226.習慣の強み
昼間。
俺は水着姿のサクラと共に、サンドゴーレムを作りながら砂浜を歩いていた。
ただ、作りながらといっても手でこねて作っているのではなく、足跡の砂を盛り上げて人型にしている感じだ。
「主様、小型ゴーレムを沢山作っていますが、何かに使われるんです?」
「いや、これはゴーレムの作成方法をどこまで簡略化できるかっていう実験をしてるだけだな」
一歩を踏んで固まった砂を即座に小型ゴーレムとして組み立てる。今のところ、サンドゴーレムを一番楽な組み立てる方法がこれだ。
魔法鍵を使うよりも素早く、適当に作れたりする。
「しかも、こいつらは他の素材よりも組み立てやすいのが良くてな」
「ああ、ここの砂は、街近辺の土壌よりも魔力が濃いめですからね。主様の力があれば一瞬で従えることが出来るようですね」
「へー、ここの砂浜にもそれなりの力が籠っているのか」
俺は足元の白い砂を見る。
湖もそれなりの力が宿っているらしいし、それと接している砂が力を持つのは、当然と言えば当然なんだろうな。
……そういや騎士団長も『ここの砂浜は他の土壌と違って足に絡みついてくる感覚が強いので、いい感じに足腰を持っていかれるのですよ』とか言っていたっけ。
だからこそ合宿に使っているのだと。
俺からするとサラサラした感触が足裏に帰ってくるだけの、ただの砂にしか思えないが、やはり何か違うんだろう。
……ここでゴーレムの実験をすると色々分かって面白いからなあ。
俺は先日からサンドゴーレムを作る実験をしている。
樹木や土、水を素材にするのとはまた違った感触があるから、作り方ひとつを取っても、実験のし甲斐があるんだよな。
面白くて良い環境だ、と砂を踏みながら歩いていると、
「それにしても、主様は凄まじい勢いで進化してますね」
サクラがそんな事を言ってきた。
「え? なんだよ突然」
「いえ、魔力の含まれた砂をゴーレムの形に一瞬で成形し、操作するなど普通は考えられませんからね」
「あー、そこは完全に慣れの話になってくるけどな」
新機能をつけたり、顔を細かく彫るのであれば、時間を掛けて作るしかない。
けれども、外見を気にしないで人型にするだけなら、樹木や水を素材にゴーレムを作っていた時の感覚を活かせばいいだけ。
だから本当に簡単にゴーレム化できるんだよな。
「家の方で殆んど毎日やってきたことだし、作り方はもう習慣化しているからな」
「そうですねえ。日に日に様々な素材のゴーレムが増えていきましたからね」
なんて話していたからか、自宅を思い出した。
「なんというか、湖に来てそこそこ経ったなあ」
「そうですね。もう数日間はこっちにいますから」
「まあ、やりたい事をやりたいだけやるつもりで来たからなあ」
お陰でその望み通り、気ままにやりたい事が出来ている。
あとやっていないことと言ったら、湖面を泳ぎ回る事くらいか。
……いつでも出来るからと後回しにしていたからなあ。
ただまあ、泳ぐのは一度二度で十分だし、今日の夜までに満足はできてしまいそうだ。
釣り具の改良作成やサンドゴーレムの実験も、やりたい事として残っているけれども、それだって一日二日で終わるだろう。
「ふむ、考えてみると結構長く楽しんだし、明日か明後日くらいで帰ろうかね。良い休暇になったけど、やっぱり家が一番落ち着くし。家の布団で寝たい気分も増してきたしな」
枕が変わって寝れないという事は無いし、何が悪いという事でもないのだけれども。
家の枕の感覚が懐かしくなってくるんだよな。
「ふふ、家としてはとても有難いお言葉ですよ、主様」
「この言葉で喜ばれるのもなんか変な気持だけどな。――まあ、まだまだこっちで楽しむのは変わらないんだから、やり残しがないように一回泳いでおくか」
「はい! お供しますね、主様!」
そう言ってサクラは俺の手をぎゅっと握ってきた。
俺はその手を握り返して、さざ波が来る湖に向かう事にした。
こうして湖に来て数日目。
ようやくと言うべきか、俺は湖で普通に泳ぐことを楽しんでいった。





