230.夜の花火の下で
コテージの前に作られた野外調理場は、いつも以上に賑わっていた。
空には魔女隊による魔法花火が打ち上げられ、その下では騎士たちが次々に焼かれる湖産物にかぶりついていた。
そんな光景を、俺はサクラと共に、コテージのベンチに座って眺めていた。
「賑やかだな」
「そうですねえ」
俺たちは既に腹いっぱい飲み食いしたのですっかり観戦モードだ。
コテージと食事場所とはそこそこ離れているので、うるさすぎる事もなく、程々の静けさで過ごせている。
「明日でこのリゾートでの日々も終わりだなあ」
「そうですねえ。ディアネイアさんは、来たくなったらいつでも言ってくれ、なんておっしゃってましたけどね」
その申し出は有難いのだが、一年分くらいがっつり遊んでしまったので、しばらくはこっちに来ないとは思う。
それに明日でここを立ち去るとなると、当然寂しさも感じるのだが、自分の家に帰れる嬉しさも強まっていたりする。
だからしばらくは家でまったりしているだろう。
「また、ウチの方ではよろしくな、サクラ」
「はい、全身全霊をもって、お世話させていただきます!」
「ありがとうよ。ああ、それと、今まで言い忘れていたけれども、この数日間、本当にお疲れさまだ、サクラ。調理だなんだと頑張ってくれて感謝してるよ」
ウチでは勿論だが、こちらに来てからもサクラには世話になりっぱなしだった。
釣りに行く時には食事を毎回用意してくれたし、取った魚の下処理だって普通にしてくれた。
泳ぐ時も、パラソルゴーレムの維持などを手伝ってもらっていたし、家にいる以上に世話になった感がある。
だから礼を言ったのだが、サクラはほほ笑みながら首を横に振った。
「いえいえ、主様が過ごしやすかったのであれば何よりですから。それに私も主様と泳いだり、ご飯を作れたりで楽しかったですし」
「そう言ってくれるのも有難いんだが……まあ、してもらいっぱなしってのもどうかと思ってな。こんなものを持って来てみた」
俺はそう言って、懐から一つの箱を取りだした。
その中には、桜色をした魔石貝の結晶で装飾した指輪が入っている。
「え、ええと、これ、は……?」
「頑張ってくれたサクラに、プレゼントをしようと思ってな」
「どうなさったんです、こ、この指輪? 以前、主様が入手した魔力の結晶がついているようですが……」
「この前、街でアンネが自作の指輪を売っていてな。ちょうど真珠っぽいものも手に入れていたってこともあったし。アイツから作り方を聞いて、俺も作ってみたんだよ」
先日まで竜の鱗の網を作っていたが、予想以上に早く作り終えた。
その後、手が開いていたので新しく作れるものがないか探していた時に、ふとサクラが頑張っている事を思い出したのだ。
……ヘスティやディアネイアにプレゼントをしたって話を聞いて、少し羨ましそうにしていたしな。
こちらに来てから一番世話になっているサクラに何も渡してない、というのはおかしい気がした。
それ故のプレゼントだ。
魔力の結晶という物の使い道が、他に考え付かなかったというのもある。
見た目は綺麗な真珠なのだし、だとしたら指輪を作りたいと思ったのだ。
「何度も練習して作ったから、それなりの形にはなっていると思うぞ」
こちらに来てから様々なものを作り上げて来たが、細かいものを作る機会は中々なかった。
その為、この指輪には一番時間をかけた。
かなり丁寧に仕上げたから、俺の主観では恰好悪くは無いものが出来た――気はする。
「けどまあ、でも俺のセンスはアレだからな。サクラが気に行ったら付けてくれよ。気に入らなかったらその辺にしまっておけばいい」
軽く言いながらサクラの手に指輪を置くと、サクラは驚いたような眼のまま首を横に振った。
「も、もちろん付けますよ! 気に入らないわけがありません……!」
「そうか。そりゃよかった。――って、サクラ?」
サクラは指輪を置いた俺の手ごと、自分の胸元まで持っていって、ぎゅっと抱きしめるように握ってくる。
「嬉しいです。本当に……!」
その顔にはとても嬉しそうな、それでいて泣きそうな笑みが浮かんでいた。
「……なんというか、そこまで喜んでもらえると、作った甲斐があったな」
「はい。本当にありがとうございます、私の、私の唯一の主様……! ……この指輪、大切に、心から大切にしますね」
「ああ、気にいってもらえたようで、何よりだよ」
花火の光の中で俺とサクラは静かに言葉を交わす。
そうして俺達は、バカンスのシメとして、ゆっくりとした時間を楽しんで行った。
というわけで、長くなったリゾート篇は終了です。
今までで最もまったりしつつ、さっぱり終えた話になりました。
次回からは新しい竜王が出たりして、少しだけ話の波が大きくなるかと思います。
今後ともよろしくお願いします!





