231.新たな増築と知識の収集
ディアネイアのリゾートから戻ってきて数日がたった。
久しぶりに家に戻ってきたという事もあってか、俺はいつも以上にだらーっと室内で過ごしていたのだが、
「我が家がここ最近で一番でかくなったな……」
その結果、自宅がこの数日で塔化した。
俺はそんな自宅を見上げるようにして庭に立っていた。
「そうですね! なんだかここ最近、張り切っちゃいましたっ!」
俺の隣でサクラは頬を染めながらにっこりと言ってきた。
別に大したことはやっておらず、普通に生活していたのだが、帰って来てからサクラのテンションが高めだった。
そのまま数日を過ごしていたらこうなったのだ。
「これまでで最高記録じゃないか?」
「はいっ! 私の家としての気持ちと精霊としての気持ちが燃え上がった上に、主様の力と合わさって形になって表れたんですね。主様の力、凄くて素敵でした……!」
サクラは上気した顔で、胸元を抑えながら言ってくる。
その表情は満足げだ。
「……まあ、うん。階層が増えた事は有難いことだしな。とりあえず、利用方法を考えるか」
そのために庭に出て来たのだ。
一応、地下に埋める、離れを作るなどの案は出ているが、未だ決まっていない。
現状、俺が住んでいる最上階からの眺めはとんでもなく良くなっているので、それはそれでいいのだが、高すぎる場所というのは落ち着かない時もあるし。
「……離れ兼展望台として別塔を作るのもありだな。うん、久しぶりに悩むけど、こういうのも楽しいな」
「ふふ、そう言っていただけるのは私としても有難いですね。では、主様が考えている間に、私はお茶を入れてきますね」
「おう、頼むわ」
そうしてパタパタと戻っていくサクラの後ろ姿を見ながら、俺は、家の形を考えていた。すると、
「わー、ダイチさんのおうち、凄い事になってるねー」
庭の方から、ラミュロスがふわふわと飛んでやってきた。
そして俺の横に降り立ってくる。
「ラミュロスか。珍しく空を飛んで、どうした?」
「うん、最近空を飛んでなかったからねー。リハビリ代わりに練習していたんだけど、そうしたらダイチさんのおうちが凄くでっかくなってるのが見えたからさ。……ちょっとその波動にびっくりして落ちちゃったけど」
体のあちこちに木の葉を付けているのはそのせいか。
「なんか悪かったな」
「いやあ、気にしないで。ボクの飛行技術がまだ戻ってないだけだからー。なかなか地上近くで空を飛ぶと体が重くてねー。力は戻ってきても前みたいに上手くいかないんだ」
「ああ、そういや、ラミュロスは基本的に飛んで生活していたんだっけか」
街の中心に派手に墜落してきたので、どうしても空を飛び続けているという印象が薄かったけれども。もともとは超高空を飛んでいる竜王だった。
「そうだよー。元々は空のダンジョンを管理したり、空気の薄いところでふわふわしてたんだ」
「空のダンジョンってどんな感じなんだ?」
「かなり安全な所だよ。ダンジョンマスターもいないしね。結構賑やかなものが多くて楽しいし。まあ、ちょっとスライムとかに食いつかれると大変だけど」
「ちょっと大変なことで墜落してきたのかよ」
「あはは……。いやあ、昔はもう一人、ふわふわ飛んでいる竜王がいたから、そこまで注意深くなくてもよかったんだけどねえ」
ラミュロスは空を見上げながら、懐かしそうに呟く。
「もう一人ってヘスティか?」
「ううん、違う竜王だよ。かなり新しい竜王で、ボクが面倒を見るついでにしばらく生活してから、地上の国で色々やることがあるから――っていなくなっちゃったんだよね」
「へー、そんな竜王がいたのか。……というか、いつも気になっていたんだけど、竜王って皆、共同生活みたいな事をしているのか?」
ヘスティとアンネのような関係が、ラミュロスにもあるんだろうか。そう思って聞くと、彼女は首をかしげた。
「うーん、新しい子の面倒を古い竜が見るのは、風習としてあるかなあ。ただまあ、竜王のなり方が色々あるからねえ。代替わりで世襲する竜もいるし。今話した子も、代替わりした竜王だしね」
「そうなのか。竜王の生態ってのは色々あって面白いな」
「わー。ダイチさんにそう言ってもらえると話をした甲斐があったよ。昔話とか、あんまり聞いてくれるヒトはいないからなあ」
そう言いながらラミュロスは嬉しそうにほほ笑んだ。
ここまで竜王について詳しく知れる機会は中々ないので、俺としても新しい知識が増えてくれて楽しいんだよな。
なんて思っていると、
「主様ー。お茶とお菓子出来あがりましたよー。今日は紅茶とアップルパイですー」
家の方からサクラの声が響いてきた。
そしてさわやかな甘いにおいが家の方から漂ってくる。
「うわあ……美味しそう」
その匂いに反応して、ラミュロスは腹を鳴らしていた。相変わらず食欲はおうせいらしい。
「でもまあ、ちょうどいいや。ラミュロス、時間があるならお茶でもしながらもう少し聞かせてくれないか?」
「え、いいの!?」
「おう、もっと竜王たちの事を知りたいしな」
「わあい、ダイチさんありがとー」
そう言ってラミュロスは俺の手をぎゅっと抱きしめて来た。ただ、その後で何かを思い出したかのように少し動きを止めた。
「――あ、でも、詳しい数値とか、データとかはヘスティに聞いてね。ボクじゃ色々抜けてる時があるから」
「自分で言うのか。まあ、確かに、ついでにヘスティを呼ぶのもいいな」
ヘスティがいるなら、色々と安心できるしな。
そうして俺は竜王二人とのお茶会ついでに、竜王講座を受けることになった。





