俺に対し、霊廟から転がるように出てきたナギニはぽつりと言葉をこぼした。
「お邪魔って……霊廟の壁を貫いた、んすか……。竜の攻撃にも耐えうる結界を……」
「ああ、霊廟の入り口からそのまま入ると電撃を受けるって言われたからさ。ヘスティ指導の元、ちょっとだけ壊させて貰った。あとで元通りに直すからそこは勘弁してくれ」
流石はヘスティと言うべきか、この結界魔法が付いた壁の作り方も分析できているらしいし。ともあれ、その件については置いておく事にして俺は、こちらを見上げてくるナギニに目をやる。
彼女は傷だらけで、そこらかしこに血の跡が見える。それでも、両手でぎゅっと抱えた少女は話していない。恐らくは抱えているこの子が彼女の姉なのだろう。
抱えた彼女の体には傷の一つも見当たらない。
「ああ……そうか。ここまで、よく頑張って守ったな、ナギニ」
言った瞬間、ナギニの顔にぶわっと涙が浮かんだ。
そして、よろよろと抱きかかえた少女ごと俺の体に倒れ込んでくる。
「おいおい、大丈夫か?」
「う、うう……す、すみませんっす。なんか、安心しちゃって、足から力が抜けて……」
「別に気にするな。二人分の体重を支える事くらい何てことない」
「あ、ありがとうっす……師匠……」
と、ナギニが俺の顔を見上げて礼を言うのと、ほぼ同じタイミングで、
「ワシの城を壊してくれたのは、どこのどいつだ……!!!」
霊廟の通路に張り巡らしていた樹木の壁をぶち抜きながら、八本の首を持った竜が飛び出してきた。
「あれが君たちを殺そうとした創始竜か。八岐大蛇っていうべきか」
「は、はい……! 巻き込んで、すみませんっす……」
そんな風にナギニに確認を取っていると、向こうもこちらを視界にとらえたようだ。
「ナギニが来た時より奇妙な感覚がすると思えば……ニンゲンと、人化した竜共が何故ここにいる……」
血走った目で睨みつけてくる。
怒りと、少しだけ驚きも交じった様な視線だ。
「……いや、ここにいる理由などはどうでもいい。それよりもニンゲン如きが、邪魔をしてくる方が大罪だ。それは、ワシのものだ。ワシの肉体だというのに……」
創始竜は明らかにイラついた様な口調で、俺の背中に隠れるように座るナギニ達を指さす。
「……ニンゲンよ。今すぐ渡すなら手足の一本二本をもぎ取るだけで、その命だけは見逃してやる。渡せ」
「おいおい、色々とツッコミどころはあるが……この子たちの体はこの子たちのモノだろ。随分と乱暴で見当違いな事を言ってるんじゃないか、創始竜よ」
俺の言葉を聞くと、創始竜は歯をガチリと鳴らした。
竜の表情は分かり辛いが、苛立ちがさらに増したのかもしれない。
「……矮小なニンゲン如きが、ソレら失敗作を庇うか」
「当然だ」
そう言うと、ナギニは俺の腕をぎゅっと掴んでくる。
「師匠……味方を、してくれるんすか……」
その問いかけに、俺は頷きを返す。
すると、創始竜の首から炎や雷撃が零れてくる。
「なるほど……命はいらぬようだな、ニンゲン……」
感情が高ぶっているようで、やる気も殺気も満々だ。
「それはワシが飼育したものだ。ワシがどう扱おうが勝手だろうに、扱いに口を挟むとは、なんと無礼者か……!!」
「なに、俺も普通の家庭の問題なら首を突っ込む気は無かったんだ。家庭の方針に口を挟むなんて事は本来したくもないしな」
ただ、今回は例外だ。
「その子は弟子として触れ合ってきて、健気で良い子だって知ってるんでな。そんな子を酷い目に合わされる と良い気分はしないんだよ」
少なくとも、面倒を見ていた子が命を奪われようとするのを、見過ごしたくはない。
それに、だ。
「創始竜。アンタ、さっき北の森や人間の街を潰すとか言っていたな? それも聞き捨てならないんだ。そこには俺の家と、俺が結構楽しみながら行っている街があるんだからさ」
そうだ。そちらがその気なら、俺の弟子と、俺の楽しみの場所を潰そうとするならば――
「――今ここで、俺の全力をもって叩き潰させてもらうぞ、創始竜……!!」
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