239.冒険者チームとの鍛錬
ウサギの店の前には、丸太を輪切りにして作られた椅子と円卓が配置されている。
晴れた日には、そこで料理を提供して、外で飲み食いが出来るようになっているのだ。
そんな場所に、シャイニングヘッドたちはいた。
彼らは豪快に料理を食いまくっていたが、森の方から歩いてきた俺たちを見た瞬間、
「お、旦那じゃないっすか。ちーっす!」
「ちいいいいっす!!!」
野太い大音量で、声を掛けてきた。
「どうしたんすか。珍しいっすねえ、こんな時間にここら辺に来るなんて。しかも姫さんや、竜王の姐さん方まで連れているなんて」
そしてリーダーのアッシュを筆頭に、ゾロゾロとこちらによって来るのだが、
「ひ、ひいい、な、なんすか、この怖い顔の人たちは」
ナギニは一発でビビったらしい。
俺の後ろにササッと隠れてしまった。
その上、俺の腰を掴んでプルプルと手を震わせているナギニ、
……確かに目の前にいるのは厳つい奴らどもだがなあ。
竜王である彼女がここまでビクビクするなんて、とナギニを見ていると、目の前の強面共が苦笑していた。
どうやら顔が怖いと言われたことに気を悪くしてはいないようだ、と思っていたら、
「ははは、顔が怖くてすまねえなお嬢さん。ただ、バカ言っちゃいけねえぜ。俺っち達からすると、お嬢さんが今隠れている旦那の方が怖いんだからな!」
「悪かったなあ怖くて。まあ、先に顔が怖いだとか言っちまったのはこっちだから流すけど。……ともあれ、今日はあんたらに用があってきたんだよ」
「俺たちにっすか? 旦那が用なんてこれまた珍しいっすが、何です?」
「ちょっと聞きたいんだが、アッシュ。アンタらって、『魔力防護』って技術を使えたりするか? 少し必要としてるんだけど」
聞くと、アッシュはぽかんと口を開けた。
そして周りの仲間たちと目を合わせて頷いてから首を傾げた。
「ええと、そりゃダンジョンを攻略するのに必須だから、使えますが、どうしてです? 旦那なんて天然のとんでもねえ防護が入っちまってるから、魔力による攻撃どころか物理も通じないから、覚える必要はないと思いますが」
おや、どうやら俺は天然で魔力防護を持っていたようだ。物理まで効きにくいとは、初めて知ったよ。
……これまで、あんまり怪我をしなかったのもそのせいか。
こんなところで新事実を知るとは思わなかったが、まあ、今はそこは関係ない。
「ああ、その魔力防護を必要としているのはこの子の方なんだよ」
俺はそう言いながら、背後に隠れていたナギニをずいっと前にやった。
「う、うっす……」
そしてナギニが声を発した。
瞬間、シャイニングヘッドの面々の顔つきが変わった。
一気に、真剣なものを見る目になったのだ。
「……その子、ただもんじゃないっすけど、なんすか?」
「お、分かるのか」
「ええ、まあ。言葉に魔力が混じっているもんで、普通の人間じゃないってのは分かりますし。潜在魔力で言えば、そっちにいる姫さん以上に見えますし。雰囲気的にはヘスティの姉御に近い物を感じますぜ」
アッシュの分析に、彼の周りにいる仲間達も同意するように頷いた。
なるほど。彼らには本当に危機察知というべきか、特殊なものを見分ける技能はあるようだ。
これは話がしやすいな、と思いながら俺はシャイニングヘッドの面々にナギニに関係の事情を説明することにした。
「その通り。この子はナギニっていう、修行中の竜王でな。俺に師匠をやって欲しいっていうもんだから、少しばかり面倒を見るって話になったんだ。で、今は魔力防護の練習をしなきゃいけないって事になって、その辺りの話をアンタらに聞きたかったんだ」
俺の言葉を聞いた瞬間、アッシュ唇をわなわなと震わせながら、ナギニを指示し、
