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俺の家が魔力スポットだった件~住んでいるだけで世界最強~  作者: あまうい白一


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245.望みの理由

杵を完成させて数十分後、ナギニの午後の修業を見届けていると、案の定ナギニが吹っ飛ばされたので俺はナギニを拾い上げてベンチで休ませていた。


「ふぎい……毎度毎度、力、足らずにすみませんっす……」 


 ナギニはベンチでぐったりした状態で、水を飲みながら力なく言葉を吐いてくる。


「気にするな。これくらいの面倒を見るって言ったからな」

「ありがとうっす……。ふぐう……もっと、力を得なきゃ、あれを倒せないっすから。頑張らないと……」


 ナギニがポツリと呟いた「あれ」というセリフで、俺はふとききたかった事を思い出した。

 

「そういえば、ナギニ。姉に呪いをかけた、強くならなきゃ倒せないモンスター……だっけか? そいつは、どんな奴なんだ?」


 鍛錬の主目的である討伐対象を聞いていなかったな、と思って問いかけると、


「えっと……っすね……」


 ナギニは口ごもった。


「むう? 何か説明し辛い相手なのか?」


 不定形とか、姿がほとんど見えないモンスターとか、そういったものだろうか。そう思って訪ねたら、ナギニは首は横に振った。


「あ……いえ。その、ちょっと言い方に悩んだだけですので、お話するのは全然かまわないっす。……むしろ、聞いてほしい位で……どこから説明しようか考えてたっす」


「ふむ……まあ、聞かせてくれるなら、最初から。聞けるだけ聞かせてくれた方が助かるな」


 そちらの方が事情も知れるし。

 昔のヘスティの例もあるが、ため込んで置かれて良いことなど、あまりないし。

 

 そう言うと、こちらを驚きの目で見た後


「師匠は……本当に面倒見がいいっすね」

「そうか? 俺よか、周りにいる奴らの方が面倒見いいと思うけどな」


 俺の面倒を見てくれているサクラやヘスティなんか言わずもがなだし。ディアネイア達だってナギニの修行の面倒を見ていた訳で。


「いえ、それは師匠にも言える事で、凄くありがたい事なんすよ」

 

 ナギニは微笑しながらそういうと、ふう、と一度息を吐く。


「――そして、その有り難さに甘えて、一から話させて貰いますっす」


 自分の師匠からの問いかけに対し、ナギニは水の入ったコップをテーブルの上に置く。そして、ダイチに向き直り、改めて口を開く。


「実はアタシが相手取ろうとしているのは普通のモンスターじゃない……というか、正確に言えばモンスターと言うべきでないもの、でして。……竜の国にいる、『創始竜の祖霊』という化物が相手、なんす」

「祖霊? 言葉のままの意味で考えると、先祖の霊って事か?」

「はいっす。遥か昔に竜の国をお造りになったのは『創始竜ジェネシスドラゴン』と呼ばれている方なんすけど、その方が国の霊廟に残した強大な力と意志、霊魂を合わせたものをそう呼ぶっす」

「それが呪いとどう関係があるんだ」


 先祖の霊と姉に対する呪いの繋がりがよく分からないという師匠の疑問も当然だ。だから、ナギニはそのまま説明を続ける。


「創始竜が残した強大な力と意志は、竜の国の王が代々受け継ぐことになっているんす。国を守り反映させ続けるという目的のために。それで、アタシとドーラ姉は同じタイミングに生まれた双子で二人で王になることにしたんで、二人で分けて継ぐという風になったんす」

「二人で……って、それは良いのか? 王様が二人になりそうだけれども。国的に大丈夫なのか」

 ダイチの言葉にナギニは苦笑する。

 自分たちも試練を受ける前に思ったことだったからだ。


「ええ、まあ。これまでそういうやり方をした王は一グループだったが存在した、と祖霊からは言われたっすから。それに国といっても、ただの土地の管理者に近いので、文句をつける者もいないっすよね。二人、王がいたというのは文献や記録には残ってないすけど、前例が存在したというのもあって、あたしたち二人での受け継ぎに……チャレンジを、したんす」

