232.残る二人の出会い方
竜王に付いて学ぶ、ということで、俺はヘスティ、サクラと共に庭のベンチに座っていた。
眼の前ではラミュロスが茶菓子を美味しそうに食べている。
「うわあ、このアップルケーキ美味しいよ! サクラさんが作ったんだよね?」
「はい。お茶菓子のバリエーションも増やそうと思いまして。気に入ってもらえてよかったです」
「そりゃ気に入るよー。空にいた時はこんなにおいしいものは食べられなかったからなあ」
そう言って、本気でバクバクくらいついている。
よっぽど腹が減っていたのもあるだろうが、確かにサクラの作ってくれたケーキは美味しかった。
「ね、ヘスティもそう思うよね」
「ん、思う……」
ヘスティも口数少なく、夢中でもむもむと食べていた。
もはや喋るよりも食べる方に集中している感じだ。
「お二人に好評なようでなによりです。……主様は、どうですか? お気に召されましたか?」
「おう、勿論だ。というか今までで一番美味いと思ってるよ」
「ふふ、有り難うございます。昨日よりも美味しくなるようにって毎日思いながら作っていますからね」
と、サクラは小さく両手でガッツポーズをした。
彼女にとっても自信作だったみたいだな。全員が気に入ったようでなによりだ。
「いやあ、ボク、地上に降りてきてよかったなあ。本当に美味しいや」
「ああ、そういや、ラミュロスはずっと空の方で生活していたんだっけか? 食べ物とかどうしていたんだ?」
「うん? 普通に空のダンジョンのモンスターとか、食べられそうなのを食べていたんだよ。お肉にしては堅いし、美味しくないのも多かったけどね。あとは地上の知人の竜がご飯を届けてくれたりもしたけど、基本はダンジョンで自給自足だね」
割とワイルドな生活をしていたらしい。
竜王と言うのは大体、食にこだわらないが、彼女もそのうちの一人なようだ。
そんなラミュロスに対し、ヘスティは半目を向ける。
「まあ、ラミュロスは大食らいで、美味しくないものも、平気で飲むように食べる。だから、デブる……」
「わあん、酷いよヘスティー。地上に来てちょっとは痩せたんだからー。竜王が体重を減らすのって大変なんだからねー」
「へー、そうなのか?」
ラミュロスの言葉の真偽をヘスティに聞くと、彼女は難しそうな顔をした。
「我らみたいな竜王は、成体になったら基本的に、体重や身長は変わらない。魔法で見た目を変化させる事は出来るけど、肉体的な成長をし続ける、というのはあまり無い。アナタがあった他の竜王も、大体は昔と同じ身長と体重をしている」
「なるほど。不老ってやつなのかな?」
「人間的に言うと、そう。成体になったら老化もあまりしない。子供の頃は、成長するけれどもね。……大人になっても成長し続けるラミュロスは、例外だと思って」
「おう、了解だ」
「うー、ボクもちょっとは節制しているんだけどー。ヘスティはボクに厳しすぎるような気がするよー」
ラミュロスの文句からヘスティは顔をそむけてケーキを食べ始める。
なんとも微笑ましい光景だ。
……しかし、俺はこの世界に来てからもう、五人の竜王と出会っているんだよな。
そして、確かにヘスティはこの世界に七人の竜王がいる、と言っていたはずだ。つまり、俺が会ってない竜王は、残り二人だけということになる。
「……なんというか、こうして思うと。俺、竜王と知り合いまくってるなあ」
「ん、そうだね。アナタの力は放っておかれないって言ったけど、やっぱり竜王も惹きつけられるから。仕方がない」
「そうだねえ。ダイチさんの力は空に居ても、感じられるレベルだったから。もしかしたら、残りの二人の竜王も、接触する機会を伺っているかもね」
「そんな伺いはいらないんだけどなあ」
俺は安穏に楽しく暮らせれば良いだけなんだからな。
最近は人狼たちや竜達、それに精霊たちの力もあるのか、モンスターの襲撃も少なくなってきて、どんどん過ごしやすくなってきているし。
「ま、竜王が来ても、問題を起こしてくれなきゃ、何でもいいや」
「はは、やっぱりダイチさんのそういう寛大な所、好きだなあ」
「そりゃどうも。寛大って言うか、普通なだけだと思うんだけどな」
生活環境の周りで騒動を起こさないでほしいってだけだしな。なんて思っていると、
「だ、ダイチ殿ー。いらっしゃるかー」
騒動の原因になりえる可能性その一――ディアネイアが来た。
「あ、良かった。ここにいらっしゃったかダイチ殿……って、そ、その。なんで悲しそうな眼で私を見つめているんだ?」
「いや、気にしないでくれ。あくまで、ちょっとした予感を抱いただけだから。で、何の用だ、ディアネイア? お茶でも飲みに来たか?」
「あー……それは嬉しいお誘いで、後々頂こうかと思うが、少し違ってな。私の要件はいつも通り、貴方に謝礼金を払おうと思って来たのだ」
そうして、いつも通りディアネイアは金の入った袋をテーブルに置いた。ただ、今回の彼女はそれだけで動きを止めなかった。
「それでまあ、この森の中を歩いてきたのだが……この庭の外縁で、ダイチ殿の家をじーっと見ている子供がいたのでな。知り合いかどうか、確かめに来たんだ」
「子供?」
「ああ、あちら側に居る筈だ」
言いながら、ディアネイアは、家の正門の方を見た。
俺達も釣られてそちらを見ると、そこには、
「……うう……」
小さな体躯をした子が、不安そうな顔でこちらを見ていた。
「……誰だ、あれ」
「さあ、私にも分からなくてな。ダイチ殿やサクラ殿の知り合いでは無いんだな」
「私は勿論知りませんね」
「サクラの知人でもない、と。なら、他の二人はどうだ?」
と、竜王二人に視線を向けると、彼女たちは眼をパチくりさせていた。
そして、庭の前の子供は、竜王二人と眼を合わせてホッとしたような息をついた。
「へ、ヘスティさん。ラミュロスさん。良かった。ここにいたんスね……。う、ウチを、た、助けてくださいッスー」
そのまま、こちらにふらふらと駆け寄ってくる。
二人の知り合いのようだが、一体誰なんだろうか。その疑問は、ヘスティの静かな呟きによって解決することになった。
「【半強】の竜王、ナギニ? なんでここにいるの?」
噂をすればと言うかなんというか。
どうやら、小さな竜王が、また迷い込んできたようだ。
お久しぶりです。せめて月一、出来れば週一で掲載していければと思っております。
そして、自分の執筆の勢いを付けるために新連載、始めました。
自分が育て上げた最強の武器少女を嫁兼相棒にして、いちゃいちゃしたり冒険したりする話です。
↓にリンクから飛べますので、お時間のあるときに読んで頂ければ幸いです。





