225.アタリのアタリ
ディアネイア達と調理場に戻ると、サクラがエプロン姿で朝食を作っている姿が目に入った。
「あ、お帰りなさいませ、主様。それとディアネイアさんたちも。もうすぐ、朝食の用意が完了しますので、ゆっくりしてくださいな」
既に作り終えたものもあるようで、テーブルの上にはいくつもの料理が並んでいた。
「おう。早朝に引き続きありがとうな」
「いえいえ、私の趣味みたいな所もありますから。――っと、流石は主様、今朝も沢山釣れたのですね。煌びやかですし、凄いです」
サクラは俺の後ろを付いてきた生簀ゴーレムの中を見ながら言った。
「狙ってきらびやかにしたわけじゃないんだけどな。ともあれ、折角戻ってきたんだし、シメるなり、下処理なりを今しようと思うんだ」
「あ、ではお手伝いしましょうか?」
「いや、サクラはそのまま朝食を作っててくれ」
全部が出来あがるまであと数分くらいはあるだろうから、俺の方で出来るだけやってしまおうと思う。
それなりに釣れたといっても、大物はそんなにいないしな。
「あ、了解です。では、お手伝いできるように、ささっと作ってしまいますね」
そう言ってサクラが自分の持ち場に戻るのを見てから、俺は生簀から魔石貝を取りだす。
……とりあえず、一番目にコイツだよな。
今まで扱った事のないものから処理をしてしまおう。
一応生簀の中に付けておいたので、砂吐きなどはできている筈だ。
ただ、この貝の生態は未だ分からない所がある。
「ディアネイアー。魔石貝を料理する時に、何か注意しておくことはあるか」
だからテーブルの方に座っていたディアネイアに聞くと、彼女はこちらに歩み寄りながら答えてきた。
「えっと……この大きさの魔石貝に当てはまるかは分からないが、一般的な魔石貝は水場から出したら、出来るだけ早く貝殻と体を分離させた方がいいとのことだ。出ないと貝柱などが貝殻に強くくっついてしまう、らしい」
「なるほど。じゃあ、ナイフでささっとやっちまうか。ディアネイアはそっちのを頼むわ」
「う、うむ。……私の魔力程度で捌けるかは分からないが、とりあえずチャレンジしてみよう」
恐る恐る包丁を握るディアネイアの横で、俺は竜の鱗のナイフを魔石貝の口に突っ込む。
……活きが良いのか、薄らと口が開いてくれていて助かるな。
あとは口にそってナイフを動かしつつ、刃をてこのように使って殻を押し上げると、すんなり殻が剥けた。
意外と楽でいいな、と思いながらナイフを動かしていると、
――ガリッ。
と、ナイフの根元に引っ掛かる様な感触があった。
「……うん?」
貝殻は避けて刃を入れたのに何に引っ掛かったんだと思って、手で探ってみる。するとそこには、直径数センチほどの、丸っこいピンク色の球体が入っていた。
「なんだこりゃ」
手にとって見ていると、横にいたディアネイアが目を見開いた。
「そ、それは……魔力の結晶!? そ、そうか、結晶を作っていた個体だったのだな……! 相当なアタリだぞ、ダイチ殿!」
「アタリって……この魔力の結晶が入っている事がアタリなのか?」
「うむ、魔石貝はな、稀に体内で魔力を凝縮していることがあるんだ。そして、数十年間生き続けた魔石貝は、その他の成分も混じらせて魔力を結晶化し、普通の魔石ではありえない輝きを持つ貴重な物質を作り出す。――ただ、数十年単位で生きていないと、そんな結晶は出来ない。だから貴重で、アタリなんだ」
「これが貴重な物ねえ」
俺は指でその球体を掴んで見た。
ナイフにぶつかっても傷ひとつが付いていない。
……多少は堅いのは分かるんだけどな。
結構凄い物質だとは思わなかった。
「ああ、素材屋では殆んど取り扱っていないが、高級素材専門店などに、ほんのゴマ粒ほどのものが置かれていたのを目にしたことがある。国の予算レベルでないと手を出しづらい高値で取引されていた筈だ。厳重な魔法防護が掛かったケースに保存されていたしな」
「へー」
こいつは、真珠貝みたいな生態なんだな。
その考えで行くと、この魔力結晶とやらは真珠に相当するんだろうか。
見た目は確かにキラキラしているし、宝石と言われても頷ける。
「色もすげえ鮮やかだしな」
赤とピンクがきれいに混ざり合って、綺麗な色の輝きを見せていた。
貝殻もピンク色だが、この結晶はもっとピンクでしかも透き通っているような感じだ。
「ああ。確かに、私が今まで見てきた魔力の結晶よりも色が濃い気がするな。これも巨大化の影響なんだろうか……。というか、魔石貝だけでも貴重なものなのに、更に貴重なモノを見せられて心臓がバクバクしているよ……」
「普通に下処理しているだけで動悸を起こされても困るんだけどな」
ただ、中々面白い構造をしている物体を手に入れることができたのは事実だ。
「とりあえず、これは回収しておくとしてっと」
何かの材料になるかもしれないし、俺はその結晶をポケットにしまう。
「さ、メシが始まるまでに、ちゃっちゃとやっていくぞ。丁度いいし、朝飯用に何匹か焼くのもありだしな」
「あ、ああ、了解だ、ダイチ殿。焼き加減については任せてくれ」
俺たちはそのまま今朝の獲物の下処理と、朝食の調理を続けていった。





