228.地を引くもの
騎士団の合宿所は、騎士たちが大声を上げて動いていた。
「第十波、来るぞ!」
「応!」
砂浜で盾や剣を構える彼らに飛びかかるのは、湖の巨大な水生生物たちだ。
「町に行く前にとにかく止めろ!」
「オッス!!」
一直線に飛びかかってくる魚は武装で撃ち落としていた。だが、
「ぐお……」
「クソ! 一人倒れたぞ! 回復魔法急げ!」
一体一体の体が巨大で、弾かれることも多かった。
「網! 網を仕掛けてる奴らはどうした――!!」
「駄目です隊長! 全部破られました!」
網で広範囲をカバーしようとしても、鋭利な肌や牙の前に斬り裂かれていく。
度重なる襲撃に対し騎士団は、個々人で対応していた。けれど、
「やべえぞ。このままじゃ、町のほうに行っちまう……」
限界が来ていた。
魚だけではなく、タコやイカ、カニなど陸地を歩き襲撃してくるものもいる。
対処が、間に合わなくなっていた。
「畜生、これは無理だ……」
「数が多すぎる」
そう、騎士が呟いた瞬間だった。
「――ああ、本当に数が多いな」
彼らの前に、樹木の巨人がやってきたのは。
●
俺は金剛を着込んだ状態で、砂浜に立っていた。
後ろでは数体のウッドゴーレムが、逃げ出したカニやタコの処理をしている。
「ディアネイア達もゴーレムに協力して、逃げているカニとかの対処を頼む。俺は元凶の貝をやっちまうから」
「わ、分かった。こちら側はまかしてくれ」
既に砂浜のほうに出てしまっている奴らはディアネイア達に任せて、俺は湖のほうを向く。
そして右腕にマウントしてある金剛杵を軽く回していると、
「ちょ、ちょっと、ダイチさん! そこから何をするの!? まさか湖を割るつもり?」
後ろからマナリルがあわてて声を飛ばしてきた。
「あん? 湖を割るって……そんなこと出来る訳ないだろ」
「い、いや、その魔石の杵の威力があれば、不可能じゃないと思うわ」
そうだろうか?
ただ、例えできたとしても、周りの被害がでかくなるからやる気はない。
「で、でも、そうだとしたら、砂浜からどうやって湖底の貝をやっつけるの? ダイチさんの不動だっけ? あっちのモードで砲撃でもすれば、届くかもしれないけれど……」
「考え方が色々と物騒だな、マナリル。でも、半分は当たりだ」
「へ?」
「――サクラ、金剛の左腕だけを不動の発射装置の変化させるから、調整頼む」
「了解です、主様」
俺は金剛の左腕を不動のものに換装する。
といっても、内部の機構を変えて穴をあけるだけなので、楽と言えば楽だ。
ほんの数秒で換装は完了する。
「あとは、射出装置に仕込むもの、と。――釣り具箱のゴーレム、こっちに来てくれ」
俺は背後にいた釣り具箱用のゴーレムを呼ぶ。
そしてゴーレムの中から、ずるり、と一本の巨大な網を取り出した。
「だ、ダイチさん、そ、その網はなに!? なんだか、その網に凄まじい力が籠められてるんだけど、もしかしてダイチさんが作った、とか?」
「おう。この前、ラミュロスの糸を組み合わせて作った投網だよ」
広げれば大きさ数十メートルになるであろう網だ。
その端っこには、ラミュロスの糸をより合わせて作ったぶっといロープが付いている。
網の目は粗く、普通の魚だったら逃げてしまうような出来だが、今はこれでいい。
更に網の端々には重り代わりに圧縮したゴーレムが付けてある。
小さいながらもしっかりした重みがあって良い感じだ、と思いながら、俺は網を発射装置に仕込んでいく。
「よし、これで発射準備はオーケー。――サクラ、貝の位置、分かるか」
「はい、くっきり知覚できます。ここから八十メートルほど沖合、そこの窪みに埋まるようにして、巨大な貝がいます」
「八十メートルなら、十分、射程内だな」
俺は左腕を湖に向けて構える。そして、
「ええ、ですから、――いつでもどうぞ、主様」
「おう。……竜王の網、発射!」
そのまま、思い切り、発射した。
丸く詰め込んだ網は、空中でばさっと広がり円を描いていく。そして、
「ゴーレム! 突き刺され!」
俺の魔法鍵によって、網の端にいた圧縮ゴーレムが順々に巨大化していく。
そのまま弾丸のような勢いのまま、湖底へと潜って沈んでいく。
「……主様。網のゴーレムが湖底にたどり着きました! しっかり根を張ったようです!」
数秒もすれば、ゴーレムは湖底にたどり着いたようだ。そして、
「ああ、良い感じに水生生物たちも、押さえこめたようだな」
先ほどまで湖面でバチャバチャやっていた水生生物たちは、俺が放った網とゴーレムによって押さえつけられている。もはや湖面で暴れる姿は無くなっていた。
「よし、あとは、金剛杵に網のロープをくくりつけて、と」
完成するのは、魔石の杭を芯に使った回転式リールだ。
網についたロープも頑丈にしてあるのでちぎれることはない。
……投網というより、地曳網ってやつになるのかな。
重り代わりになったゴーレムは、網と地面で獲物を押さえつけているだろうし。
まあ、どちらでも構わないか。
「今回は、最後まで気持ち良く過ごさせて貰いたいんでな。だからまあ、気持ちのいい休暇を邪魔する奴らは、これでまとめて引き上げるだけだ……!」
そして俺は、金剛杵を回転させ始める。
あとは、自動で上がってくるだろう。
俺が特に手を下す必要もない。
「これが金剛杵の、休暇バージョンの力だ……!」
そしてその浜には、凶暴になった水棲生物達が次々と水揚げされていく。
●
ディアネイアはその光景を見ながら、目をこすっていた。
先ほどまで騎士たちを跳ね飛ばしていた巨大な水生生物たちが網に絡まり、抵抗できず浜にうちあがっていく。
どんな抵抗をしても、網から逃れることはできない。
どんなに泳ごうとしても、ダイチの右腕によって巻き上げられていく。
慈悲なく、自動的に、機械的に、次々に巨大生物は浜に上がっていった。
「騎士団長。私は、魔法での漁を知っているのだが……これは凄まじいな」
「え、ええ、なんというか、これは漁というより、網によって捕食されているように思えますな」
二人がつぶやいている間にも、網はどんどん巻きあがっていく。
そうして最後に巨大な貝ががんじがらめになって上がるまで、ダイチの大規模漁は続いたのであった。
戦闘描写、長くなってスミマセン。漁も一種の戦いということで。
ともあれ、これでリゾートバカンス編の戦闘(?)は決着です。





