233.竜業界でのナンバーワン
ナギニと呼ばれた小さな竜王はビクビクとしながら、こちらに歩いてこようとしていたが、
「あ、あたし達をた、助けてくださ――うぐえ……」
庭に入ってくるなり、えずいて膝をついてしまった。
顔も真っ青になっている。というか、
「……ッ」
軽く嘔吐している。
「え、何? いきなりゲロ吐かれたんだけど」
こんな反応をされたのは初めてだ。
「……この辺りの魔力濃度が濃くなってるから。その影響かな。慣れてないものがはいると、体調不良を起こすと思う」
「俺の家は毒沼じゃないんだけどなあ」
だがまあ、このままにしておくわけにもいくまい。ヘスティ達の客らしいし、介抱くらいはしてやろう。そう思って近寄っていく。
「大丈夫か?」
「う、うぐ。汚してしまって、も、申し訳、あいっす……」
「気にするな。……この庭をもっとひどく汚したヤツもいるからな」
「な、なんで私の方をみるのだ、ダイチ殿! いや、確かにやったけれども……しかしだな――」
ディアネイアの方を見たら、なんだか長い弁解が飛んできたので、とりあえず放置しておくことにした。
……今気にすべきは目の前で真っ青な顔をしているこの子だろうしな。
そう思って、彼女の背中をさすってやろうとしたのだが、
「ひゃああああ!?」
触った瞬間、飛びあがられた。
そして、そのまま直立不動状態で固まった。
「お? 大丈夫なのか?」
「だ、だだ、大丈夫、っす。ち、力がわいてきたので。ただ、体が動かないだけっす……!!」
「立ち上がれたのに体が動かないって、どういうことだ?」
と、俺が首をかしげていると、
「いや、アナタの魔力が一気に伝わったから、ビックリしたんだと思うよ? 忘れがちだけど、貴方の魔力、物凄いからね」
ヘスティが背後から説明をくれた。
なるほど、俺が触れたから、この子は涙目で飛びあがって硬直しているのか。
「でも、この子も竜王なんだろ? 俺が触れただけで、こんなカッチカチになるものなのか?」
ヘスティやアンネなど、他の竜王とは何度も触れ合ってきたけれども、ここまで過剰な反応をされたのは初めてだぞ。
「んー、アナタの魔力、まだ強まっているからね。それに、この子は、竜王の中では、最も力が無いからね。この子は双子の竜王で、片方だけだと半人前だから」
「へえ、双子の竜王がいるのか」
「そう。珍しく二人揃って生まれて来た。半分の強さしか持たないから【半強】。最も若い竜王。ここからかなり離れた竜の国を統治している」
「まさに竜王ってやつなのか」
竜の国の王様とは凄い奴がウチに来たものだ。
「……でも、なんでウチに来たんだ。なんか助けてくれーとか言っていたけど」
「それは……ナギニに聞かないと分からない。――だからナギニ。そろそろブルブルしてないで、こっちに戻ってきて喋る」
ヘスティがそう言って、ナギニの頬をペシペシと叩く
「ふぁ、ふぁいいいい……」
そうすると、先ほどまで固まっていたナギニはぺたんとへたりこんだ。
立ったり座ったり忙しい竜王だな、と思っていると、
「――し、失礼しましたっす! い、いきなり莫大な魔力を持つお方に触れられたんでビックリしたまま固まってしまったっす。失礼しました、【竜王の支配者】様!」
ナギニは、俺の事を見ながらそんな呼び名をしてきた。
「……おい、なんか変な呼ばれ方をした気がするんだが、それ、俺の事か?」
「ウッス! 竜の業界では有名なんすよ。この世界の竜王五体を手篭めにした男がいる、と」
「いつの間にそんな噂が流れていたんだというか、竜の業界って何だ」
しかも手籠めにしただなんて人聞きが悪い。
「俺はただ普通に暮らしていただけなのに」
「……まあ、うん、それは、そうだね」
なんだかヘスティの反応がおかしいが、肯定っぽい返事が聞けたしまあいいだろう。
「うん、俺の事はどうでもいいや。それでナギニ、君は、ヘスティやラミュロスに会いに来たって事で良いんだよな?」
「あ、はい。そうっす。正確に言うと、お二人と、【竜王の支配者】様に、なんすけれど……」
おや、竜王たちだけじゃなくて、俺にも用があるようだ。
一体何があるんだろう、そう思って彼女の言葉を待っていると、
「竜の国を治めているのあたしの双子の姉――ドーラって言うんスけど……モンスターの方から呪いを受けちまってまして。それを解くための協力をお願いしたいんス!」
「協力って言うと、何をしてほしいんだ?」
「竜の国の王として、お願いするっす。呪いを解くために、モンスターを倒さなきゃならないので……あたしを弟子として鍛え上げて欲しいんス!! ヘスティさんにも、ラミュロスさんにも、そして、【竜王の支配者】様にも!」
どうやら新たな竜王は、弟子入り志願者だったらしい。
最後の竜王が登場しました。山場ですので、最低でも月一更新はしていきたいと思っております。
そして宣伝になりますが、明日1/25に魔力スポットの4巻が刊行されます。
↓に表紙があります。今回の巻は割と攻めてみましたので、お楽しみいただければ幸いです。





