224.現状の湖と新たな獲物
ルアーを再び湖に投げ入れてから、数時間。
俺はゴーレムのベッドでうつ伏せにながら釣りをしていた。
「ざ、斬新な釣りのスタイルだな」
「まあ、案外気持ちいいもんだぞ。横になりながら釣竿を持つってのは。ほら、ヘスティも真似してるし」
「んー、これはこれで、いい」
座りっぱなしの姿勢でいるのもなんだと思って、ベッドに変形するゴーレムを連れてきたのだが、意外と役に立つ。
昨日は早く眠った事もあり眠気は無いんだが、寝転がりながら湖を眺めるというのが純粋に気持ちが良かったりする。
「それに、この姿勢でも意外と釣れるしな」
「ああ、それは……そうだな。数十分に一匹ペースで釣っているものな」
ディアネイアの言うとおり、ゴーレムの生簀の中には金銀の魚や、宝石のような貝が詰まっていた。
こうして見ると本当に魚の入っている生簀なのかと疑問に思ってしまう程に煌びやかだ。
「というか、本当にピカピカしてるものしか釣れないんだけど、どうなってるんだ」
「さ、さあ、私は殆んど釣れていないので分からないが、ダイチ殿の腕が良いからじゃないのか?」
「ルアーをちょんちょん動かしてるだけで腕がいいってのは違うと思うぞ」
でも、ディアネイアやヘスティは、藻類を釣り上げたり、ゴミを釣り上げたりはしているものの、俺みたいな変なヒカリモノをひっかけたりはしていないんだよな。
「使ってる糸も竿も一緒なんだが、どうなってるんだ……」
「アナタが触れているものは、一応、強化されるからね。その辺の違いも、あると思う。使ってるものは一緒でも、機能が異なるとか、ありえる」
ヘスティはそんな事を言ってくるが、そうだとしたら俺はこの竿と糸だと、変な物しか釣り上げられない事になるぞ。
「……まあいいや。細かいことは置いておいて、今は適度に釣って、改良した糸の感覚を掴もう」
今回の目的は沢山釣るというよりは、道具のチェックと、朝はどんな獲物が釣れるかを確認することだ。
……今の所、違う獲物は魔石貝くらいか。
あとは変わらない顔ぶれだから、もうちょっと違う顔が見たい。そう考えながら俺が釣竿を揺らしていると、
「ふう、久々の水面ね――って、あら、ダイチさん? おはよう」
湖面にマナリルが出てきた。
「……違う顔だけど、うん。獲物じゃないよな、これ」
ラミュロスに引き続き、竜王を釣るところだったよ。
「え? な、なにかしら? どういう事?」
「あー、いやなんでもない。おはようマナリル」
「う、うん、おはよう、ダイチさん。それと、ディアネイアさんとヘスティも」
ちゃぷちゃぷと音を立てて、マナリルはこちらに上がってくる。
着用しているのは水着だが、ここまでしっかり濡れているとそこはかとなくエロく見えるな。
……背丈は小さいけれども、体のバランスは整っているしな。
ヘスティとはまた違ったタイプの小ささだよなあ、なんて思っているとマナリルはゴーレムの生簀に目をやっていた。
「うわあ、またこんな貴重な魚ばかり釣ってる! もしかして、ダイチさんは昨日から朝まで釣りをしているの?」
「いや、昨日は普通に寝て、今は朝釣りしてるだけだよ。こいつらもここ数時間で釣った奴だでな」
「……本当に手が早いというか、釣るのが早いわね、ダイチさん。こんな獲物取るのに、普通だったら何年かかる事か……」
マナリルの言葉にうんうんとディアネイアが頷いているが、釣れてしまったんだからどうしようもないだろうに。
「まあ、俺の事は良いさ。マナリルは湖の調査をしてたんだっけ?」
「そうよ。今、湖の方を確認してきてね。湖底付近に大きな水棲生物が多かったから。大物を狙うならそっちがいいかもしれないわ」
「湖底ってことは、水深数百メートルかあ……」
現状の装備だと厳しい所があるが、道具が用意出来たら狙ってみるかな。
そんなふうに彼女と喋っていると、周囲が明るくなってきたことに気付いた。
もう太陽が水平線から出始めている。
「さて、もう朝だし。軽く釣ったら、二度目の朝食行くか。マナリルも食うだろ?」
「え、ええ、そうね。じゃあお言葉に甘えて頂くわね」
「んでは、今からラストスパートってことで、ディアネイア、ヘスティ、それでもいいか?」
「ああ、了解だ、ダイチ殿」
「ん、頑張る」
そして、太陽が水平線の上に昇りきるまで、俺たちは数匹を追加で釣り上げた。
結局、変わった獲物は魔石貝だけだったが、面白い情報が手に入ったので良いとしよう。