「も、もしかして、旦那はその竜王のお嬢さんを弟子にしてるんすか……?!」
「うーん、そこは難しい所でな。弟子にはしてないんだ。ただ、面倒を見ているだけで」
その言葉にシャイニングヘッドの面々は一気にざわついた。
「りゅ、竜王の面倒を見てるって、後見人みたいなもんか……!?」
「この地の主が竜王と同居しているって話や、竜王をぶっ飛ばしたってやばい話ばっかり聞いてはいたけれど、まさかここまでとはね……」
「ああ、想像をはるかに超えたことやってくれるぜ。流石はダイチの旦那だぜ……!」
そんな言葉と共にシャイニングヘッドの視線は俺と、俺の前にいるナギニに集中する。
その視線を食らったナギニは、再びプルプルと震えはじめ、俺の顔を見上げて来る。
「あ、あのあの! ダイチ師匠!? この人たち人間の中でも見たことないくらい強いと思うんですが。そんな人に旦那って呼ばれるって、どうなってるんすか!?」
「どうって言われてもなあ。というか、ナギニから見ても、強いって思うんだな」
「ディアネイアさんもそうっすけど、この地帯にある魔力を常時受け流している上に、常に魔力を流動させてるんすから。こんなことが出来る人間、この街に来るまで見たことないっす!」
ナギニは興奮しながら言ってくる。
ディアネイアもシャイニングヘッドのことを優秀だと称賛していたし、彼らは本当に有能な人材なんだろう、と思っていたら、
「ははは、ほめ過ぎだぜ竜王のお嬢ちゃん。俺たちよりもそこの姫さんの方が何十倍も強いからな。そして旦那は何百倍も強くて怖いからな」
「うむ、そして私たちと比較できないほどダイチ殿は強いぞ。そして偶に怖いぞ」
「そ、そうなんすか。で、でも、分かったっす! 師匠に教わる時は色々覚悟するっす!」
「そんなに気負わんでいいって。あとお前ら、怖いを強調し過ぎだ」
心の中で褒めていたのに台無しじゃないか、とディアネイアとアッシュたちに半目を向けておく。
そもそも、特に自分から攻撃を仕掛けた覚えはないんだけどなあ、とそんな事を思いつつも、
「まあ、とりあえず、だ。ナギニは強くなりたいそうなんだが、防護方面が不安らしくてな。アンタらに、防護面を教えて貰う協力をお願いしたいんだが、頼めるか?」
そんな俺の言葉に、アッシュたちは即座に頷いた。
「勿論っすよ! 旦那の頼みで、俺たちでいいんなら、協力させて貰いまさあ! そうだろ、お前ら」
「おう!!」
「きっちり優しく教えてあげるぜ」
完全に即答だった。
しかもメンバー全員で、だ。
「急な頼みなのにありがとうよ。……今度酒でも奢るわ。ウチにリンゴジュースを上手く酒に出来たのがあるんだよ」
リンゴの応用法ということで作ったリンゴジュースに、さらなる魔法を上掛けすることで酒にすることが出来た。それを振るまおう、と提案してみたら、
「旦那のトコで作った酒って、マジっすか!? すげえ美味そうだ」
かなり食いつきが良かった。
「ああ、でもそこまで期待すんなよ? それなりに飲めるってレベルの味だからな」
「いや、旦那がそれなりっていうレベルなら、俺たちにゃあご馳走だろうし、有り難いっすよ!」「ごちになります!」
「うひょー、楽しみだぜ!」
というか、かなりテンションが上がっている。
まあ、喜んでもらえるのであれば嬉しい事だけれどもさ。
「ま、そんな感じで頼むわ、シャイニングヘッド。この子の防護を鍛えてくれ」
「ええ、良い酒が飲めることも決まったし、尽力しますよ! それじゃ、竜王のお嬢ちゃん、行こうか!」
「うっす! 今日からよろしくお願いしますッス!」
そんなわけで、ナギニは冒険者連中とも鍛錬をして、増えた強化項目を一つ一つこなしていくのだった。