「チャレンジ……か。って事は……絶対に上手く行くって類のものじゃなかったんだな」


 やはりダイチ師匠は察しが良い、と思いながらナギニは頷く。


「継ぐにはそれなりに強烈な試練が……祖霊たちの力の本流を受け止める必要があるんす。その受け止めは、しくじったら下手すれば死ぬものっす」


 ナギニの中に強く残っている試練を受けた時の記憶。それを思い出しながらナギニは言葉を漏らす。


「……まあ、結論を言うとアタシが姉よりも数段弱くて、力を受け取るのに体が耐え切れなかったすよね。それでも、一度試練を始めたら最後まで配分は仕切らなければならないので、アタシが耐えられない分は姉が、――ドーラ姉が受け持つことになりました」


 姉はいつも自分の事を庇ってくれる。だからその時も、姉の『任せて』と言う言葉に頼ってしまった。けれど、


「その力は強力過ぎたんす。アタシよりも何倍も優秀な姉ですら耐え切れないものだった。そして無理に力を受け止めようとした姉は……結果、倒れました。今も霊廟で、意識を失ったままなんす」

「……祖霊の力ってのは、本来は一人で受け継ぐものだったんだよな? なのに、二人で受け止めてなお、そんな状態に陥ったのか?」

「創始竜様からはそう説明されたっす。だから結局はあたしたちの力不足だったのでしょう」  


 幾ら祖霊から試練を受けるタイミングだと言われたといえ、もうちょっと鍛えてから試練を受けるべきだったんだと今なら分かる。


「力不足だとそんな事になるかもしれないと、誰か止めなかったのか? 親とか、国にいる竜とかは」

「私たちが物心ついた時にはもう、親はいなかったもので。国といっても名ばかりの土地で、住み着く竜も今はいないっすから。生まれた時から姉と二人きりで、偶に創始竜様からご進言を受けたりして生活してたんす。言ってしまえば創始竜様に育てられたようなもので……だから、創始竜様の『そろそろ』と言う言葉を鵜呑みにしてしまったんすね」


 その時は分からず、言われるがままに無謀をしてしまった。その代償は、きっちり来たということだ。

 

 不幸中の幸いなのは、目覚めない姉に創始竜からの加護が掛けられている事だ。

 加護の力で数か月なら飢えないし、死ぬこともないように管理できるだろう、と祖霊からは言われた。

 だが、目覚める事も無いとも。


「アタシは姉に守られて……守られっぱなしできたんすけど、流石に今回ばかりは効いたっすね」

 不甲斐ないとそう思った。だから、


「――今度はアタシが姉の分まで、その力を受け止めなければならない。故に鍛えようと思ったんす」


 それはここに来る前に絶対と決めた事だ。

 そう伝えると、ダイチは目を伏せて軽く頷いた後、


「なるほどなあ。……辛い事を思い出させて、すまんな」


 申し訳なさそうに言ってきた。

 

 ……押しかけてきたのはアタシなのに、こっちの事を考えてくれて、優しい人っす。

 

 思いながらナギニは首を横に振る。


「いえいえ、全然平気っすよ。これはアタシが受け止めなきゃならない過去で、立ち向かわなければならない事なんすから。むしろ目標が再確認出来て有り難いっす」


 お陰で、漫然と修行することなく、きっちりと気を引き締められる。


「受け継ぎの試練、また頑張るっす! 姉さんを助けるためにも……強くなる……。だからこれからもご指導お願いするっす!!」

「ああ、そうだな。何が出来るかヘスティに聞きつつ、俺も頑張るよ」

「はい! ありがとうございますっす、師匠!」



お陰様で、ニコニコ静画様の方で、コミカライズがスタートしております。

そちらも面白いので是非、お読みいただければ嬉しいです。


そして、いつも応援ありがとうございます!

面白いと思って頂けましたら、ブクマ、評価など、よろしくお願いします!

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