240.鍛錬と本番の違い
大変ながらくお待たせして申し訳ありません。
体調の方を叩き直してきましたので、更新、再開いたします!
シャイニングヘッドにナギニを預けた翌日。シャイニングヘッドのリーダーであるアッシュは、ナギニを連れて俺の家の外れ、ヘスティの小屋の前までやってきた。そして、
「ヒャッハー! 旦那、この子、飲み込み速いっすよ。防御術式は粗方覚えちまいましたから!」
いい笑顔でそんな報告をしてきた。
「マジか。早いな」
「ええ、まあ、魔力はあったんで。覚えるのに難は無かったんでさあ」
「うっす! しっかり覚えさせてもらったっス!」
ナギニはどことなく凛々しい表情になっていた。
「一日見ないだけで、結構、変わるモノ、だね」
小屋から出てきたヘスティも、ナギニの顔を見て頷いている。
「ヒャッハー。竜王の姐さんからそう言われると、教えまくった甲斐があったってもんだ」
たった一日とはいえ、かなり成長したようだ。
なにせ、俺の家に近づいても、あまり体調を崩していないようだし。だから、
「防護の鍛錬はこれで終わりってことなのか、アッシュ」
そう、アッシュに聞いてみたのだが、彼は首を横に振った。
「いえ、まだまだ、実践確認がまだでしてね。その為にココに来させて貰ったんでさあ」
「実践……って防護のだよな? ここで確認できるのか?」
「ヒャッハー。そうっす。毎度のごとく旦那が狩ったり、追い払っているイノシシの一体を、利用させて貰おうと思ったんでさあ」
アッシュの視線の先には、ゴーレムに転がされている大型のイノシシ、ファフニールがいた。
この家の魔力に誘われて、偶に来る獣の一種だ。それが数匹、いる。
「あれを利用するって、どんな風に?」
「アイツの突撃を受け止めるんですよ。素手で」
そう言った瞬間、ナギニの髪の毛が逆立った。
「え? あ、あれ、ファブニールじゃないっすか! 上級モンスターレベルのやばい獣っすよ!?いきなりレベル高くないっすか!? いや、あんなに大型なのがウリ坊みたいに転がされている光景もやばいんすけど!」
無理無理無理!と首を振る彼女に対し、アッシュは首を傾げる。
「いや、ほら、竜王の嬢ちゃん。上級レベルと言っても、旦那の家に入りたいんだろ? だったらそれくらいやれなきゃ駄目だろう。俺っちみたいな人間だってやれるんだし」
「ええ……マジっすか」
「勿論。ってことで、旦那、あのゴーレムをこっち側に走らせて貰っていいですか?」
「ん? ああ、それくらいなら……ゴーレム、こっちに来い」
命令すると、先ほどまでイノシシを相手にしていたゴーレムがこちらを向いた。そしてドシンドシンと走って来る。
当然、それを追いかけるようにして、一体のイノシシがやってくる。
まさに猪突猛進と言うべきか。
そんな凄まじい勢いでこちらに来るイノシシの前に、アッシュは立ちふさがり
「手本を見てな、嬢ちゃん。――《完全防護》《アイアンレシーブ》! ふん!」
その両手でイノシシの頭を掴んだ。
ずさあっと勢いに押されて後ろに滑っていくが、しかしその手は弾かれず残ったままだ。やがてイノシシの勢いは消えて、完全に止まった。
その身を受け止められたイノシシは突然の事に戸惑いの表情を浮かべて、後ずさろうとする。
「な? この通り、人のみでも、あの質量を受け止められるんだ。まあ、多少は怪我するけどな」
言いながら、アッシュはイノシシの頭から手を離した。
逃げ出すイノシシを見送る彼の手からは血が僅かに噴き出している。
「大丈夫か、アッシュ」
「ヒャッハー。心配してくれてあざます。まあ、この位なら平気でさあ。これを簡単にやっている旦那のゴーレムは本当にすげえなあって再認識が出来ましたよ」
はは、と苦笑するアッシュは懐から取り出したポーションを手に振りかけながら、ナギニに向き直る。
「とはいえ、まあ、魔力の多くない人間でもこれ位の事は出来るんだ。竜王の嬢ちゃんはもっと楽に出来る筈さ」
その様子を見せられてナギニは恐る恐る頷く。
「わ、分かったっす! と、とりあえずは、やってみるっす! 師匠、一匹こっちにお願いします」
「ああ、はいよ」
俺は再び、イノシシの相手をしていたゴーレムの一体を呼び寄せる。
すると先ほどと同じようにイノシシもやってくる。
そしてナギニもアッシュと同じようにイノシシの前に立ち、
「《完全防護》……!!」
全身に魔力を張り巡らしながら両手を突き出して、イノシシの頭を掴んだ。そして、
「やっぱ、無理っす――!」
弾かれて思いっきり吹っ飛んだ。
「ぐふっ」
背の高い森の樹木に引っ掛かるくらいには高く飛んだ。
相当な勢いだったようだ。
「旦那のゴーレムみたいにはいきませんねえ」
「まあ、この人のゴーレムはそこら辺の竜よりも強いし、竜王よりも強い部分があるから仕方ないね。倒された我が保証する」
「何とも心強い保証をありがとうよ。……ともあれまあ、ナギニを回収しようか」
「ううう……面目……ないっす……」
そうしてナギニをふっ飛ばしたイノシシはゴーレムに任せる事にして、俺は涙目で樹木に引っ掛かった彼女を介抱するのだった。
大変ながらくお待たせいたしました。
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