236.成長スタート
出されたお茶を口にしながら、俺はディアネイアの言葉を聞いていた。
「――というわけで、基本的にはこうした魔法の基礎を訓練プランに従って行うのだ。普通の魔女や兵士がやると数週間は掛かるが、筋の良い者なら数日で終わる筈だ」
「なるほど。やる事は分かった。ナギニもこれでいいのか?」
「うっす、問題ないっす」
ナギニも受け入れている。
これなら、しばらくディアネイアのところに任せてもよさそうだ。
しかし話を聞いていて思うのは、
「魔法の基礎訓練、か。そう言えば俺もやったことが無いんだよなあ……」
「まあな。ダイチ殿はいつの間にか、基礎どころか応用まで身に着けてしまったからな……」
「いや、基礎も応用も区別がついていないから、身に着けたって言うのは語弊がある気もするけどな」
などと喋っていると、ナギニが首を傾げて俺を見てきた。
「え? ダイチ様は、とんでもない魔法を使いまくるって町中でも、街の外でも噂になっているんすけど……訓練をした事、無いんすか……」
「噂になっているという事態が少し気になるけれども、まあ、したことが無いわけじゃないぞ? ゴーレムの改造や樹木の操作は日常的にやっているし、魔力を使って何かをする練習は何度もしてきたんだ」
その辺りは、サクラやヘスティなどいろいろな人に教えて貰った記憶がある。
暇な時間があれば、基本的にそういった能力を行使してきた経験もある。
「ただ、ディアネイアが使うみたいな魔法の練習はしたことが無くてな。火の槍は出せると思うけれど、ああいった呪文詠唱とか、よくわかってないんだ。想像するだけで使える魔法がある、と言われてここまで、そればかりやってきたし」
「まあ、ダイチ殿はする意味がないからな。こういう形式ばった魔法は、込められる魔力に上限があるのだし。ダイチ殿のような力があれば想像魔法で自由に魔力を行使した方がよっぽど強いし、効率的だ」
そんなディアネイアの言葉に、ナギニは唖然とした表情をしていた。
「す、凄いっすね、ダイチ様……。想像していた以上に、とんでもない人っす……」
「大丈夫だぞ、ナギニ殿。……その想像は数十回は更新されることになるから、いずれ慣れる」
「ディアネイアも褒めてるんだか分からない微妙なラインを付いてくるようになったなあ!」
だんだんこの姫も遠慮なしに冗談を言ってくるようになってきたな。
実害はないから良いんだけれどさ。
「ま、何にせよ細かな力の使い方を習うならディアネイアと魔女たち、あとは兵士連中に習うのが一番ってことでな。やっていけそうか、ナギニ?」
確認するように聞くと、ナギニは力強く頷いた。
「勿論っす。というか、こうしちゃいられないっすね。早い所、この街の人たちに協力してもらって体と心を鍛えこんで、ダイチ師匠の教えも受けられるように頑張るっす」
「あー、教えられることがあったらな。俺もたまにはこの店に来ているから、その時は色々と話そうや」
「うっす! こちらこそ、よろしくお願いしまっす!」
こうしてナギニはプロシアに住みながら、訓練の日々を送るようになっていった。
ヘスティにも見守っておくと言ったことだし、この街に負担を押し付けるのも嫌だし、定期的に様子を見にこよう。





